スイス・ジュネーブで開催された「ITU Telecom World 09」で10月5日、オープニングの公開討論が行われた。経済回復の兆しが見える中、ICT業界の発展と重要性を確認しあうとともに、セキュリティや知的所有権などの課題、気候変動問題などが指摘された。
国連組織のITUのイベントであることから、ITU Telecomには政府や規制関係者が多数参加する。このオープニング討論は、ITU Worldおよび業界全体のアジェンダを決定するものと位置づけられている。
この日、ITU事務総局長のHamadoun Toure氏、スペイン産業観光商務相のFrancisco Ros氏、世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長 Francis Gurry氏、Cisco Systemsの会長兼CEO John Chambers氏、Ericsson次期CEO(現CFO)のHans Vestberg氏が参加し、ITUチェアマンでeDevelopment InternationalのCEO兼会長 Reza Jafari氏がモデレータを務めた。
ICTが世界を不況から救う!?
今回の経済危機とICT業界について、Toure氏は自信を見せる。「食糧、気候、経済など、われわれを取り巻くさまざまな問題や危機があるが、ICTは問題の一部ではない。問題を緩和/解決する対策の一部だ」とToure氏。
業界はこれまで経済危機に耐えており、過去5年間の新規雇用の3分の2がICT業界から生まれたとした。「ICT業界の中核となるエンジンは人間の知識、イノベーションだ」とToure氏。ICT業界は当初、人間の基本的なニーズであるコミュニケーションや情報へのアクセスを提供する技術として生まれたが、情報を利用するだけでなく、情報を生成し、共有するようになった。そして「情報社会から、将来はナレッジ社会に移行する」とToure氏は述べ、業界には引き続き大きなチャンスがあるとした。
2002年のITバブル崩壊時に対比し、「今回の経済危機では、ICT業界は外部者であるだけでなく、世界を危機から救うことができると信じている」とToure氏は強調した。
そのICTに、スペインは国家として積極的に取り組んでいる。Ros氏は、ICTへの積極投資は効果を生んだと報告する。スペイン政府は数年前にICTの重要性を認識し、投資を開始した。最初の取り組みが、ブロードバンドのカバレッジだ。その結果、ヘルスケア、教育、政府などで先行したという。同国は2005年から2010年で総額80億ユーロをICT、情報社会の開発に投資し、強い土台を築く計画を進めているところだ。「企業がうまれ、成長し、さらには国外に拡大している」とRos氏。
政府が技術を理解しなければ、すべてが手遅れになる
業界の大きなトレンドであるモバイルについて、EricssonのVestberg氏は、LTEなどのモバイルブロードバンド時代を予言し、「"Social Highway"がうまれる」と述べる。
Ericssonでは、2020年には500億台の端末がネットワークに接続すると見ている。これを土台に、「ヘルスケア、教育などさまざまなアプリケーション、さらには予想できないようなものが生まれるだろう」とVestberg氏。これらコンテンツやアプリケーションは、その国、その地域で開発される。携帯電話が経済成長に貢献することは実証されており、モバイルがブロードバンド(Social Highway)になると貢献度はさらに高くなる。そこで重要なのが「業界標準と良い規制」とVestberg氏。例に挙げたのがGSMだ。「GSMは規模の経済を生んだ。将来もこのような標準が必要」と述べた。
Vestberg氏は課題として、セキュリティ、コストなどを挙げ、セキュリティでは政府、企業、組織などすべての関係者が協業する必要があるとした。
CiscoのChambers氏は、国連と組んで展開した「UN Academy」をはじめ、複数の官民プロジェクトに取り組んだ経験からベストプラクティスを紹介した。成功したプロジェクトで共通していることは、
- 長期的に何を目指すのか、何を得るのか、到達するのかの戦略立案
- マルチフェーズ、複数年のアプローチ
- 役割と責任を明確にすること
- プログラムマネージャを置き積極的にコミュニケーションを図る
- これらを統括するリーダーシップがあること
などだ。
「政府は技術を理解する必要がある」とChambers氏。規制によりどのような事態が生じるのかを考慮しないと、手遅れになることもあると警告する。
スペインのRos氏は、リスクとして、知的所有権、サイバーセキュリティ、インターネットガバナンスなどを挙げる。「ネットワークはグローバルで、リスクもグローバル。全員が合意してリスクを軽減する必要がある。遅れると大変なことになる」と呼びかけた。
コンテンツオンライン化時代の問題を提起するのは、WIPOのGurry氏だ。「2008年、400億もの音楽ファイルがインターネット上で違法に共有された」とGurry氏、どうやって21世紀のデジタル環境で文化、文化の創造を財務的に支援するか、収入を得るのかを考えていく必要があると強調する。
違法ダウンロード問題ではこれまで、エンドユーザーに責任を問うアプローチがとられているが、これでは問題の解消にはつながらないとGurry氏。もう1つのアプローチがISPで、フランスなど欧州を中心に議論されている。
「イノベーションへの投資を中央化すると同時に、イノベーションが生むソーシャルベネフィットが分散される、この仕組みが必要」とGurry氏は言う。
気候変動については、CiscoのChambers氏は、「出張などの旅行費用を7億5,000万ドルから2億3,000万ドルに削減した」と報告する。さらには、ICT業界は、自社が対策を講じるだけでなく、スマートな交通管理のようなツールを生むこともできる。
ICT業界のCO2排出量は2.5%程度といわれている。ITUのToure氏は、「気候変動は安全に並び最重要課題で、世界的な合意が必要。各国が基本的な振る舞いで合意する必要がある」と警告した。




