インターネット時代にまさかの大復活
と思いきや、その有線放送電話システムが再び必要とされる時代がやってくる。その理由は、意外にも「インターネット」だった。
電話線というのは、「ADSL」の技術を使えばインターネット接続用に使うことができる。ということは、すでに地域内に張り巡らされている有料放送電話システムを利用すれば、インターネット接続のインフラを安価に整えることができるというわけだ。
「農事放送(有線放送電話)」と「ADSL」とは、なんともミスマッチな組み合わせだが、古臭くなりかけていた「ローカルなインフラ」が、最先端のインターネット接続用として復活したのである。
「地域の通信」だって必要だ
というわけで、「有線放送電話」はインフラがインターネット用に転用され、「地域の通信」用としてはその幕を閉じたのであった……と思いきや、さらに意外な展開をみせる。今度は逆に、インターネット用の通信技術が「有線放送電話」のシステムを大きく発展させることになるのである。
いくらインターネットが発達したとしても、地域密着の情報網が不要になるわけではない。確かにインターネットを使えば地域情報も収集できるが、すべての人がパソコンを使いこなせるわけではない。いわゆる"デジタルデバイド"という問題がある。
また、インターネットによる情報取得は、あくまで「プル型」、つまり受け手が自分から情報を取りに行かなければならない。災害情報がインターネット上で発信されていても気づけない、ということは十分にありうるのだ。そこへいくと有線放送電話は、必要な情報があったら"勝手に流れてきて聞かされる"という「プッシュ型」で、誰でも即時に情報を受け取ることができる。
つまり「有線放送電話」という情報伝達手段は、実はインターネット時代になった今でも必要ではあるのだ。
しかし、先ほど述べたように生活は多様化しており、「すべての情報を、地域の全員に聞かせる」という方法が古くなっているのも事実。また、電話線特有の音質の悪さも欠点だった。
実はこの「有線放送電話」を、とんでもなく発達させてしまったシステムがある。それが、業務用音響設備などを手がけるTOAが開発した「IP告知放送システム」だ。
インターネットの技術が「地域の通信」を変えた
IP告知放送システムとは、一言でいえば「従来の有線放送電話システムをデジタル化したもの」ということになる。そうすることで、従来の問題点をクリアし、新たな機能も追加されているのだ。
デジタル化による音声伝送は、インターネットでも行なわれている。東京と大阪にあるパソコンで、インターネットを通して音声チャットすることを考えてみよう。東京のパソコンのマイクに話しかけると、その音声はデジタル化され、インターネットを通して大阪のパソコンに送られる。大阪のパソコンでは、受け取ったデジタルデータを音声化し、スピーカーから流す。これで、インターネットを使って会話をすることができるわけである。
これと同じことを、パソコン同士でなく電話機同士でやるのが、最近よく聞く「IP電話」というものだ。「IP」とは「インターネットプロトコル」の略。インターネットの通信手順(プロトコル)を利用した電話という意味である。
そして、そのインターネットプロトコルを「地域の通信」に利用したのが「IP告知放送システム」というわけである。