NECとNUAが主催するユーザー・イベント「C&Cユーザーフォーラム」の2日目の基調講演には、オリンパスで代表取締役社長を務める菊川剛氏が登壇。「オリンパスの経営改革」と題する講演を行い、同社がこれまでに取り組んできた組織改革や生産構造改革の概要、同社における研究開発や人材育成のあり方などを披露した。

オリンパス 代表取締役社長 菊川剛氏

内視鏡、ICレコーダーで世界シェア70%超、顕微鏡で同40%など、他社に先駆けた新製品の開発で市場を切り開いてきたオリンパス。そもそも創業の事業である顕微鏡は、1919年当時、外国製品に頼らざるをえなかった事情を考慮して、国内初の製品として開発されたものだ。また、同社初となるデジタル・カメラは、20~30万画素が主流だった1997年に、140万画素を実現した初の“メガピクセル”カメラとして投入された。

そんな同社の新製品・新技術開発へのこだわりについて、菊川氏は「バスの前を走る」と表現する。

「皆と同じバスに乗るというのではなく、また、バスに乗り遅れるというのでもない。常にバスの前を走るようにし、願わくば、みずから仕立てたバスに皆が乗っていただくことを心がけること。つまり、人のやらないことをスピード最優先でやりなさいということ」

菊川氏は、こうした姿勢を新製品や新技術の開発にとどまらず、日々の業務のあらゆる面で求めているという。あわせて、社員に対しては「失敗しても再チャレンジの機会は必ず与える」ことも明言する。

菊川氏が社長就任後に取り組んできた改革は、こうしたスビード最優先の経営を実践した典型例とも言える。例えば、2002年に映像分野の販売組織を本体に統合し、翌年には医療分野・顕微鏡分野を本体に統合。開発・生産・販売体制を統合し、一気通貫体制を構築することで、スピーディーで効率的な事業運営を図ってきた。

その一方で、2004年には、社内カンパニー制から事業領域ごとの分社化も推進。映像システムカンパニーは、オリンパスイメージングへ、医療システムカンパニーはオリンパスメディカルシステムズへ、ライフサイエンスカンパニーは本体へ、産業システムカンパニーは社長直轄組織へとそれぞれ再編成された。

そうしたなか、ガバナンス体制の改革にも着手。2001年から2003年にかけて、取締役数の半減(20人から10人)、執行役員制の導入、取締役の任期を1年にするなどの改革を行い、業務効率向上と責任・評価の明確化を図ったほか、2006年には、役員の退職金も廃止している。

また、IT面での改革としては、NECのシステム構築支援のもとで「グローバル・サプライチェーン情報基盤」を構築。販売・購買・在庫・マスタデータなどを、欧米、アジア・パシフィックの各現地法人のERPから日次で取得し、統合データベースとして一元化した。

もっとも、菊川氏は、スピーディーな改革を行うことができても、それを継続的な活動として続けていくことは容易ではないとも指摘。特に、生産構造改革については、82~85年のクリーン化活動(5S活動)、86~89年のノンストック生産システム(NSS)活動、98~02年の生産リードタイム半減を目指したTLT50(トータルリードタイム50)活動などを行ってきたが、不徹底であったとした。

現在は、トヨタ生産方式にのっとりながら、購買から物流までのSCMを軸とした取り組みと、製品企画から修理までのECM(エンタープライズコンテンツ管理)を軸とした取り組みの中から、7項目を重点課題に設定し、プロセス改善の活動を行っているという。

研究開発については、2年以内に商品化する技術について個社ごとに開発を行うほか、3~5年以内に実用化を目指す技術については「研究開発センター」が、さらに5~10年以上の未来技術については「未来創造研究所」が研究開発に取り組む体制をとっている。例えば、未来の技術としては、呼気の成分を分析して胃ガンや肺ガンを早期発見できないかなどを研究しているという。なお、同社では、研究開発の価値を「どれだけの営業利益を何年後(開発完了までの期間)に得ることができるか」で測定するといい、研究開発時期の価値についてもDCF法などを使って算出している。

また、人事制度改革については、2009年4月から、個人の「役割」に注目した新制度として「役割等級制度」を導入する。これは、職能資格制度と職務等級制度の“いいとこ取り”をしたものとも言え、個人に「期待される役割」と「役割の達成能力」の双方に注目することで、個人の成長と仕事の適性配分の両立を図る制度という。具体的には、新制度では、管理者層を「組織管理者」「重要テーマ責任者」「特定スペシャリスト」という3つのカテゴリーに分け、それぞれの中に部長、プロダクトマネジャー、チーフエンジニアなどといった役割を明示した職位を設定するとしている。

そのうえで、菊川氏は、若手の改革リーダーの育成が必要だと強調。同社では、そのための取り組みとして、40歳代の社長・カンパニー長、30歳代の本部長・事業部長を育成することを目標にしたプログラムを2002年から実施していることを紹介した。それぞれ、「エグゼクティブプログラム」、「ビジネスリーダー育成プログラム」と呼ばれており、5年、10年のスパンで、集中研修や海外留学・派遣、重要プロジェクトの立案、事業戦略構築などを担当させていくプログラムという。

同氏は最後に、「今後は国内企業においても、欧米企業のように改革の必要に応じて“プロ経営者”を外部から招き入れることが一般的になる時代が来る。経営者の育成は社長の責任と考えるべき」と、若手の改革リーダーを育成していくことの重要性を訴えた。