Google Developer Day 2009でのDev Phone無料配布、そしてNTTドコモから国内初のAndroid端末が発売される事が決定するなど、Androidへの注目は日増しに高まるばかりである。

6月26日には、日本におけるAndroidの普及と発展を図る団体「日本Androidの会」の総会「Android Bazaar and Conference (ABC)」が開催された。午前の基調講演でもGoogle、NTTドコモ、KDDIと言ったAndroidの主要プレーヤから豪華なゲストが招かれ、立ち見が出るほどの大変な盛り上がりを見せていた。

この記事では、筆者が出席したセッション「Androidのオープンソースアプリ戦略」の内容を紹介したい。

Androidのオープンソースアプリ戦略

GClue 代表取締役の佐々木陽氏によるセッションは、「Androidのオープンソースアプリ戦略」と題され、オープンなプラットフォームであるAndroidの強みと、その上で収益化を目指すアプリケーション開発を行うためには「オープンソース」といかに付き合うべきか、を示唆する非常に興味深い内容であった。

同氏は、事例としてまずCHINA MOBILEの「OPhone」を紹介。OPhoneは、「iPhoneに見た目がそっくりのAndroidアプリ」として話題になっているが、そうした表面的な事柄だけではなく、Androidの活用事例として非常に注目に値するプロダクトである。

OPhoneのソフトウェアスタックは、全体的に見れば純粋なAndroidの構成を踏襲している。Linuxカーネル、ライブラリとAndroidランタイム、そしてJavaによるアプリケーションフレームワークだ。

しかしOPhoneは、以下に挙げるような大胆なカスタマイズを数多く施す事で、Androidをそのまま利用した端末に対して大きな差別化が図られている。

  • テレビを視聴可能な上、アプリケーションフレームワークから制御するためのAPIも持つ
  • WAPのサポート
  • 電子書籍の閲覧機能
  • Dalvik VMだけではなく、標準のJava VMも搭載
  • Webkitの独自ビルドを搭載(これによりHTML5の最新実装が扱える)
  • 3Dエフェクトが施された美麗なアプリケーションランチャー

さらに、こうした大胆なカスタマイズの影響を感じさせる事なく、携帯電話として求められる品質要件を十分に満たすため、Linuxカーネルに対しても完全なチューニングが施されているという。

OPhoneの内部構造(セッションのスライドより引用)

ここでのポイントの一つは「オープンソースライセンス」だ。

Androidのソフトウェアスタックは、上位部分はほとんど全てApache Software License Version 2で占められている。同ライセンスは縛りがゆるく、商用のクローズドなコードともうまく共存できる。これにより、差別化を図るために作り込んだ独自のコードに関しては公開する義務が生じないため、競争力の維持に役立てる事が出来る。

Androidを構成するコンポーネントのライセンス(セッションのスライドより引用)

そして同氏が取り上げたもう一つの事例が、同氏が手がける「Droidget」である。

Droidgetは、Webkit上で動作するウィジェットプレーヤー。様々なウィジェットを1クリックでダウンロードし、画面上に貼付けられるだけではなく、ウィジェットの状態がサーバを介して同期されるため、Androidで操作した結果が別の端末(ネットブックなど)にも反映される。

Droidgetを操作中の画面

また、Droidget上で動作するウィジェットを集めたマーケットも独自で構築する予定だとの事である。

この事例におけるポイントは、Droidget自身は他のアプリケーションを動作させるためのミドルウェアだという事である。こうした、コンテンツ流通のプラットフォームとなるミドルウェア部分も含めてビジネス戦略を立てられるのは、全てのソフトウェアスタックがオープンになっているAndroidならでは。iPhoneの場合はプラットフォームがオープンではないため、ビジネスの対象となるのはどうしても「コンテンツ」や「アプリケーション」だけになりがちだが、Androidにはより多くのビジネスチャンスが潜在している可能性があるという訳だ。

佐々木氏は、「オープンとクローズのバランスが重要」だという事を指摘してセッションを終えた。ミドルウェアやライブラリはオープンソースにする事でより多くの開発者を引きつけ、シェアを高める事が出来るが、差別化や模倣の抑制が重要となるコンテンツ部分では、ソースをクローズに保ち続ける事も重要。合わせて自社の規模や状況なども考慮にいれ、オープンにするかクローズにするかを判断する。

まとめると、OPhoneのように、Androidとしての互換性を保ちつつ個性的な端末を開発できる事や、ミドルウェア以下のレイヤも含めてビジネスの対象領域に出来る事は、Androidがオープンで中立なプラットフォームであるからこそ実現できる事である。そして、基本となるソフトウェアスタックは全て提供されているので、企業としては独自の価値を創造するという点だけに注力する事が出来る。その際、Androidを構成するオープンソースライセンス上、競争力を維持するためにソースをクローズにするという決定も問題を生じにくい。

そして、何となくAndroidとは距離を置いてきた筆者も、プラットフォームとして成功は間違いないと確信させられたセッション内容であり、聴講者の熱気も素晴らしいものがあったという事を付け加えておく。

執筆者紹介

白石俊平(SHIRAISHI Shunpei) - あゆた 取締役


最新のWebテクノロジーを中心に、執筆・開発活動を行っている。他の主立った活動としてはGoogle API Expert、Japan Java User Group幹事、edge2.cc(クラウドアプリ開発の実証プロジェクト)主催など。著書に「Google Gearsスタートガイド」(技術評論社)がある。ちょっと変わった活動として、「読書するエンジニアの会」も主催中!