総務省主催の「テレワーク推進地域セミナー in 東京」が3月18日、開催された。
同セミナーは、総務省によるテレワークの普及・推進策をはじめ、地域活性化や企業における導入事例を紹介することを主旨に、これまで全国4カ所で開催。今回で5回目となった同セミナーでは、日本テレワーク協会 客員研究員の古矢眞義氏が同協会が昨秋から実施してきた「テレワーク試行・体験プロジェクト」の報告を行った。
同プロジェクトは、総務省の委託のもと、2008年9月から2009年1月にかけて実施。テレワークを試行したい企業に対して、USB型認証キーによるセキュアなアクセス環境を実現したシンクライアントシステムを提供し、その実態や成果のフィードバックを集積するというのが主な目的で、サービス業、情報通信業、製造業を中心に全国115社、368人が参加した。
報告によると、プロジェクト参加者のテレワーク利用平均時間でもっとも多かったのは「2時間未満」(37%)と「8時間以上」(30%)に二極化。この結果について古矢氏は「たぶん、終日利用した人と一部の時間だけ利用した人の2パターンに分かれた結果」と分析する。また、利用頻度では「月に1割程度」(38.9%)が最多で、11.6%の人が「週に3、4回程度」利用したと答えたという。業務内容では「資料や情報の収集」が45.9%と圧倒多数。その他「データ処理(入力・計算・統計処理など)」(37.8%)、「企画書・見積書等の作成」(35.7%)といった事務作業や、「上司や同僚との連絡・調整」(28.6%)、「顧客など社外との連絡・調整」(20.4%)といった連絡業務をテレワークで行った人が多かった。また、実施場所では68.6%が「自宅」と回答。外出先や出張先での利用も目立った。
一方、仕事面におけるテレワークの効果について、57.1%が「生産性・効率の向上」、56.3%が「仕事時間の有効活用」と回答。しかし他方では、悪化した項目として15.4%が「コミュニケーション」を挙げた。また、生活面における効果では、「個人の自由時間」「精神的疲労」などすべての項目で「変化なし」と答えた割合が過半数を占め、仕事面に比べ特に目立った効果を感じていないことがわかった。
さらに、総合評価では70.3%が「労働時間が削減された」と実感しているのとは対照的に、「労働時間が悪化した」との回答も22%に及んだ。この結果について、古矢氏は「労働時間が増加したという人は、時間がなければ本来やらなかった業務がやれてしまうからではないか」と分析。また、「短期間の試行ではなかなか私生活までの影響は体感しにくいのかもしれない。コミュニケーションの問題は、離れて働くことへの慣れがまだできていないだけだろう」と、楽観的な見方を語った。
実際、今回のプロジェクト参加者の3/4、経営者の約半数が「今後もテレワークを継続したい」と前向きな姿勢を示しているという。古矢氏は「テレワークを場所だけ変えて導入するのは無理がある。既存の業務プロセスのまま始めると長時間労働に陥る危険性やコミュニケーション面での問題が生じてしまう可能性があるので、まずは仕事のプロセスを見直さなければならない。今回のプロジェクトでは、試行・体験によって働き方に関する自社の抱える問題点や課題を明らかにするという意味で意義があったと思う」と述べ、プロジェクトを総括した。
その他、最新のテレワーク事例の紹介として、日経BP 建設局広告部 企画編集委員の家入龍太氏による「建設ICT導入で動き出した建築、土木の生産革命」と題して講演が行われた。家入氏によると、従来、伝統的な産業というイメージが強かった土木・建設業界が、建築業界では"BMI(Building information Modeling"、土木業界では"建設ICT"と呼ばれるICTの導入により、現場の実態は劇的に変わりつつあるという。「建設の現場はこれまでの図面から3Dモデルに移行した。BMIとは、3次元形状と属性の情報データベースからなるもので、設計図から建築物の熱環境シュミレーションまでコンピュータ上で仮想的にモデリングすることができる。BMIで進める建設プロジェクトは、さまざまなデータベースともシームレスに連携し、圧倒的な効率化につながった」と家入氏。また「これらが通信インフラと組み合わさり、写真を送ってもらえばいまや海外の案件でも日本でもできてしまったりし、これこそまさにテレワーク。日本の建設技術は世界的に見ても評価が高く、IT化により実地環境という弱点が克服できれば、海外展開も容易になる。そういう意味では、ICTで外需拡大が期待できる建設業は、今後の成長産業に位置づけられるだろう」と、建設業界を一例に、国際展開という視点から見たテレワークの可能性を語った。