ITIL(Information Technology Infrastructure Library)とは、ITサービスの運用管理のベストプラクティス集である。運用系エンジニアの方であれば、その名称くらいはご存じかもしれない。一方、開発系エンジニアの方の場合、ITILを知らない人も少なくなく、知っていたとしても「自分たちには関係のないIT」と見ているのではないだろうか。しかし、実のところ、ITILには開発系エンジニアが知っておくべき知識がたくさん盛り込まれているのだ。
ITサービスはさまざまなアプリケーションやシステムから構成されている。つまり、品質の高いITサービスを安定供給するには適当なアプリケーションとシステムが必要であり、それらの品質は構築・設計を行う開発系エンジニアの肩にかかっている。また、ITサービスのライフサイクル「戦略(の策定)・設計・移行・運用・改善」のうち、運用および改善サイクルは開発系エンジニアと運用系エンジニアが協力して進めていく必要がある。
こうした背景を踏まえ、1月29日に販売開始の『システム開発ジャーナル Vol.8』では、特集2として「開発エンジニア向けのITIL入門」をお届けする。執筆者はオリーブネットの代表取締役を務める官野厚氏だ。同氏は、ITILの認定資格取得コースの講師を務めるほか、ITILに関する英文書籍の翻訳、ITILの教育プログラム開発/テキスト作成なども手掛けている"ITILのプロ"である。
ITILの最新版は2007年5月にリリースが開始されたバージョン3だ。ITIL V3は5冊の書籍から構成されている。ここでは、5冊の書籍のうち、最も開発系エンジニアに関わりが深い『サービストランジション』の内容を紹介しよう。
開発から運用にサービスを円滑に引き継ぐための手引き
『サービストランジション』は、サービスを安全かつスムーズに運用へ移行させるためのノウハウを提供する。具体的には、いかにして、障害や停止のリスクをコントロールし、設計に反映された要件をサービス運用へ展開するかについて示されている。
『サービストランジション』におけるプロセスのうち、開発系エンジニアが知っておきたいのは、アプリケーションの受け渡しに関わる「リリース管理」と「展開管理」だ。
一般に、開発系エンジニアが完成したアプリケーションを運用部門に受け渡す際、開発側と運用側では気持ちの上で温度差がある。開発側は「さっさと検収や引継ぎを終えて次の仕事にかかりたい」と思っているし、運用側は「余裕のあるスケジュールで品質の高いアプリケーションやマニュアルをもらいたい」と思っている。しかし、こうした開発側と運用側の利害が対立している状態は、サービス供給の妨げでしかない。そこで、上記の2つのプロセスを活用することで、開発側と運用側の連携を高めて、サービスを効率良く供給していこうというわけだ。
そのほか同特集では、アプリケーション開発とサービスマネジメントの関わりについて述べている書籍『アプリケーション管理』に基づき、どのようなアプリケーション要件を定義すべきかなどについて詳しく解説している。顧客を重視しサービスの品質に主眼を置いた形でアプリケーション開発をするために、開発系エンジニアの方もITILを学んでみてはいかがだろう。