クラウドコンピューティングは、システムに要するコストや手間を低減するテクノロジーとして注目を集めている。ただし、CA Technologies のサービス・マネジメント担当バイス・プレジデント、itSMF インターナショナル・エグゼクティブ・ボード・メンバーのロバート・ストラウド氏は「クラウドを導入した企業ではこれまで以上にサービス管理が重要になる」と訴える。今回、ITIL バージョン3 のプロジェクトにも携わった同氏に、「クラウドを効果的に用いるためのポイント」や「ITIL とクラウドの関連性」について話を聞いた。
不況下で注目される「サービスマネジメント」
同氏は、景気の低迷が続く今日、グローバルで「サービスマネジメント」に対する注目度が高まっており、「プロセスの自動化」と「仕様変更の管理」に対するニーズが増えていると説明した。こうしたニーズは飛行機の座席予約システムのような「セルフ予約システム」によって具現化できるという。
「セルフ予約システムでは、カタログを見て簡単に目的のものを選ぶことができる。バックエンドではITのプロセスが自動的かつ迅速に走っており、コンフィグレーションの自動更新や障害発生時のアラート送信なども行われる」
カタログはサービスマネジメントの要だが、「最近は、オンラインショッピングの普及などにより、ユーザーもカタログのコンセプトに慣れてきている」と同氏。
「カタログにおいて大切なことは再生可能なプロセスを定義して繰り返し使うこと。これにより、整合性のとれたデータを配信することができるようになる」
同社は、「サービスデスク・マネジメント」、「CMDB(Configuration Management Database」、「サービスカタログ」といったコンポーネントから構成されるサービスマネジメント製品を提供している。
同氏はサービスマネジメント製品のメリットとして、「セルフサービスの実現」「プロセスの自動化」「ナレッジマネジメントの管理」「システムの可用性の向上」を挙げた。
クラウド時代のIT部門はサービスコンポーネントの理解が必須
こうしたサービスマネジメントはクラウド時代においてますます重要性を増すという。クラウドを利用するようになったとしても、IT部門が安定したサービスの提供に責任を有していることに変わりはない。しかし、大抵のサービスはさまざまなコンポーネントから構成されており、「これが問題になる」と同氏は指摘する。
「End to Endで提供されるクラウドサービスは複雑だが、IT部門がこれらを構成するコンポーネントを理解していなくてはならない。IT部門は社内システムを熟知しているかもしれないが、それらと社外に出すシステムのマトリクスを連携させなければならないのだ」
さらに、「ユーザーは問題が発生した時に連絡するための"サービスデスク"を必要としている」と、同氏は続ける。サービスデスクの担当者はサービスのコンフィグレーションやコンポーネントの構成を理解していなければ、ユーザーから寄せられた問題を解決できない。また、サービスが停止した時は問題を解決するためのチームを立ち上げる必要もある。
こうしたことから、同氏は「クラウドや仮想化の普及とともに、サービスマネジメントの重要性はさらに高まる」と訴える。
同氏は、これまでとクラウド時代におけるサービスマネジメントの違いについては次のように説明した。「今までのサービスデスク担当者はデスクの前に座っているだけでよかった。しかし、クラウドを用いるようになると、サービスデスクではベンダー、サプライヤー、サービスレベルの管理なども行う必要が出てくる」
国内におけるクラウドの人気は言うまでもないが、マネジメントという観点からはあまり語られていないような気がする。ユーザーはサービスマネジメントの重要性を理解しているのだろうか? 同氏に聞いてみたところ、答えは「ノー」だった。
しかし、コンシューマーをターゲットとしたクラウドは「必ず動くこと」が前提とされているため、サービスマネジメントにおいては「クオリティ」が重要になるという。サービス全体のクオリティを測る手段がサービスカタログとなる。「クラウドサービスのクオリティはIT側の人だけでなく、業務側の人にもわかるように伝えなければならない。それには、レストランのメニューのように、価格や時間などのさまざまな要素から構成される選択肢を提供する必要がある」
クラウドの利用に有用なITIL
同氏は、ITILバージョン3のプロジェクトに、ITIL諮問グループの一員またITIL V3文書のリーダーおよび校閲者として携わったという経歴の持ち主だ。ITILはITサービスマネジメントのベストプラクティスであり、国内でも人気がある。ITILはクラウドを利用する際に何らかのメリットをもたらすのだろうか?
同氏は「ITILは今や日常業務に溶け込んでおり、いわば"New"から"Done"になってしまった」と前置きしたうえで、クラウドとITILの関連性について答えてくれた。
「サービスマネジメントはよいプラクティスが必要なので、ITILは役に立つと思う。また、クラウドの利用においては従来のサービスデスクの管理のほか、ベンダーやサプライヤー、需要を管理しなければならないが、そこで有益なのが"サービス・ポートフォリオ・マネジメント"だ。サービス・ポートフォリオ・マネジメントでは、"どのようなサービスを配信すればよいか"、"どのくらいのリソースを配分すればよいか"といったことを把握することができる」
IT業界の人間は"クラウドエバンジェリト"になるべき
最後に、日本の企業がクラウドを利用するにあたってのアドバイスをもらった。同氏は初めに、「企業はクラウドを活用すべき」とあらためてクラウドの有用性を強調した。そのためには、ベンダーをはじめとするIT業界の人間はエバンジェリストとして、クラウドの機能を十分に理解したうえで、クラウドが「何に適しているのか」「何に適していないのか」ということを明確にする必要がある。
2点目のアドバイスとしては、ビジネスユーザーが理解できる言葉やツールを用いることが挙げられた。「これまでは技術用語でITが語られてきたが、クラウドはコンシューマーをターゲットとしているため、ビジネスユーザーが理解できる手段を用いてコミュニケーションを図らなければいけない。例えば、サービスカタログのようなビジネスユーザーが理解できるツールを用いて、ユーザーインタフェースを確立すればよいのだ」
最後のアドバイスとして、同氏は「クオリティを管理すること」と話した。サービスマネジメントを通じて、「コンシューマーが期待するようなクオリティ」「ユーザーが対価を払ってくれるようなクオリティ」を確保していくというわけだ。
これまでは技術的側面から語られてきたクラウドコンピューティングだが、導入期に入ると運用に関するノウハウが求められることになるはずだ。クラウドサービスでは、自社では資産を持たずに外部のリソースを利用することから、運用の重要性はあまり注目されていないような気がする。ITの使い方も変わると、当然のことながら、運用の方法も変わることだろう。
クラウドサービスをすでに利用している企業、これから利用しようとしている企業は、クラウドサービスと自社の運用のあり方について検討してみる必要があるかもしれない。