早くからオープンソースモデルへの賛同を明らかにし、Linuxをはじめとしたオープンソースソフトを技術面/資金面で積極的に支持してきたIBM。そのIBMが一部のオープンソースコミュニティから攻撃されている。メインフレームエミュレータ技術に対し自社特許を主張したというのが原因だが、真相はもっと複雑な様子だ。

発端はフランスの小規模企業 TurboHerculesだ。オープンソースとして提供するIBMのエミュレータ技術「Hercules」を事業とし、「z/OS」が他社製ハードウェアで動くようIBMにライセンスを求めたところ却下された。その際、IBMは自分たちはzアーキテクチャに多大な投資を行っており、多数の知的所有権(特許)を有するとする書簡とともに、Herculesが関連する自社特許173件(うち、67件は申請中特許)の表を添えた。TurboHerculesはその後の3月末、欧州委員会(EC)に対して独占禁止法調査を申し出ている。

騒ぎが大きくなったのは、オープンソース活動家のFlorian Mueller氏がこれを取り上げたからだ。Mueller氏はIBMがTurboHerculesに送った問題の書簡を公開、IBMがリストした特許のうちの2件は同社が2005年にオープンソースコミュニティに提供すると約束した500件の特許に入っていることを指摘、「偽善」と攻撃した。

IBMは4月7日、ボードメンバーを務める非営利団体Linux Foundationの執行ディレクター Jim Zemlin氏を経由して、自分たちは2005年の公約を守っているとコミットを強調してみせた。

Mueller氏はそれでも攻撃の手を休めない。4月12日、同氏はTurboHercules宛の書簡に添付されていた174件が関係あると思われるオープンソースプロジェクトとして、「OpenBSD」「Xen」「VirtualBox」「Red Hat Enterprise Virtualization」「MySQL」「PostgreSQL」「SQLite」「Kaffe」を挙げ、今回の対立の構図を対オープンソースへと拡大して見せた。そして、コミュニティに対し、IBMの特許リストとオープンソース技術の関連について情報や調査を求めた。

Mueller氏の発言はかなり攻撃的だが、影響力の大きいオープンソース支援者Eric Raymond氏(「The Cathedral and the Bazaar(伽藍とバザール)」などの著者)もすぐに同意を寄せた。Raymond氏はブログで、「IBMの特許威嚇は大きな問題であるだけでなく、提供を約束したはずの500件の特許が入っていたことで状況がさらに悪化した」と記した。

一方、オープンソースと法律のブログGroklawは、Mueller氏の攻撃に冷静な分析を加えている。提訴しているのはTurboHerculesであること、そもそもHerculesがIBMの特許提供公約の対象になるのか、などの点を挙げている。さらには、TurboHerculesの共同設立者でHerculesの作者であるRoger Bowler氏とMicrosoftとの関係も指摘し、今回のTurboHerculesの動きの背後にMicrosoftがあることを匂わせた。

事実として、IBMは書簡を送っただけであって、特許侵害という文言はない。だが、この行為が特許威嚇と形容されたとしても、大げさすぎるとはいえない。翻って、IBMを攻撃する側はどうだろうか? Mueller氏は当初、「IBMのフリー/オープンソフトへの支持は、ビジネスの利益が絡むとなくなる」と攻撃したが、IBMは40年以上前からメインフレーム技術に投資しており、それを保護するのは企業として当然のことといえる。そして、オープンソースコミュニティはIBMのような大企業の支援が必要なのも事実だ。Linux FoundationのZemlin氏は冷静になるよう求めているが、事態はまだ収拾に向かっていない。議論の行く末が注目される。