IBMのBI製品「Cognos 8 シリーズ」は、世界の大手企業に幅広く利用されている。今回は同製品のイベント「IBM Cognos Performance 2009」のため来日したVice PresidentのEric Yau氏にIBMのBI製品の最新動向について話しを伺ったので紹介しよう。

米IBM Vice President, IBM Business Intelligence and Performance Management, Software GroupのEric Yau氏

「企業の業務改善のためにはあらゆる情報の分析が必要です」と語り始めたEric Yau氏。ERPをはじめとする、企業が採用してきた数々のITによって集積され続けている情報を活かすために、BIが注目されてきたのはみなさんもご存じのとおりだ。膨大なデータを保管しているだけでなく、その情報をかんたんに、そして上手く活用してゆくためにあらゆるBI製品が作られてきた。

「いま、世界には人口一人あたり10億ものトランジスタがあると言われています。世界は機能化しており、コンピュータだけでなく、自動車や病院などもネットワークでそれぞれが相互接続されているのです。また、情報を分析する能力も向上しており、インテリジェント化してゆく地盤は固まっているのだと思います」とEric Yau氏は語る。あらゆる方向から集まり続ける情報とそれを分析するテクノロジー。これを活かすことは企業にとっても大きなチャンスとなるのだ。

「小売り業では、業務の非効率によって年間400億ドルもの損失があると言われています。これをBIで最適化することによって59%減らすことができるという試算もあります」(Eric Yau氏)

これまで、企業の経営陣の意思決定は過去の経験則からくる「直感」や「勘」によって行われることが多かったが、現在の世界情勢を考えるとスピードが足りないのも事実だろう。それによって大きな損失を被ることは、企業にとって大きな痛手となりえる。

「これからは情報から何かを汲み取って意思決定するのでは遅すぎます。これから起こりえる事を予測し、それに対応できるよう素早く行動することが大切なのです」とEric Yau氏は語る。

意思決定と行動を最適化する「予測分析」

例えば、世界的に有名な大手ビールメーカーにCognosを導入した結果、製品計画サイクルをこれまでの3ヶ月毎から、2週間毎へと高効率化することに成功している。あらゆる情報を分析、予測することよって、めまぐるしく変化する市場に十分対応できるだけの力を持ったことになるのだ。

「これまで年に4回しか行えなかった新製品の開発を、26回も実施することが可能になったのです。不況による消費行動の変化や、トレンドの動向にも余裕を持って追従できるため、業績は大きく向上しています」とEric yau氏。

しかし、通常のBI製品ではここまでの劇的変化を起こすことは難しい。IBMが提唱するのは情報を自動的に整理するだけではなく、最適化を行い情報主導型による予測分析を取り入れるというスタイルだ。

「この予測分析には、SPSSのソリューションを用いています。すでに25万社以上に導入実績があり、企業が持っているあらゆるデータからパターンを見いだす数学的な分析能力には高い評価をいただいています」(Eric Yau氏)

予測分析を業務に活かすとはどういうことなのか? 例えばモバイル通信事業者ならば、キャリアの乗り換えを考えているユーザーが事前に把握できれば、そのデータを基にあらゆる手を打つことが可能だ。個人の好みや行動をパターン化し、潜在的に乗り換え率が高いと思われるユーザーには、来店時に別途サービスを提案するなどして対応することができるようになる。

また、実際には企業が集積している情報にはドキュメントやeメールをはじめとする非構造化データが多いが、これにはSPSSのコンテンツ分析で対応が可能だ。テキストマイニングとデータマイニングを用いた高度な統計分析と予測分析ソリューションを併せ持っているのは大きな魅力といえる。

こうした予測分析は企業が蓄積したあらゆるデータを多角的に分析し、独自のアルゴリズムを使って自動的にパターンを導き出している。「これまでのように自らが抽出するデータを指定するようなケースと違い、今まで気がつかなかったデータを見つけられる可能性があるのです」(Eric yau氏)。

SPSSの技術

「予測分析」は今後のBIのメインストリームになるというEric yau氏。「BIは『認識して反応する』から『予測して行動する』に移行してゆくでしょう。これを実現し、BIによって導き出されたスコアを見ながらユーザーと接するタッチポイントで実施してゆくことも大切です」とEric yau氏は語る。

IBMでは、これまでのエンタープライズ向け製品群に加え、中堅企業向けソリューション「IBM Cognos Express」を用意している。「この製品はよくある機能限定版ではありません。IBMのノウハウを注ぎ込み、中堅企業向けの機能を"追加"することで、最適なBIソリューションを提供しています」とEric yau氏。これまでBIに高い敷居を感じていた中規模企業にとって、導入しやすい機能と価格を実現したこの製品はまさに待ち焦がれたソリューションとなるはずだ。

「IBMはCognos、SPSSをはじめとするBI開発ベンダーを取り込むことによって、より多くのノウハウを蓄積し製品化することに成功しています」と、製品に自信を見せるEric Yau氏。今回のバージョンでは、柔軟でスピーディーな意思決定を可能にすべく、BIの活用を経営陣レベルだけでなく、現場のスタッフが活用できる新しい仕組みも構築している。

実際にデモ機を用いてCognosのコンソールを説明するEric yau氏。OfficeやGoogle Earthと連携させることもできる

それだけでなく、スマートフォンなどのモバイル機器でも、オフィスのPCと同じようなコンソールで情報を読み取れる機能をさらに強化する予定もある。「いつでもどこでも、タイミングを逃さず上手にデータを活用していただけるはずです」とEric yau氏も機能拡充に手応えを感じている。

開発中のスマートフォン向けインタフェース。既存のユーザーが戸惑うことのないよう、PCのUIに極力近づけることを大きなテーマに据えているという

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中堅企業向けソリューションの追加や、バージョンアップにより、従来のエンタープライズ向けソリューションも大きく改善された「Cognos」シリーズ。世界経済が不透明な今こそ、BIを活用して企業の業績をアップさせるチャンスの時代だといえるだろう。