理化学研究所(理研)および台湾中央研究院天文及天文物理研究所らによる研究グループは、数百から数千の銀河の集団である銀河団が、その外側に連なる銀河の大規模構造から物質が流れ込むことで成長している証拠を、日本のX線天文衛星「すざく」を用いてとらえることに成功したことを発表した。

銀河の大規模構造とは、宇宙を俯瞰した場合、銀河やガスが蜘蛛の巣のような構造をつくって存在している。これが宇宙の大規模構造であり、蜘蛛の巣の糸と糸が交差する結節点に、銀河団が形成されている。銀河団は暗黒物質の作る重力場の中に、高温ガスと無数の銀河が閉じ込められた、宇宙最大の天体。その質量の約85%は、暗黒物質で、残りの15%のうち約12%が高温ガス、約3%が銀河となっており、正体不明の暗黒物質を除く物質の4割ほどは、銀河団などに付随する高温ガスとして存在していることが知られている。

シミュレーションによって求めた、宇宙におけるガスの3次元分布。ガスが蜘蛛の巣のような構造(大規模構造)で分布している。糸と糸が交わる結節点(ガス密度が高い赤の部分)が銀河団(出所:2001年のアストロフィジカル・ジャーナル 558号に掲載された研究成果)

「すざく」は、従来のX線天文衛星よりも、薄く広がったX線放射に対して高い感度を持つため、銀河団の高温ガスが放射するX線を、従来より外側まで観測することが可能だ。そのため研究グループは、この特性を利用し地球から24億光年先にある「Abell 1689 銀河団」に付随する高温ガスを、外側の領域まで検出、銀河団の外縁部で、2,000万℃の高温ガスの中に6,000万℃の高温領域が存在することを発見した。

Abell 1689銀河団の高温ガスの温度マップ(ピンク)と周辺の大規模構造(紫)。紫は、銀河の密度が高い領域を示している。ピンクの白い部分ほど、よりガスの温度が高い。Abell 1689銀河団の左上方向で、銀河団と大規模構造がつながっており、その連結部分で、ガス温度が高いことが分かる

さらに、米国のアパッチポイント天文台にある2.5m望遠鏡を使って、全天の4分の1の領域の銀河やクエーサーといった天体のカタログを作成する大規模な観測計画「スローン・デジタルスカイサーベイ」の観測データから銀河の分布を調べ、Abell 1689銀河団の高温ガス分布と比較したところ、同高温領域から外側に伸びる銀河の大規模構造を発見した。大規模構造から冷たいガスが流れ込み、銀河団とぶつかるときに生じた衝撃波によってガスが加熱されたものと考えられるという。

また、高温ガスの分布を、すばる望遠鏡などのデータから観測した重力レンズ現象と比較した結果、高温領域のガスは、銀河団の質量と釣り合ってその場にとどまった状態にあり、そのほかの領域では、銀河団の巨大な質量を支えるために、ガスが流れを持って動いている可能性が高いことも分かったという。

なお、今後は、より多くの銀河団でX線・可視光・重力レンズ現象の観測を組み合わせた観測・研究が行われる予定で、理論やシミュレーションと比較し、宇宙の構造がどのように進化していくのかの解明につなげていきたいとしている。