内閣府の男女共同参画会議「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)に関する専門調査会」は、このほど「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」と題した報告書をまとめた。

今回まとめられたレポートは、仕事と生活の調和に取り組んでいる企業17社に対してインタビューを行い、企業の取り組み情報を整理し、既存の統計や調査結果をもとに分析した定量的なコストも併せて算出された。

両立支援は結果的に企業も得をする

両立支援のための企業の制度では、おもに育児休業や介護休業制度をはじめ、看護休暇制度、事業所内保育所の設置、保育料や延長保育、ベビーシッター代の補助等の経済的支援、社内報や社内イントラネット等を通じて情報提供を行う復職支援などが挙げられる。1日1 - 2時間の時短勤務や半日勤務、週2日勤務など、従業員のニーズに応えた短時間制度を設ける松下電器産業の例では、育児のために1 - 2時間の短縮勤務をする従業員が多く、その成果として、子どもを持つ女性従業員の定着率の向上や、短時間で効率よく働くよう心がけるため時間管理能力も向上するといったメリットが報告されている。また、優秀な女性従業員の定着を図るため、事業内保育所を設置したサタケでは、派遣社員を含め、育児休業取得者の3 - 4割が保育所を利用。保育先が確保されることにより、育児休業を早めに切り上げ復職する社員が増えただけでなく、企業イメージの向上による自社への誇りの促進という効果も見られたという。

一方、報告書では、従業員の出産に伴う退職と就業継続の場合のコストを算出。出産を機に退職し人員を補充する場合の費用は1人あたり88万円であるのに対して、同じ従業員が育児休暇を取得し、その後、時短勤務を行う場合には、育児休業中の代替勤務を行う有期雇用者等への給与を含めても72万円にとどまり、企業側は同じ従業員を育児休暇後も継続して採用するほうがコストが抑えられるだけでなく、それまで培われた従業員の知識や経験の損失を防ぐことができるメリットがあると結論づけている。

柔軟な働き方が生産性を高める

また、場所や時間を限定しない柔軟な働き方の促進という観点でワークライフバランスを見た場合に、それを実現する施策では、おもに在宅勤務や勤務地の限定(転勤の制限)、サテライトオフィスの設定、時差出勤、フレックスタイム制、短時間勤務などが挙げられる。取得理由を限定せずに勤務時間選択制度(短時間勤務制度)を導入しているジーエムジャパンでは、従業員の多様なニーズに幅広く応えられることが、従業員の定着や満足度、仕事への意欲の向上等につながり、従業員の多様な経験の蓄積による創造性の高まり等が業務に活かされると報告されている。

業務の効率化や長時間労働の是正を目的とした取り組みでは、業務や業務分担の見直し、残業削減、休暇取得の促進などの施策が挙げられる。従業員を何種類もの仕事ができる多能工に育成して、業務をお互いに代替できるようにしているカミテでは、従業員の休業が他の従業員の業務を見直すよい機会と捉え、当該従業員の業務を総覧することにより、無駄な業務の排除や若手の育成につながったとし、さらに業務代替により社員の間に"お互いさま"の意識が醸成され、職場のチームワークが高まったなどと報告されている。

そのほか、時期的な繁忙に応じて、「通常(7時間45分)」に加え、「繁忙期(8時間45分)」「閑散期(7時間)」と3種類の所定労働時間を設定した福島印刷では、メリハリのある働き方を推進することにより、超過勤務の4割の削減を達成。日立ソフトウェアエンジニアリングでは、21時に一斉に消灯し、21時以降残業する場合には手続きを必要とする「21時ルール」を全社的に導入した結果、1カ月平均の残業時間が35時間から28時間へ2割削減され、月100時間以上の残業者の人数も8割減少した事例が紹介されている。

残業時間が30分短くなると、もれなく3億円バック!?

また、報告書によると、従業員1人あたり残業時間が1日30分短くなることによって企業全体で1年間に削減されるコストは、人件費が従業員1,000人で2億9,831万円、従業員500人で1億3,097万円、従業員50人で1,204万円。光熱費はそれぞれ983万円、491万円、49万円削減されると算出された。その結果、生産性の向上のポイントは、業務目標を変えずに、業務効率化に努め残業時間を短くする点にあるとまとめている。

従業員の心身の健康保持での取り組みでは、産業医によるカウンセリング機会の設定や、従業員の健康づくりに対する支援、予防措置、治療等への支援、管理職への研修や従業員への講話の機会の設定などが挙げられている。健康診断結果に基づき、残業制限、深夜勤務禁止、就業禁止等の就業制限を実施している日立ソフトウェアエンジニアリングでは、その結果、半年前に比べ、罹患者数が3割減少したという。

一方、中規模の企業(従業員100 - 999人)で従業員がメンタルヘルス上の問題等が理由で6カ月休職した後に復職する場合にかかるコストの算出結果は、休職者1人あたり422万円と見積もられている。これは、休職中、3カ月間は私傷病休暇、年次休暇等を取得し、残り3カ月を無給と想定したとしても、休職中と休職前後の3カ月に業務代替を行う同僚に支払われる手当等の必要な費用が休職者の無給分のコストを大幅に上回る結果だ。

報告書では最後に、今回の調査結果を総括し、ワークライフバランスへの取り組みが企業にもたらすメリットを以下の10点にまとめている。

  1. 従業員の定着(離職率の低下)
  2. 優秀な人材の確保(採用)
  3. 多様性に富む従業員の確保、定着
  4. 従業員の満足度や仕事への意欲、企業へのロイヤリティの向上
  5. 従業員の心身の健康の保持増進
  6. 従業員の生活者としての視点や創造性、時間管理能力の向上
  7. 部下や絵同僚従業員の能力向上
  8. コスト削減
  9. 生産性や売り上げの向上
  10. 企業イメージや評価の向上