-- 日本がSOA導入にユニークなポジションにあるという話だったが、逆に移行の課題はあるのか?

まずは非常に予算を食うメインフレームの存在だ。使える資金が少なくなることを意味する。21世紀の政府の基盤インフラと考えてもらえればいいだろう。もし政府がSOAに予算を投入できるのであれば、道路や新幹線のようなものとして機能することになる。欧米では現在、どのように政府のITシステムをやりくりし、予算を確保するかの試みが動き始めている。

先進国の中でも「日本とドイツはとくにメインフレームがレガシーとして多く残っている」とRada氏

2つめの問題がアイデンティティ(認証)だ。技術的な話ではなく、政府のポリシーの問題となる。簡単にいえばオンライン上で個人をどう識別するかということだが、立法府が問題をどう扱い、どのようにシステムに落とし込んでいくのかが鍵となる。日本では住基カードがすでに存在するが、これをどのようにシステムとして実装し、予算の範囲内で個人IDを管理していくのかを考えるのは非常に難しい※。

事情は国によって異なる。たとえば日本では個人の識別に住所が重要となっているが、他国では必ずしもそうではない。これは非常に興味深いことであり、制度と実装、そして個人情報の取り扱いに関する問題となって立ちふさがる。

技術的な視点でいえば、市内共通のIDを用意するのが一番抵抗が少ないのではないかと考える。たとえば京都では多くの旅行者が訪問しているが、共通IDの発行で市民に必要十分なサービスを提供することで、旅行者との差別化が可能になる。システム自体が税金でできているものであり、ごく自然な流れだ。バルセロナ、ベネチア、ハワイなどではすでに同様の仕組みを採り入れており、たとえば「公共交通カード」のような仕組みを用意することで、違和感なく個人IDの仕組みを地方行政に導入できるだろう。

ほかには政府が進めている電子私書箱(e-P.O. Box)の仕組みを個人認証に利用することも考えられるが、予算も高くつくため(実現は)難しいのではないかと思う。医療分野でのID活用など、もう少しボトムアップ的なアプローチのほうが現実的ではないだろうか。

※ 住民基本台帳の管理が各地方行政単位で独立していることにも起因すると思われる。

「国レベルでトップダウンから自動化を進めていくよりも、まずは地方自体、それも市レベルからはじめるのが良いと思う」(Rada氏)

-- 日本が保守的だということが移行の障害になっているのか?

日本が保守的だとは考えてない。私にはすべての国が保守的に見える。私の意見でいえば、日本は産業政策として業界の特定の企業にシステムを作らせる方針を採っていた。そのため、政府側に技術に詳しい人材が育たず、ベンダ側の言いなりになってしまったというマイナス面がある。(システム構築が)サイロ型の(カスタマイズ中心の)縦割りに特化してしまったのもそうした理由だろう。なぜ日本にエンタープライズソフトウェア企業がないのかを考えてみるとおもしろい。この点は日本の産業政策の失敗だったといえるかもしれない。こうした問題は中国政府も注視しており、日本政府の今後の課題だろう。

-- 日本に対するメッセージは?

前向きな飛躍が重要だろう。ある東大の教授の話によれば、日本は村を中心に構成された村社会であり、村を越えた情報共有に抵抗が昔からあったという。これは明治維新でも変えることができなかったようだ。逆に日本ではこうした村単位の地方行政が重要で、こうした自治体から気運が持ち上がるのを待つべきではないかと思う。ボトムアップが重要で、まずは信じることから始めるべきではないか。そしていざやるときはきちんとした行政改革を行い、政府が野党と組んで将来のインフラ構築に向けた共通目標を打ち立てられればと考えている。