テレビは赤字も、数量拡大によるコスト削減で今期は黒字化へ

ソニーは2007年度連結決算を発表した。売上高は対前年同期比6.9%増の8兆8,714億円、営業利益は同5.21倍の3,745億円、税引前利益は同4.57倍の4,663億円、当期純利益は同2.92倍の3,694億円で、売上高/当期純利益は過去最高、営業利益は1997年度に次ぐ、同社史上2番目の好実績となった。同社の大黒柱であるエレクトロニクス分野が売上高、営業利益とも過去最高となり、全体を牽引した。また、不振が続いていたゲーム分野はプレイステーション3(PS3)の大幅な売り上げ増で、営業赤字幅が同1,078億円縮小、下期は黒字化しており、2008年度は通期での黒字化を見込んでいる。

売上高と当期純利益は過去最高

エレクトロニクス分野の売上高は同8.9%増の6兆6,138億円、営業利益は同2.21倍の3,560億円だった。すべての地域で販売台数が増加した液晶テレビ「BRAVIA」、パソコン「VAIO」、デジタルカメラ「サイバーショット」が増収をもたらした。営業利益が増えたことについては、無論、売り上げ増が貢献しているが、一つには、ユーロに対する円安が好影響したことも要因だ。「BRAVIA」は単価下落のあおりを受け、損益が悪化したが、「VAIO」、「サイバーショット」、ゲーム分野向けの半導体が売上げ増となったシステムLSI、高付加価値モデルの売上げが増加したビデオカメラ「ハンディカム」が増益となった。

製品別の通期売上げ台数をみると、「BRAVIA」は1,060万台、「VAIO」は520万台、「サイバーショット」は2,350万台、「ハンディカム」は770万台で、1月時点での予想と比べると、見込み通りだった「VAIO」を除き、見通しを上回る実績となった。

エレクトロニクス分野の要であるテレビ部門は、売上高が同11%増の1兆3,650億円だったが、営業損益は730億の赤字で、前年度比505億円悪化している。同社の大根田伸行 執行役兼EVP&CFOは「上期には当社製品の商品力が弱く、価格競争となった。下期にはフルHDの商品を投入したが、価格下落の影響が大きくなり、赤字幅が膨らんだ」と話している。テレビ市場の価格低落傾向については「2007年度は、市場全体の価格低下率より、当社の方が若干高かった。競合他社が値下げしてきたが、ソニー製品はもともと高かったため、競合より値下げ幅が大きくなった。しかし、2007年度後半から当社の商品力は向上して」(大根田執行役EVP&CFO)おり、2008年度は価格下落率はそれほど高くならないと同社ではみている。

エレクトロニクス分野は、売上高、営業利益が過去最高となった

テレビ部門の補強策について同社は、液晶パネル標準品を採用するとともにシャーシの共通化などで、コスト圧縮を図る意向だ。同時に、中・下位製品の量を増やすことにより、製品系列全体の幅をさらに広げ、充実化し、販売経路を拡大、販売数量全体を増大させるする方針を示している。

ソニーの原直史 コーポレート・エグゼクティブSVP

大根田執行役は「ソニー仕様のパネルは上位機種に用い、標準品のパネルは中・下位機種に使う。シャーシも5種から2種に統一する」と語る。「標準品の採用と部品点数の削減、販売数拡大による固定費の縮小などでコスト競争力はついてくる。エントリーモデルで販路を広げるが、大型・ハイエンドを軽視してはいない」と述べた。原直史コーポレート・エグゼクティブSVPは「上位機種だけでは、需要は広がらない。製品の裾野を広げて全体の数量を増やすが、ソニーらしい品質の製品を出していく」とした。同社は「2008年度の液晶テレビは、30%程度とみられる市場全体の成長率の上を行く1,700万台を目指す」(大根田執行役EVP&CFO)としており、今年度でテレビ部門は黒字化すると見込んでいる。

