アクセンチュアは10月21日、ビジネス・アナリティクスに関する記者説明会を開催した。これまでビジネスにおける分析を示す用語としては「BI」が一般的だったが、最近は「アナリティクス」が使われ出している。ここでは、同社が推進するアナリティクスの概要、アナリティクスがもたらすメリット、国内企業のアナリティクスへの取り組み状況をお伝えしよう。

アクセンチュア・ハイパフォーマンス研究所 エグゼクティブ・リサーチ・フェロー兼シニア・エグゼクティブ ジェーン・G・ハリス氏

初めに、アクセンチュア・ハイパフォーマンス研究所 エグゼクティブ・リサーチ・フェロー兼シニア・エグゼクティブ ジェーン・G・ハリス氏がアナリティクスの概要について説明した。同氏は、トーマス・H・ダベンポート氏との共著『分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学』、『Competing on Analytics: The New Science of Winning』の著者でもある。

同氏は、「アナリティクスは決して新しいものではない」と前置きしたうえで、アナリティクスとは、「データの活用、統計的・定量的な現状把握型分析と未来予測型分析、事実に基づいた管理を組み合わせることで、意思決定を促進すること」と説明した。

アナリティクスはスポーツの世界ですでに使われているとして、イタリアのプロサッカーチーム「ACミラン」の例が挙げられた。「ACミランは比較的年齢が高い選手が多いが、統計的分析を活用することで、健康かつ長い間プレイできるような調整を図っている」と同氏。

ただし同社の調査では、今のところ、企業の重要な意思決定の40%はデータや事実に基づいてではなく、直感によって行われているという結果が出ている。

現在、アナリティクスが注目を集めている背景には、「データ」「IT」」「需要」という3つの側面において状況が整ったことがある。データの面では標準化された外部情報が増加しており、ITの面ではITインフラと分析アーキテクチャが成熟してきており、需要面では顧客志向が高まっているという。

アクセンチュア・アナリティクスグループ マネイジング・ディレクター デイブ・リッチ氏

さらに同氏は「高いパフォーマンスを上げている企業はそうではない企業に比べてアナリティクス指向が高い」と指摘した。つまり、アナリティクスが企業の競争力を差別化する要因となりつつあるというわけだ。

同氏は、「アナリティクスの活用を成功させるためのコツは自社にとっての利益の原動力を見極めること」と教えてくれた。例えば、米国に本拠を置く家電量販店のベスト・バイでは、当初営業利益は顧客満足度に左右されると考えられていたが、アナリティクスを行った結果、社員の積極的関与が0.1ポイント向上するごとに営業利益が10万ドル上昇するということがわかった。

続いて、アクセンチュア アナリティクスグループ マネイジング・ディレクター デイブ・リッチ氏が、アナリティクスの具体的な活用方法について説明した。同氏は、部門ごとではなく企業全体の最適化が必要で、全社的かつ多機能的なアプロ-チが重要としたうえで、「ビジネスプロセスに洞察力を取り込んで意思決定を行う要がある」

また、同氏も「アナリティクスは新しいものではなく、今、アナリティクスが実行できるITインフラが整ったのだ」と述べ、「アナリティクスを活用するには、いかに情報を有用な形で経営者に提供できるかがカギとなる」というアドバイスをくれた。

アクセンチュアが提唱するアナリティクスの活用方法

アクセンチュア 経営コンサルティング本部 戦略グループ パートナー 秦純子氏

国内企業の状況については、アクセンチュア 経営コンサルティング本部 戦略グループ パートナー 秦純子氏が説明を行った。

同社では、アナリティクスは現状把握型分析から未来予測型分析にシフトしていくとしているが、「日本企業の多くはデータの収集は行っているが、分析ではなく、調査・報告の域にとどまっている。現状把握型分析の段階にいる日本企業が多いのが現状」と、同氏は話した。

アナリティクスを構成する現状把握型分析と未来予測型分析

同社は分析力を武器とする企業に成長するためのプロセスを、下から「ステージ1:分析力に劣る企業」「ステージ2:分析力の活用が限定的な企業」「ステージ3:分析力の組織的な強化に取り組む企業」「ステージ4:分析力はあるが決定打には至らない企業」「ステージ5:分析力を武器とする企業」に分けている。

5つのステップのうち、日本ではステージ1・2にいる企業が多いなか、ステージ3に取り組む企業が出てきているという。そうした企業の例として、同氏は「ローソン」「スルガ銀行」「NTTドコモ」「アスクル」「ロイヤリティ マーケティング」などを挙げた。

分析力を武器とする企業に成長するためのプロセス

例えば、ローソンではアナリティクスを活用して、品揃えや需要予測の改善に組織的・継続的に取り組んでおり、顧客の傾向を新商品の開発に生かしている。また、共通ポイントカード「Ponta」を運営するロイヤリティ マーケティングでは、複数企業の利用により顧客セグメントを管理し、参加企業において相互送客を実現している。

同氏は、日本企業におけるアナリティクスへの取り組みについて、「最初のドアが開くまでのハードルは高いが、取り組みが始まってしまえば、データに基づいて分析を行うアナリティクスは日本人の気質に合っていると思う。最初のハードルを越えるカギは、分析結果が示す事実と経験・勘とのギャップによる対立を経営者がバランスをとっていくことにある」と説明した。