日本の航空宇宙史100年を知る

国立科学博物館は10月25日、10月26日より2011年2月6日まで開催する「空と宇宙展 -飛べ! 100年の夢」の内覧会を開催、報道陣にも展示内容の公開を行った。

会場入り口では大きな看板が出迎えてくれる

国立科学博物館の理工学研究部科学技術史グループグループ長で、同展監修者である鈴木一義氏

同館の理工学研究部科学技術史グループグループ長で、同展監修者である鈴木一義氏が、「2010年は日本で動力飛行がなされて今年で100年となる記念の年。1910年12月の初飛行から、今日までの日本の航空宇宙の歴史を振り返る初めての展示会」と開催意義を説明する今回の展示は、それぞれの時代ごとにコーナーが分かれている。

入り口の一番近いコーナーは、日本の航空宇宙史におけるまさに第一歩となる黎明期、いわゆる「前史」の紹介となっている。「1783年6月にモンゴルフィエ兄弟が気球を飛ばしたが、翌年には、その情報は日本に届いており、西南戦争の折には、活用できないかと陸軍でも研究を行った」(鈴木氏)とするほか、二宮忠八が陸軍従軍中に動力を活用して人が飛ぶ「飛行器」を考案するも、陸軍に却下され、自主的に資金を捻出するために、大日本製薬の支社長にまで昇進。ようやく資金的なめども立ったところで、1903年のライト兄弟による有人飛行成功の報を聞き、「先を越されて悔しい」ということを綴った書簡なども展示されている。

また「自主開発力の開花」と題されたコーナーでは、1935年から1945年にかけての日本における飛行機の開発の初期の様子が見て取れ、ル・ローン空冷式回転星型7気筒50馬力エンジンの複製品や、実際に日野熊蔵陸軍大尉が1910年12月に飛行したハンス・グラーデ機のプロペラや、徳川好敏陸軍大尉が同じく1910年12月に飛行したアンリ・ファルマン機のプロペラなどが展示されている。

右がル・ローン空冷式回転星型7気筒50馬力エンジンの複製品で、左の2つのプロペラが、日野大尉と徳川大尉が実際に使用したプロペラ

その他のコーナーは第二次世界大戦後の日本の航空産業復活の道筋を示す1945年から1970年までを中心とした「再開した空へ」、1970年以降を中心とした「国際共同開発と新たな空に向けて」などとなっており、宇宙関連は「日本の宇宙開発の歩み」として構成されている。

同展は、江戸時代ころからの航空史から始まり、コーナーごとに分けられたような構成をしている。中央のメイン通路は、そうした100年前から、最奥にはやぶさの1/1モデルを眺めることができる作りとなっている

ペンシルロケットから本格的に始まった日本の宇宙開発

JAXA 宇宙科学研究所の阪本成一氏

日本の宇宙開発の本格的なスタートは、1955年の糸川英夫博士によるペンシルロケットの開発からといえる。実はペンシルロケットの実物は宇宙航空研究開発機構(JAXA)でも保有しておらず、国立科学博物館が所有しており、今回の展示会でも見ることが可能だ。高さは23cmで、「戦後、限られた物資、予算の中で、いわばジャンクなども活用してロケットの挙動を知るために作られたもの。私も思わず持って帰りたくなります」とJAXA 宇宙科学研究所の阪本成一氏に言わしめるもので、同じ場所に日本最初の人工衛星「おおすみ」の予備モデルも展示されているほか、L-4Sロケットの制御部なども展示されており、「実はJAXAが知らないものも展示されています」(阪本氏)とのことで、「話には聞いていたが、実際に見るのは初めてなものばかり」という評価を阪本氏は語ってくれている。

国立科学博物館が保有するペンシルロケットも展示

おおすみの予備モデル。実際に打ち上げられたものにはアンテナが搭載されている。ちなみに、1970年2月に実際におおすみの打ち上げに使われたランチャも同博物館の片隅に展示されているので、時間があれば見てくるのも良いだろう

ペンシルロケットから始まり、「はやぶさ」の打ち上げも行ったM-VやH-I、H-II、H-IIAなどの展示模型に加え、JAXA相模原より移送された1/1スケールのはやぶさも展示されている。ちなみに、このはやぶさの本体部分は「試験用に活用したもの」(同)であり、本物は燃え尽きてしまったが、忘れ形見として在りし日のはやぶさの姿を偲ぶことができる。

