東北大学は金属材料研究所の岩佐義宏教授の研究グループは、材料に電圧をかけて超伝導化する手法を改善、超伝導転移温度を従来の0.4Kから15Kまで40倍近く上昇させることに成功したことを明らかにした。

電圧をかけて超伝導を起こさせる方法は、従来の化学的方法とは異なるもので、2008年、同研究グループによって発明されたもの。有機物と無機物を貼り合わせ電圧をかけ、無機物側に電気を流す伝導キャリアを蓄積し、それを低温に冷却して超伝導を実現するというもので、同技術を用いると、元の物質が電気を流さなくても電圧をかけるだけで超伝導にできるため、超伝導物質探索の可能性が大きく広がることとなる。ただし、これまでの研究で用いられた材料は、少ない伝導キャリアの数で超伝導が現れる特別な例で、超伝導になる温度も、絶対温度で0.4Kと、極低温であった。

今回の研究では、イオン液体という特殊な有機材料を用いることで、伝導キャリアの数を増加させるとともに、新しい無機物質として層状構造を有する物質を用いることで、超伝導になる温度を、従来の0.4Kから15Kまで上昇させることに成功したというものであり、電圧による超伝導化という手法が広範な材料に適用できるものであることが示され、超伝導材料の開発に新たな道が開かれたこととなる。

具体的には、有機物と無機物を貼り合わせた面にできる薄い層(電気二重層)に伝導キャリアが蓄積されることとなるが、この構造は、半導体集積回路の基本素子である電界効果トランジスタに似ているため、「電気二重層トランジスタ」と呼ばれている。

電圧により超伝導を制御するための電気二重層トランジスタの素子構造の模式図(無機物と有機物を貼り合わせ、対抗するゲート電極から電圧をかけると、有機物の中のプラスの電荷を持つ陽イオンが配列し、それに引かれてマイナスの電荷を持つ伝導キャリアが無機物の内に誘起され、無機物は電気が流れる状態(ON状態)に変化。同研究では、有機物としてイオン液体、ゲート電極として白金線を用いている)

今回の研究のキーポイントの1つは、イオン液体と呼ばれる、室温で液体の状態をとる塩を導入したこと。イオン液体は、有機物の正イオンと負イオンからなる新規な液体として、リチウムイオン2次電池、スーパーキャパシタなどの蓄電デバイスのほか、燃料電池、有機太陽電池などの分野への応用が期待されているもので、これを新たに取り入れることで、伝導キャリアの数が、電界効果トランジスタの10倍以上、2008年に開発された電気二重層トランジスタの数倍と、大幅に上昇させることができた。

無機物質として用いた層状塩化窒化物の結晶と、その素子構造(左側の枠内は結晶構造の模式図。雲母と同じく層状の構造をしているので、スコッチテープを使って簡単に薄くはぐことができる。この方法で厚み20nm程度、原子スケールで平たんな表面を有する薄膜結晶を作製。右側はナノテクノロジーを用いて、電気抵抗測定を行うためのリード端子を作製した薄膜結晶の、光学顕微鏡写真)

このため、超伝導化するのに必要なキャリア数が大きい材料に、同手法を適用することが可能となったことから、今回は、無機材料として、平らな結晶表面を用意しやすい塩化窒化物という無機の層状物質を用いた。この結晶表面をイオン液体と接触させ、素子構造を作製。用いた無機物質の結晶構造と、薄膜結晶にナノテクノロジーの技術を用いて端子を作製、イオン液体を接触させることで電気二重層トランジスタを構築した。

同素子のゲート電極の電圧を大きくしていくと、電気抵抗の高かった層状物質の抵抗が低下、温度の低下とともに電気抵抗が小さくなっていく金属的な伝導が実現された。また、電圧が3.5Vを超えるあたりから超伝導の形跡が現れ始め、4.5V以上で、電気抵抗がゼロになる超伝導が実現された。

これらの測定後、ゲート電極にかけた電圧を0Vに戻すと元通り電気抵抗の高い状態に戻ったことから、このように電気抵抗の高い絶縁体の状態から電圧を変化させるという電気的な手段だけで、抵抗の全くない超伝導へのスイッチングが実現されたこととなる。

層状物質、塩化窒化物のゲート 電圧による金属化と超伝導転移(ゲート電圧を大きくすることで、電気抵抗が減少し、温度とともに抵抗が上昇する絶縁体的な振る舞いが、温度とともに抵抗が減少する金属的な振る舞いへと変化する。最終的に、絶対温度15Kで電気抵抗が突然激減し、超伝導になる)

同研究により、電圧をかけるだけで超伝導を実現する手法が、一般的な物質に適用可能であることが明らかになった。そのため、今後はこの方法をさまざまな物質に適用して、従来化学的な合成法では超伝導にならなかった物質を超伝導化したり、より高い超伝導転移温度を持つ新材料を実現できる可能性が出てきたと同研究チームではしている。