デザインの意図を、色、文字、配置の3要素で表現

+DESIGNING 』編集長の小木昌樹氏

「グラフィックデザインには必ず意図があります。決して漫然と行われているわけではありません。"単にこちらのほうがきれいだから"と、感性だけで作業を進めているとお思いでしたら、それは大きな間違いです」

上記は、「美しく使いやすい帳票」を作りあげるためのヒントを得るべく、グラフィックデザイナー向け専門誌『+DESIGNING 』の編集長を務める小木昌樹氏に、デザインの基本について聞いたときの氏のコメントである。

+DESIGNINGは、広告や雑誌を中心としたグラフィックデザインのノウハウを解説する定期刊行誌。デザインの事例やテクニックを深く掘り下げる数少ない専門誌として、多くのデザイナーから支持されている。セミナーやワークショップも定期的に開催しており、氏はそこでの講師を務めることもある。

その"デザインの専門家"である小木氏がデザインについて説明するうえで最初に強調したのが「意図」である。意図が明確になって初めてデザイン作業が進められる。何をだれにどう伝えるか。このあたりを決めることが大前提だという。

「そのような意図を"色"、"文字"、"配置"の3要素を使って表現するのがグラフィックデザインという仕事です。この3つを少し変えるだけでも、見やすさ、伝わりやすさは大きく変わってきます」(小木氏)

デザインは感性によるものと思われがちな部分であり、顧客から提示された仕様に疑問符が浮かぶような箇所も、それを指摘するのはなかなか難しい。しかし、その本質は、本来の意図を3つの要素で表現するという、極めてシンプルで論理的なものであり、その表現方法にも基本があるということがわかれば、臆することなく指摘できるようになるはずである。

そこで、『ジャーナルITサミット - 2009帳票開発』では、小木氏に「明日から帳票開発に使えるデザインメソッド」と題するセッションをお願いしている。デザインの基本やテクニックはそちらで学んでもらうとして、本稿では氏から聞いた特徴的な話をいくつか紹介しよう。

素人デザインに最も多い失敗例「強調」

小木氏によると、素人によるデザインで最も多い失敗例が「強調」だという。

目立たせたい部分の文字列を太字にして、下線を引いて、影までつける。そんなレポートをよく目にするが、「これでは強調に強調に強調を重ねたかたちになり、かえって見づらくなったり、ほかとの調和がとれなったりすることもある」(小木氏)ようだ。

一方、プロのデザイナーが強調に対して意識しているのは「ジャンプ率」である。ジャンプ率とは、文字の大きさの違いのこと。彼らは、強調の際に、通常の文字と比べてどの程度大きくするのかを真っ先に考えるのだという。

「メインのタイトルをどれだけ目立たせるか。見出しに相当するものにどの程度重みを持たせるか。そのあたりを考慮しながらジャンプ率を調整し、全体として伝わりやすいデザインに仕上げていきます。」(小木氏)

もっとも、上記はあくまで基本の話。デザイナーによっては特殊な"仕掛け"を好む人もいる。通常であれば見づらくなる表現方法なのに、計算しつくされた紙面の中で使われるとそれがうまく強調の役割を果たすこともある。こういった部分にデザインの奥深さがあるようだ。

「"大きくするだけが強調の手段ではない"と言うデザイナーはたくさんいます。色や書体を常識からは外れる組み合わせにすることで目立たせる方法もありますし、強調したい部分をあえて小さくして注意を引き付けるという方法もあります。帳票とは直接関係ないかもしれませんが、こうしたテクニックがあることを知ると、グラフィックデザインを見る目が変わってきて面白いのではないでしょうか」

余白を変えるだけでも、伝わりやすさは大違い

一般ユーザーの目に最もよく触れる帳票と言えば、請求書および領収書だろう。

コンシューマー向けの事業を展開している企業などでは、請求書や領収書に盛り込まれる情報量が年々増えており、なかにはお買い得情報欄などを設け、広告のような役割を持たせているものもある。しかし、そうした請求書/領収書の多くは、素人目にも雑然として映るものばかりで、印象に残らないどころか、肝心の明細行に目がいかないことも少なくない。

そのような雑然さを改善するうえで有効なのが「配置(レイアウト)」の変更である。とりわけ、余白というものを中心に考え直すとうまくいくことが多いようだ。

「クレジットカードの請求書などは、紙面全体にびっしりと文字や絵がつまっていることが多いですが、情報掲載スペース全体を小さくして余白を多めにとってみると、だいぶ印象が変わってくると思います。デザイナーの中には『平面デザインとは、余白をどうデザインするかである』という人もいます。この場合、デザインを"足し算"ではなく、"引き算"で考えていくことになりますが、そういった発想法を身に付けると世界観が変わるかもしれません」

例えば、真っ白の紙の上にメインとなる要素を1つ置く。すると、残りは余白になる。こうして生まれた余白に対して、どの要素をどのように置いていき、余白をどの程度残すかを設計していく。こうした考え方が余白デザインになる。

最初は全面にあった余白を徐々に削っていくという作業はまさに"引き算"になる。システム開発の世界ではあまり馴染みのない考え方かもしれないが、応用できる場面はありそうだ。

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講演では、そのほかにも「現在のグラフィカルデザイン業界で最もホットなトピックスの1つ」(小木氏)というUD(Universal Design)フォントや、人間の視線の流れなどにも触れていく予定だ。

帳票は、開発者が手掛ける仕事の中で、その成果がエンドユーザーの目に直接触れる数少ないパートの1つ。それだけに、顧客が提示する仕様の悪い部分を指摘し、美しく使い勝手の良いインタフェースを提案できたら、ユーザーの満足度は大きく変わってくるはずだ。

今回の講演は、そのための基本を知ることができる貴重な機会。披露されるのは、通常のITセミナーでは決して聞くことができない話ばかりである。プレゼンテーション資料の作成など、帳票開発以外でも役立つノウハウも多数盛り込まれているので、ぜひ期待してほしい。