展示会場再奥に到達すると見えるのが1/1モデルのはやぶさとIKAROSの膜面

また、はやぶさ関連は特に力が入っており、川口プロジェクトマネージャのメッセージやこれまでの道程を詳細に掲載したパネルのほか、「はやぶさ2」に関する概要を動画で説明が行われていたり、電波方向探査システムが設置されており、実際にはやぶさのカプセルが発したビーコンの音を聞くことも可能だ。

さらに、サンプラーホーンの試験モデルや「ミネルバ」のフライトモデルバックアップやモータ動作モデル、ターゲットマーカーのプロトモデルなども展示されているほか、イオンエンジンの運用日誌なども展示されており、はやぶさの隅から隅までを知ることができるような構成となっている。

サンプラーホーンの試験モデルや「ミネルバ」のフライトモデルバックアップやモータ動作モデルなども展示。ちなみに、モータ動作モデルは実際に強い光が当たれば、実際にモータが回転している様子が見られるとのこと

なお、初日の10月26日から11月7日(11月1日は休館日なので注意)までは、ある意味おなじみとなっている「はやぶさ」の帰還カプセル関連の展示も行われている。今回の展示会にて展示される展示物は以下の4点

  1. インスツルメントモジュール
  2. 搭載電子機器
  3. カプセルのエンジニアリングモデル
  4. パラシュート

この内、カプセルのエンジニアリングモデル以外は実際に宇宙を旅して帰ってきたものとなっている。

はやぶさのカプセル関連の展示は11月7日まで

はやぶさのほか、2010年5月に打ち上げられ、12月7日に金星軌道に入る予定の「あかつき」やすでに膜面の展開をお伝えした「IKAROS(イカロス)」も関連品が多数展示されており、あかつきに搭載された500N級セラミックスラスタなどを見ることができる

展示会限定「はやぶさ」も販売

展示会の最後にはお約束の物販コーナーが設けられている。中でも注目なのは同展限定と銘打たれた青島文化教材社の"はやぶさ"の1/32スケールモデル。何が限定なのかというと、糸川英夫博士と人工衛星「おおすみ」のメタルフィギュアが付属するというもの。こちらのサイズも1/32スケールで、初期ロットとして500個を用意。価格は3150円で、担当者によると、10月26日からの2週間の売れ行きで増産するかどうかを決めるとのこと。

通常のはやぶさ1/32スケールモデルに糸川博士とおおすみが付いてくる会場限定モデル

また、同展の記念誌も2000円で販売されている。何故、目録ではなく記念誌にしたのかを販売担当者に聞いたところ、「中身が実際の展示物以上に詳細に掲載されているため」とのことで、より詳しく日本の航空宇宙史を知ることができる一冊となっているそうだ。

物販コーナーの中央に置かれているのが"はやぶさ"プラモと記念誌

このほか、ボックスアートの第一人者である高荷義之氏が描いた"はやぶさ"が大気圏に突入する最期の姿を描いたTシャツやクリアファイルなどを販売するコーナーやはやぶさなどが描かれたタグホルダーやオリジナルクロスを入手可能なガチャガチャコーナーなどが用意されている。

ガチャガチャコーナーのタグホルダー

同じくガチャガチャコーナーのクロス

物販コーナーの一角は高荷義之氏のオフィシャルイラストコーナーとなっている

なお、同展の開催時間は午前9時から午後5時まで(金曜日は午後8時まで)となっており、当日券は一般・大学生が1300円、小・中・高校生が500円、金曜限定ペア得ナイト券(男女問わず。午後5時から2名同時入場可能)が2名で2000円、水曜限定レディース券(水曜日の会館時間内)が1000円となっている。

快く記念撮影に応じてくださった科博の鈴木氏(左)とJAXAの阪本氏(右)。ちなみに、来場者へのメッセージとお2人に伺ったところ、鈴木氏からは「はやぶさの成果は100年前からの技術や知識の積み重ねによるもの。自分達で作ってきたからこその成功。そうした成果を次世代の人たちに見てもらいたい」とのコメントといただき、一方の阪本氏からは「技術開発の流れをすごく大切にした展示になっており、"はやぶさ"もそれだけで成り立ったわけではないことを知ることができる展示」とコメントをいただいた。歴史的に貴重な資料なども多数展示されているので、会期も2011年2月までと比較的長いので、航空宇宙史に興味がある人は覗いて見るのも良いかもしれない