米Sun Microsystemsは5月5日(現地時間)、オープンソースコミュニティ開発者を対象にしたカンファレンス「CommunityOne Developer Conference」を米カリフォルニア州サンフランシスコ市内のMoscone Convention Centerで開催した。翌日の6日からは同会場でJava開発者カンファレンスの「JavaOne 2008」が開催されたが、CommunityOneはJavaOne参加者を対象にした前日イベントという位置付けになる。開催2年目になるCommunityOneだが、ここではSunのオープンソースプロジェクトの最新成果である「OpenSolaris」の新発表が行われた。

オープンソースコミュニティとのWin-Winの関係を築く

CommunityOne開催に当たって開催されたオープニングキーノートには、米Sun Microsystemsデベロッパー&コミュニケーションマーケティング担当バイスプレジデントのIan Murdock氏が登場し、Sunのオープンソースならびに同コミュニティへのスタンスやその意義について語った。すでにGPLによるオープンソース化が表明されたJavaをはじめ、Sunは多数のオープンソースプロジェクトを抱えている。ここまでの道は容易ではなかったものの、「人は間違いを犯すが、それを乗り越えることで次のステップへと移ることができる」と同氏が言うように、段階的なオープンソース化や試行錯誤を繰り返し、徐々にプロジェクトの数を増やしてきた。GPL対応まで長きにわたって完全オープンソース化のプレッシャーにさらされ続けたJavaをはじめ、ようやくSunという企業とオープンソースコミュニティとの関係がなじみつつあるようだ。

その最新の成果の1つはMySQLの買収だろう。オープンソースでは最も人気のあるRDBMSソフトウェアだが、4月にサンフランシスコで開催されたWeb 2.0 Expoに登場した米Sun Microsystes社長兼CEOのJonathan Schwartz氏は同買収について「SunにとってはMySQLのブランドとオープンソースへのコミットメントが、一方のMySQLにはSunという資本/ブランドのバックグラウンドの入手とリーチの拡大が見込める」とその理由を説明しており、オープンソースに貢献しつつ、互いにWin-Winの関係を築けるメリットを強調している。

このWin-Winの関係というのが、Sunのオープンソースにおけるスタンスともいえる。オープニングキーノートの中で対談したMurdock氏とSchwartz氏の両氏は「オープンソースで市場を拡大することでビジネス機会増大が可能になる。コミュニティとWin-Winの関係を築くことがこれからの企業に求められるスタイルだ」と同社のオープンソースやコミュニティに対するスタンスを説明する。

「企業が好きなコンポーネントを組み合わせて自由なシステムを構築することは、以前までは難しかったものだ。オープンシステムが登場し、オープンソースによってソフトウェアが呪縛から解放されることで、従来にはない新しいアイデアを生み出すことができる。また、いま広がりつつあるコンピュータクラウドの世界では、開発者はソフトウェアやハードウェアに縛られることなく、自らのサービス作りだけに専念できるようになる」とも述べている。ビジネスモデルは今後も試行錯誤が続くものと考えられるが、業界のトレンドは、古くから「The Network is The Computer」を標榜するSunの理想像に近付きつつあるようだ。

米Sun Microsystemsデベロッパー&コミュニケーションマーケティング担当バイスプレジデントのIan Murdock氏(左)と同社社長兼CEOのJonathan Schwartz氏(右)

LiveCDによる簡単起動/インストールが可能な「OpenSolaris」登場

米Sun Microsystemsソフトウェア部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのRich Green氏

CommunityOneのキーノート後半に登場したのは、米Sun Microsystemsソフトウェア部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのRich Green氏だ。同氏はSunのオープンソースへの貢献の最新成果として、新製品にあたる「OpenSolaris」を紹介した。これは同社が2005年にスタートしたOpenSolarisプロジェクトの集大成とも呼べるもので、これまで一部のデベロッパコミュニティ内で閉じていた技術や成果を、開発者や一般ユーザーを含むより多くの人に利用してもらうことを目指したものになる。

新OpenSolarisではロゴも一新され、新たな配布形態としてLiveCDを採用している。すでにUbuntuなどでおなじみのLiveCDは、手軽にOSを試してもらい、よりリーチを広げるための手段として認知されている。Solarisが一般ユーザー向けのOSかどうかは疑問だが、これまで食わず嫌いで過ごしてきたプロフェッショナルや、敷居が高いと感じてきた開発者やシステム担当者がSolarisの機能群をテイスティングするうえで幾分かの効果を発揮することだろう。同社ソフトウェア部門CTOのBob Brewin氏は「LiveCD以外にも、(Sunが先日買収した)VirtualBox上にインストールすれば、元の環境に影響を与えずに仮想化環境上でいくらでも実験ができる」とアドバイスしており、とにかく試してみてほしいという点をアピールする。

このOpenSolarisだが、LiveCDといった手軽な形態を採用している一方で、ZFSやDTraceなど、Solarisの肝となる機能群は一通り搭載している。Xenをベースにした仮想化ハイパーバイザ、iSCSIサポートなど、エンタープライズ用途で役立つ機能群を多くサポートする。またIPS(Image Packaging System)により、好きなアプリケーションパッケージをGUIを使ってインストールし、OpenSolarisを自分流にカスタマイズすることが可能だ。こうした本格的な機能群とLiveCD/IPSによる手軽さを持ち合わせたのが、最新OpenSolarisの特徴といえるだろう。

このようにデベロッパやユーザーサイドへのリーチを広げる一方で、セキュリティアプライアンスへのOpenSolarisの採用など、従来の枠組みを超えた形で用途や提携先を広げていると前述のBrewin氏はコメントする。「オープン戦略で裾野を広げ、Win-Winの関係を築く」というSunの基本戦略の第一歩といったところだ。

今回発表された新製品は「OpenSolaris OS」で、Solarisの機能をより多くのユーザーに体験してもらうことを目的としている。写真は製品発表にあたって公開された新ロゴ

ZFS、DTraceなど、Solaris特有の機能を標準装備するほか、IPSによる簡単なパッケージインストール、LiveCDの提供など、よりユーザービリティや利用しやすさを考慮した構成を目指している

OpenSolarisの初期起動画面。使用しているPCはソニーのVaioで、普通のWindowsが動作するマシン。CDまたはHDDから直接インストーラまたはOS本体を起動可能。セットアップの際は使用者情報や位置情報など基本情報を入力すれば、あとは十数秒程度でSolarisが利用できるようになる

DTraceの利用例。左のウィンドウで実行中のブロック崩しアプリケーションの動作をトレースし、コードのデバッグ(改造)を行っている

IPSによるパッケージのインストール画面。最近はLinuxでもGUIベースのパッケージインストーラが主流になっており、Solarisでもこうした手法を採り入れている

ZFSの冗長性をアピールするデモストレーション。並列接続された複数台のHDDをハンマーやドリルで次々に破壊するものの、冗長構成の取られたシステム全体ではデータ保全や動作が引き続き問題なく行われている

CommunityOne会場で配布されていたOpenSolarisのLiveCD。バージョン番号は2008-05となっており、現時点での最新アップデートであることがわかる