IPAは、ソフトウェア開発現場の抱える課題を構造的に捕捉することを目的に、ソフトウェア技術者を対象にした「エンタプライズ系ソフトウェア技術者個人の実態調査」報告書を公開した。ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)のダイレクトメール送信先とWeb調査会社の一般モニターを中心に2,168件の回答があり、内訳はユーザー(発注業務)が17%、ユーザー(自社開発)が24%、元請けが20%、一次下請けが13%、二次以上の下請けが8%だった。

モチベーションは高いが長時間労働が目立つ

技術者個人の会社生活について尋ねたところ、否定率(「そう思わない」と「あまりそう思わない」の合計)が肯定率(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)を上回ったのは3項目であり、全体的に前向きな回答が多くを占めた。「モチベーション」は肯定率53.1%で過半数に達し、「サービス残業」をしていない回答者が6割近くに上る半面、「報酬への満足度」や「能力・業績評価の公平さ」には不満も見られる。 また、「やる気(モチベーション)」との相関関係をIPAが分析したところ、「仕事のやりがい」、「仕事の達成感」、「成果承認」、「職能適性」、「自己実現」、「会社への信頼」等に高い関連が見られたという。

会社生活(出典:IPA)

開発現場の厳しさの理由の1つである就労時間を見ると、月平均就労時間の中央値は180時間であり、組込みソフトウェア産業と同水準だった。平均値は製造業より高く建設業より低い水準にあるが、月平均就労時間が200時間を超える長時間労働者の比率が40.1%であり、健全な水準とは言い難いとしている。

平均就労時間・ピーク時就労時間(出典:IPA)

もう1つの理由である収入を見たところ、全体の年収の中央値は500~600万円であり組込みソフトウェア産業と同水準だ。ユーザー企業と元請けベンダーの分布差は小さいが、ベンダー側で比較すると元請け→一次下請け→二次下請けとなるにつれて低い側にシフトしている。転職経験者は全体の52.4%に上り、組込みソフトウェア産業の26.4%を大きく上回った。また全体の34.5%現在転職を考えており、人材の流動化が進んでいるとIPAは見ている。

年収(出典:IPA)

技術者から見たプロジェクトの成功要因を尋ねると、「ユーザーとのコミュニケーションが上手く行っている」「開発者間のコミュニケーションが上手く行っている」などコミュニケーション面を挙げる回答が多く、管理手法に関連する回答がこれに続く。「プロジェクトマネジメント上問題があり、かつ改善すべき」と認識している項目では「スキル」が最多であり、以下「要員調達」「実施スケジュール」が続いた。

プロジェクトの成功要因(出典:IPA)

現場の問題意識は「要員調達」「スキル」「リスク管理」が上位

開発現場での問題意識を見たところ、上位3位は「要員調達」(66.3%)、「スキル」(64.2%)、「リスク管理」(63.7%)で、いずれも6割を超えた。要員調達では「必要なスキルを備えた人材が不足している」が54.0%に上り、「適切な時期にアサインされない」が23.0%でこれに続く。単なる人材不足ではなく、適材適所の人材配置ができない時に問題が起こりやすいとのインタビュー結果があったという。

品質に関する問題点では「品質基準(バグ率等)の達成方法がきまっていない」(26.9%)、「適切な品質基準がきまっていない」(25.3%)、「品質基準が提示されていない」(22.7%)が多い。

コストに関してはPM(プロジェクト・マネージャ)レベルに加えて、技術者レベルでも予算意識が浸透しているという。実施スケジューリングについてはスキル系に比べると技術者全体が問題を感じている状況ではないが、プロジェクトの失敗事例については問題意識が高い傾向にある。進捗管理については方法が明確になっていないことを問題視する傾向が現れている。

人材面の問題はアサインに課題あり

品質管理の方法や品質基準の達成方法が決まっていないなど品質に関する問題意識は下請けに行くほど強いが、2次下請以下では改善が進んでいない。一方、外注管理相手の品質コントロールは難しいとの結果が出ている。

コストについては見積りが正しくできていないという問題意識が元請に強く、人的リソースに次いで高い。ユーザー企業や2次下請でも3割以上が問題を感じている。

納期面から就労時間を見ると指揮命令者になるほど長時間労働の傾向が強くなり、プロジェクトマネジメント層では200時間超が46.8%に上る。1次/2次下請以下でそもそも無理なスケジュールが立てられているとの問題意識を持っており、無理を強いられている可能性があるという。

課題・問題のうち人的リソースに関する問題意識が非常に強いが、適材適所のアサインができていないことによるものと見られる。また要件定義にスムーズさが欠ける傾向があり、可視化ツール類などの活用の促進によるユーザーとのコミュニケーションを向上させるアプローチや開発手法の導入など科学的な解決策が求められると、IPAでは指摘している。