ゲームは、PS3の売上げ台数倍増、PSPも貢献で、下期は黒字化

同社のもう一つの懸案といえるゲーム分野は、売上高が同26.3%増の1兆2,842億円、ハード/ソフトいずれも増収で、営業損失は1,245億円、前年度比で1,078億円改善、下半期には黒字化を果たした。このような結果となった主要因は、値下げ効果が出たPS3ハードの売上げが対前年度比2.56倍の924万台となり、製造コストが価格を上回る「逆ザヤ」が未だ続いているものの、コスト損益が大きく改善したことだ。PS3はソフトウェアの面でも躍進、250タイトルがそろえられ、売上げ本数は同4.35倍の5,790万本だった。2007年度は「前半はPS3のソフトを十分に準備することができず苦労した」(大根田執行役EVP&CFO)が、「後半はソフトが充実し、(PS3ハードの売上げ台数は)700万台以上になった」。同社ではPS3を「それなりのプラットフォームとして確立することができた」(同)との見解を示した。

ソニーの大根田伸行 執行役兼EVP&CFO

このほか、プレイステーション・ポータブル(PSP)も軽量・薄型の新モデルが好調で、売上げ台数は同46%増の1,389万台で、ソフトは同1%増の5,550万本だったが、分野全体の損益改善に貢献した。また、プレイステーション2(PS2)は売上げ台数が同7%減の1,373万台、ソフトも同20%減の1億5,400万本ながら「東欧、中東、アジアなどでは、以前底堅い実績で、(ハードの)期初予想(1,000万台)を大幅に上回った」(同)という。

ゲーム分野は改善したとはいえ、未だ営業赤字から脱却できていない。同社は、2008年度のPS3ハードの売上げ台数を同8.2%増の1,000万台と見込んでいる。今年度のゲーム戦略について大根田氏は「PS3は、値下げなどでやたら販売数量を増やすことより、長期的なプラットフォーム戦略の観点から、ネットワーク関連のサービスに投資するなど、採算性重視の方向であり、『数』は大きなものを追わない」と話す。このような姿勢の背景には「PS3の価格弾力性は、PS2、PSに比べ、弱いと考えている。PS3は、価格を下げたからといって、販売数量はそれほど大きくはならない」との認識があるようだ。同社は「PS3は、2008年度もハードの逆ザヤは若干残るだろうが、ソフトを含めたプラットフォームとしては、今年度黒字化できる」(同)とみている。

中期経営方針の成果で、消費者視点の商品が利益に直結

当期純利益が大きく伸長したのは、営業外収支が615億円改善したことがかなり影響している。これは、同社の金融分野を束ねる持株会社、ソニーフィナンシャルホールディングスが2007年11月に東証一部に上場したことにより、810億円の持分法変動益を得たことや、為替差益を計上したことなどが要因だ。

また、目標としていた連結営業利益率5%は達成できず、4.2%に留まった。これについて大根田氏は「2007年度は国内の株式市況の悪化が大きな問題となったが、実力は5%に近くになっている。為替の影響はあるが、2008年度は5%を達成できる」との見通しだ。事実、エレクトロニクス分野の営業利益率は5.4%となっており、目標の4%を超えている。同社は「基本的には、5%はボトムとみたい。これをどのようにしてさらに上にもっていくかということが問題だ。ソニーの実力は(連結営業利益率が)5%であり、これがそのまま続くとは思っていない」(同)としている。

2008年度通期の連結業績予想は以下の通り。売上高は同1%増の9兆円、営業利益は同20%増の4,500億円、税引前利益は同6%減の4.400億円、当期純利益は同22%減の2,900億円。エレクトロニクスは、「BRAVIA」、「VAIO」、「サイバーショット」が増収となる見通しだが、対ドル円高の影響で前年度比で横ばいとみており、全体では減益を予想している。ゲームは、PS2事業の減収で、全体としては売上げ減の見込みだが、PS3事業では、ハードのコスト削減、ソフトのタイトル充実化で、大幅な改善を見込んでおり、全体としては黒字化とみている。

同社では2005年に経営陣を刷新、2007年度までの中期経営方針を発表、「エレクトロニクス事業復活を軸に経営体質強化」を主題とした。大根田氏はこの3年を振り返り「やはり基本的に、消費者の望むものをタイムリーに市場に投入していくという姿勢が、新経営陣になってから強くなっている。エンジニアのひとりよがりで、良質だが売れない商品というようなことがなくなり、顧客の視点に立った商品展開で利益を上げている、たとえば、デジタルカメラが良い例だ。今では利益率は高いが、2、3年前は相当苦戦していた。手ぶれ防止機能がないなど、消費者の視点とずれていた。しかし、ここに来て、設計思想、デザインなどの点で成果が出てきた。今後もこの姿勢は変わらない。いっそう推進していきたい」と述べた。