青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授の八田進二氏

1月30日、「守りの内部統制から、攻めの業務改革へ」というテーマの下、翔泳社主催の「ITコンプライアンス・サミット 2009 Winter」が開催された。ここでは、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授の八田進二氏が「企業会計はどこに行くのか?-確たる羅針盤を求めて-」というテーマで行った特別講演の内容を紹介しよう。

冒頭、八田氏は「国際会計基準への対応は、国内企業が検討すべき火急の課題」と述べた。現在、EUの企業は会計基準としてIFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)を適用することが義務付けられている一方、独自の会計基準に準拠していた米国もそれに追随する方向にあるため、独自の会計基準を適用している日本でもIFRSへの対応の方向性について注目が集まっている。

IFRSと米国と日本の国際会計基準の違いは、「IFRSが"原則主義"であるのに対し、米国と日本の会計基準は"規則主義"である」(八田氏)点だ。原則主義は細かな規則を定めず企業の実態に基づいて監査を行っていくが、規則主義は規則に基づいて監査を行っていく。そのため、規則主義においては規則を逆手にとった会計手法も可能であり、米国では不正会計事件が生まれたと、八田氏は指摘した。

2002年、IFRSを取りまとめるIASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)とFASB(Financial Accounting Standards Board:米国財務会計基準審議会)が、IFRSと米国会計基準の統合を図っていくことに合意した(「ノーウォーク合意」と呼ばれる)。米国では、2009年12月15日以後に終了する会計年度から特定の企業(34業種110社)に対して早期適用を認め、2011年にすべての企業にIFRSの適用を義務とするかどうかが決定するという。

一方、日本のASBJ(企業会計基準委員会)は2007年、IASBと日本会計基準とIFRSにおける重要な差異(同等性評価に関連する2005年7月欧州証券規制当局委員会によるもの)を2008年までに解消し、残りの差異は2011年6月30日までに解消を図ることに合意した。

八田氏は、「米国がコンバージェンス(収束)の限界を感じてIFRSをアドプション(受容)する方向であるのに対し、東京合意は自国の国際会計基準を堅持しつつ、IFRSとの主要な差異を解消していくことを示している」と、米国と日本の方向性の違いを指摘。そして、「日本もIFRSをアドプションするか否か、いつ・どのようにアドプションするか、進むべき道が問われている。ASBJの積極的な対応に期待したい」と述べた。

金融庁企業会計審議会は1月28日に「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」を公表し、2010年3月期にIFRSの任意適用を開始し2012年をめどにIFRSを強制適用するかどうかを判断するといったIFRS適用の方針を示している。同報告に対し、八田氏は「2010年3月期に採用したい企業もあるようだが、コストもかかるしムリだ」という反対意見を示した。米国でも、3年の準備期間でIFRSを適用することは厳しいとして7年スパンでのロードマップが策定されているという。

日本でIFRSを適用するにあたっての課題としては「人的リソースの不足」が挙げられた。そのため、今後はIRFSに熟知した人材を育成するための教育や研修を開発していく必要があるという。「原則主義のIFRSは詳細な解釈指針を定めない方針を採用しており、その適用経験を積むことで専門的判断の定着化と共有化を図っていかなければならない」(八田氏)

最後に、八田氏は「1809年のリンカーン誕生」「1989年のベルリンの壁崩壊」など、これまで西暦末尾が「9」の年は改革が起こった年だと述べ、「2009年は日本において企業会計に対する関心が国家的な主要課題になった初めての年として、健全かつ公正な企業会計が確立される礎となるのではないか」と締めくくった。