ネット文学の成長に伴い、その巨大なビジネスバリューが注目されるようになってきた。西遊記を現代的に描いた「朱雀記」の大当たりや、武侠物語「誅仙」が200万部もの販売を達成したり、明が勃興してから滅ぶまでの歴史を生き生きと描いた「明朝那些事儿」が今でも書籍売上ベストセラーのトップにあったりすることなどが、その証である。

先ごろ、「騰訊網」「新浪網」「捜狐」などの大手ポータルサイトが相次いで有料閲読サービスを打ち出した。捜狐の料金基準は2元(約30円)/冊で、新浪網の場合は3分(約0.45円)/千字という料金体系だ。ネット文学はこれら大手サイトに、新たな巨大な利益をもたらしくれると期待されている。

「ネットビジネスのATM」と呼ばれるほどに

ネット文学は、いま中国で「ネットビジネスのATM」とまで言われている。ネット文学が発展するにつれ、入り口の企画から出口の図書出版、ゲームなどに至る産業チェーンが形成されつつある。短期間に人気を急上昇させ、利益を得るために、わいせつコンテンツが重宝されるようになったわけである。

また、一部の電信キャリア、コンテンツサプライヤー(サイト運営企業など)が金融機関と提携し、ショートメールやネットバンキングなどを通じてわいせつコンテンツの料金徴収を行うようになった。これも、同コンテンツが何度取り締まっても後を絶たずに出現する重要な理由の一つだ。

少なからぬネット文学サイトは、すでにかなりの収入を上げるようになっている。IP会員などによる支払いモデルが、多くの文学サイトに安定的な利益をもたらす仕組みが出来上がっている。

有料ユーザーの多くは、キャッシャカードや、中国最大の携帯キャリアである中国移動(チャイナモバイル)の「神」という名称のプリペイドカードなどで購読料金を払い、サイト側が得られた収入の分配を行っている。

ネット文学の書き手は細かい等級でランク付けされており、高ランクの書き手なら200元(約3,000円)/千字程度の原稿料を得ることができるという。従って、長編小説の場合なら、作者にそこそこの収入をもたらしてくれるわけだ。したがって、売れっ子となったネット小説の作者に百万元(約1,500万円)程度の年収があるというのは、根拠のないことではない。

こうなってくると、ネット文学が文化として将来的に繁栄するか否か、などという問題は、キャリアにとって全くどうでもいいことになる。全てが「マネー」をめぐって展開されているわけである。

中国版「ブログの女王」も電子マガジンを発刊

上述のとおり、国家関係部門によるネット小説に対する管理監督が強化されるにつれ、多くのサイトが、違法コンテンツを新興の電子マガジンや携帯電話WAPサイトへ移し始めている。

電子マガジンはコストが安く済み、しかも潜在的な収益性が大きいから、多くの投資家が投資対象にリストアップしている。このため、電子マガジンもいつの間にかわいせつもののアジトになってしまった。

筆者が最近電子マガジンについて検索してみたところ、「男人志」という電子マガジンの中には健全な記事も一部にはあったが、やはりわいせつな内容の文章が目立ち、表紙の過激なタイトルやヌード写真で人々を引き付けようとしていた。筆者の調査では、主な電子マガジンのうち、約50%が健全な記事の間に、わいせつコンテンツを織り込んでいた。こうしたやり方は、当局の抜き打ち検査や取締りに対応するためなのだろう。

電子マガジンといえば中国で「ブログ(博客)の女王」といわれる女優の徐静蕾氏が開設した「開*」や有名キャスターの楊瀾氏の立ち上げた「瀾」をすぐに思い起こす。いずれも超有名人であるため、その影響力で人気を集めやすいが、逆に「木が大きくなれば風当たりも強くなる」から、これらの電子マガジンもネットワーク粛正キャンペーンの対象となった。もちろんキャンペーンはわいせつコンテンツの有無を検閲するだけでなく、著作権侵害などもチェックしていくという。有名人の電子マガジンが、今後中国でどう扱われていくのかについても注目が集まっている。

*は口へんに拉

モバイルコンテンツにも管理強化の可能性

電子マガジンについて、中国で特に重要と思われる事実は、電子マガジンが既に「新聞出版」の範疇に入れられ、「マスメディア」としてとらえられるにいたったことだ。しかし、管理上はまだ現行の国家による管理監督システムの外にあり、これも大量の違法わいせつコンテンツの拡大にチャンスを与えている。

今回の粛正キャンペーンの中で、新たな関係法規が登場する可能性もあり、電子マガジンに対し、再び許可制あるいは刊行番号制が実行され、国家による監督管理が強化される可能性もある。

監督管理強化は、恐らくモバイル分野にも及ぶことだろう。インテリジェント携帯電話が徐々に普及するなかで、多くのWAPサイトが携帯電話ユーザーに電子ブックなどの情報コンテンツサービスを提供するようになった。しかし、最近各地で行われたネット文学を対象にした取り締まりキャンペーンで、WAPサイトを利用したいくつかのネットわいせつコンテンツ提供業者が警察に摘発されている。

文学が青少年に与える影響は無形だが、甚大である。従って、ネットわいせつコンテンツが社会に与える危害は無視できない。毎年繰り返される恒例のネット文学に対する掃黄打非運動はもう見慣れた光景だが、このキャンペーンは長続きした試しがない。ネット文学の発展には、専門の法律法規による規範と管理が必要なのだ。

「粛正キャンペーン」はネット文学発展の好機

ネット文学の発展という観点から見ると、わいせつコンテンツは短期間にサイトに経済的利益をもたらす。しかし、これは毒を飲んで渇きを止めるようなもので、サイトはこれにより、多大な代価を払わされるだけでなく、電子マガジンや携帯電話マガジンといったこの産業領域の「ルーキー」に大きなマイナスの影響を与え、ネット文学全体の発展を阻害することになりかねない。こうした角度から見れば、中国の関係部署が行った粛正キャンペーンはインターネットの発展に影響するどころか、中国のインターネットの発展を促進するものになると考えられる。

もちろんネット文学の中にも優秀なものは少なくない。前出の「明朝那些事儿」などは、かなり水準の高い作品だ。従って、管理監督を強化することは、ネット文学を「一撃で叩きのめす」ことではなく、それを正確な方向へと導き、ネット文学の特性を生かして伝統文化を発揚させ、現代文化の精粋を展開することに繋げることであろう。