日本で幸先のよいスタート

2005年9月、キングソフトのセキュリティソフトウェア「金山毒覇」が海外市場へと進出し始めた。「試用してから買ってもらう」という戦法で、ネットワーク販売モデルを採用。ソフトウェアをインターネット上に載せてユーザーに無料で試用する機会を提供し、ソフトウェアが気に入ったら費用を支払うという方式をとった。しっかりした品質と効果的な販売モデルにより、金山毒覇は日本で予想外の成績を収めた。最初の2カ月だけで、ダウンロードしたユーザー数が50万に達し、1年足らずの間に使用ユーザーは40万に達した。2006年8月から有料配布が始まっても、依然10%を超える期限切れユーザーが有料での継続使用を選択したとされる。この数字は、実のところ、キングソフトの当初の予想を大幅に上回り、キングソフトの日本での旅は、幸先のよいスタートを切ることができた。

その後、キングソフトは国際展開の歩調を速めた。2006年9月21日、日本で「キングソフトインターネットセキュリティ 2007(金山毒覇2007)」を発表したが、同時に2つ目の製品「Kingsoft Office 2007(WPS)」も大々的に発表した。そして、これからキングソフトの前に立ちはだかるのは、ソフトウェア業界の巨人、Microsoftなのだ。

だが正直なところ、いまのキングソフトにとって、Microsoftは決して太刀打ちできない相手というわけでもない。金山毒覇の2年余りにわたる日本での販売経験を通じ、キングソフトは、日本市場である程度のブランドイメージを築いてきた。そこから、キングソフトの国際化戦略の全貌を垣間見ることができるし、また、キングソフトの日本での低価格戦略の背景も理解できる。しかし、おそらく金山毒覇は、キングソフトの試金石に過ぎない。彼らが最終的に「金山」を狙うのはWPSで、であろう。

ユーザーの使用習慣尊重し「WPS Office 2005」開発

WPSは90年代に一連の試練を受けた後、捲土重来を期し、2002年にふたたび100名の開発者を投入、それまでの14年間の技術的蓄積を完全に放棄し、新たに数十万行のコードで改めて作り上げられた。3年間にわたる苦難の開発期間を経て、ようやく独自の知的財産権を持ち、しかもMicrosoft Officeを思い起こさせる「WPS Office 2005」が誕生したのだった。

ユーザインタフェース、ファイル形式、使い勝手といった多くの面でWPS Office 2005はMicrosoft Officeとの「深度互換」を実現、このためユーザーはほぼ「時間ゼロ」で慣れることが可能というのが謳い文句だった。元々、WPS Office 2005の設計理念はMicrosoft Officeのデファクトたる事実を認め、ユーザーの使用習慣を尊重するものだったからだ。

世界市場を目指すため、キングソフトは過去17年間用いてきた「WPS」を「WPS Office」に変え、日本語タイトルも「Kingsoft Office 2007」とし、海外のユーザーに少しでも理解されやすいようにと努めている。

2007年3月、キングソフトの日本子会社はジャフコからの投資を受けた。これは設立してまだ2年足らず、売り上げを上げてまだ半年にもならない企業にとっては重要な意義があった。

今年7月19日、キングソフトは日本で、機能追加とバグ修正を実施した「Kingsoft Office 2007」の新バージョンを発表した。同時に、広告モデルを採用した無料のセキュリティソフト「Kingsoft Internet Security free」の提供も発表された。

キングソフトは、国際化の長い道程で、日本を欧米市場進出前の実験田、あるいは橋頭堡と位置づけており、それゆえ、キングソフトは日本市場を非常に重視している。無論、海外進出とは単なる物理的な進出だけではなく、心理的、文化的な拡張でもあり、また、組織的行為でもある。さらに最も重要なことは、言語、文化の壁を超えて、親会社の意思を伝えることだ。もちろん管理手法、人材などの国際化も必須となる。

今後中国ソフトウェア産業全体の競争力が高められれば、世界のソフトウェア市場は程度の差こそあれ「Made in China」の衝撃をより深刻に受けることになる。この衝撃が世界のソフトウェア市場の競争関係に影響を与える、あるいは変えることになるだろうと専門家は見ている。

無論、中国本土のソフトウェア企業が世界市場で成果をあげようとすれば、品質と徹底した市場調査、国際経営能力の引き上げに力を入れねばならない。品質や管理水準といった幾多の指標において「国際化」が求める基準に達してこそ、世界市場での成功が見えてくる。その点でもキングソフトは中国の他企業の先に立っており、その海外戦略は、今後中国の他のソフトウェア企業に大きく影響を与えていくものと思われる。