リコーとHOYAは7月1日、リコーによるHOYAのPENTAXイメージング・システム事業の買収について合意し、契約を締結したことを発表したが、同日夕刻、都内で会見を開き、リコーの代表取締役社長執行役員の近藤史朗氏ならびにHOYAの代表執行役最高経営責任者の鈴木洋氏が今回の契約に関する説明を行った。

握手を交わすリコーの代表取締役社長執行役員の近藤史朗氏(左)とHOYAの代表執行役最高経営責任者の鈴木洋氏(右)

HOYAの鈴木氏は、同譲渡の背景を、「PENTAXと統合して3年半。今の販売状況などを見ても、しっかりした事業に育ってきており、1つの区切りとしてリコーにPENTAX事業をバトンタッチする決断をした。カメラ分野は再編が続いていくべきだし、再編されていく事業だと思っている。今回の動きはそのさきがけの1つとなる」と説明したほか、「リコーと話がまとまって良かったと思えるのは、リコーがカメラのことを真剣に考えている企業であり、PENTAXの長い歴史とそれについてきてくれている強烈なファンを受け継いでいってもらえるということを感じており、嫁に出す感覚。ある意味ちょっとホっとしているが、せっかく育てた大事な事業なので、リコーには今後、大切に育てていってもらいたい」とリコー側のカメラにかける想いを酌んだ上での事業譲渡であることを強調した。

具体的な今後の買収スケジュールとスキームは、PENTAXイメージングシステム事業を引き継ぐ新会社をHOYAが吸収分割形式で設立し、その新会社の株式をリコーに譲渡するというもの。クロージング日は2011年10月1日を予定しており、事業譲渡に係る費用はまだ決まっていないが、非公開となる見込み。

買収の概要

ただし、HOYA側も内視鏡やニューセラミックスなどのライフケア事業、デジタルカメラ用レンズモジュールなどのDCM事業などで今後も「PENTAX」のブランドを活用し、リコーはデジタルカメラを中心とするイメージングシステム事業で「PENTAX」ブランドを活用するという2つの企業が同一ブランドを展開していくという方向性となる。

HOYAとリコーの両社でPENTAXブランドを共有して活用していく

これについて鈴木氏は、「どちらかがどちらかにブランドをライセンスするというわけではなく、PENTAXがHOYAからリコーに嫁に行ったという感覚で、これにより2社が親戚関係になったというイメージ。今後もPENTAXブランドの活用については、両社で最善の方向などを話す機会もある」とする。

リコーとPENTAXの2つのブランドでデジタルカメラを展開

今後、PENTAXブランドについては両社が協業する形となり、PENTAXブランドの強化に向けて歩調を合わせた取り組みが進むほか、「これを機にリコーとHOYAとしての新たな協業を模索していく。HOYAの光学技術は強いし、すでにいくつかの分野で協業できることを考えている」(近藤氏)としており、今回の買収が単にカメラ事業の強化を図るためだけに行われることではないことを強調する。

ただし、今回の買収をリコーが推進した最大の理由は「コンシューマ事業の確立を目指す」ということ。中期経営計画の際もコンシューマ事業に対する意欲を見せており、「コンシューマ事業の成長は長年のテーマ。今後のリコーの成長を考えると避けては通れない分野」としており、その背景について、「ネットワークの発展により、ホーム、オフィスといった垣根がなくなり、ワークスタイル、ライフスタイルが変化する。ナレッジワーカーは24時365日、どこに居てもネットにアクセスしてデータのやり取りをすることとなる。新規事業であるプロジェクタやビデオ会議事業は、すべてそうした部分につながる事業」とし、イメージング事業もそうしたネットワークとつながることによる相乗効果を見込むとのことで、「新会社にリコーのカメラ事業も統合する方針であり、もしかすると、ネットワークなどのアプライアンス製品などもそちらに統合していくかもしれず、新会社をコンシューマ事業を主に行っていく別会社として育てていく可能性が高い」とする。

そのため、「今回の事業取得は、リコーのカメラ事業と足してシナジーとするつもりではない。PENTAXのカメラについては、自分で画像処理能力やメカ設計力などを評価して、世界に誇れるものであると確証を得た。そこでリコーが一緒になって、世界に挑戦していくという決定をした。そうした意味では、リコーらしいカメラ、PENTAXらしいカメラという仕掛け方を今後も行っていく」と、デジタルカメラの製品ラインアップや機構を大きく変更するつもりはないことを強調。むしろ、今後成長が見込まれるレンズ交換式カメラの強化を中心に、商品ラインアップや交換レンズ群の拡充を図っていくとした。

PENTAXイメージングシステム事業の主要製品(左)とリコーのデジタルカメラ商品(右)。これらは今後もそれぞれのらしさを持たせたラインアップとして展開していくという

また、併せてコンシューマ向け付加価値事業の充実として、ネットワークの進化による写真のアーカイブや通信との連携などを図った新たな写真の楽しみ方の創出を目指すとする。

そのほか、PENTAXが持つ中判デジタルカメラなどを用いたイメージ・アーカイビング事業も東日本大震災を経て強い引き合いが起きており、参入を検討していくほか、マシンビジョンやセキュリティカメラ、センシングカメラなども今後進めていきたいとした。

「デジタルカメラ市場は数ではコンパクトタイプが圧倒的だが、金額ではミラーレスや一眼レフが2015年には市場シェアの50%を占めると予測されている。コンパクトタイプの未来はスマートフォンなどと競合していく。一方、写真本来の楽しみやカメラ本来の使い方はレンズ交換式の方にシフトしていくと見ており、今回、その分野を強化する意味も含めPENTAXを買収した。今回のタイミングは、ミラーレス機「PENTAX Q」の発表直後ということもあって、持参金をつけてお嫁に出してくれたような感じで申し訳ないという気もしているが、こうした2極化していくデジタルカメラ市場にリコーとPENTAXそれぞれで、しっかりとした製品を作ってユーザーに届けていくことで、新しい未来を切り開けるようになる。新しいリコーの未来をどうか期待してもらいたい」と、リコーとPENTAX双方の資産を投じて、世界に挑むことを強調。事業としても、3年程度で1000億円規模に育てたいとの意欲を示した。