![]() |
一橋大学大学院商学研究科教授 伊藤邦夫氏 |
30日に開催されたHP World Tokyo 2007では、午前中に2本の基調講演が行われた。2本目は、一橋大学大学院商学研究科の伊藤邦雄教授による「新しい価値創造競争の時代へ~これからの企業の競争力~」という講演であった。
中心的なテーマとして据えられていたのは、同教授が提唱する「コーポレートブランド経営」だ。コーポレートブランド経営とは、単純化してしまえばコーポレートブランドの価値を高めることを意識した経営手法ということになる。コーポレートブランドに関しては、同教授の定義では、
- ステークホルダーがその会社/グループに対して抱くイメージを決定づける無形の個性
- 自社を他社と差別化し、圧倒的な存在感と信頼感を人々に与える
ものだとされている。
さらに、「測定できないものはコントロールできない」という考え方に基づき、同教授が開発した「CBバリュエータ(統合型企業ブランディング診断システム)」や、その結果数値化され、日経新聞などで発表されている「コーポレートブランド価値ランキング」などが紹介された。
また、日本企業が競争力を回復するためにはどうしたらよいのか、という提言も行われた。同教授によると、90年代前半までの「日本的経営に対する批判/反省」に対応して、個々の事業ユニットの競争力強化のためのカンパニー制の導入や分社化、成果主義の導入、本社のスリム化などが行われた。しかし、結果的にこれは、会社全体の利益よりも自部門の理系を最優先するなど、狭い視野に基づく利害判断で行動する社員を増やしてしまう、いわば「部分最適化の取り組み」となってしまったのだという。そしてこの状況を打破するためには、「全体最適型経営」への移行が必要だとされた。
全体最適型経営の成功例としてトヨタやキヤノンなどといった著名企業の具体例が紹介されるなど、説得力のある興味深い話が展開された。「部分最適から全体最適へ」というメッセージ自体はITシステムでも昨今繰り返し聞かれるメッセージであり、その妥当性自体は来場者にも素直に理解されたように感じられた。とはいえ、内容的には「CEO向けの話をCIOに聞かせる」といった感じのミスマッチ感があったのもたしかで、講演終了後、ホールから退場していく来場者から漏れ聞こえてきた感想からも、関心領域から微妙に外れていたという印象が強かった。しかしながら、「ITはビジネスそのものである」というHPの主張と組み合わせ、「ITシステムも経営全体も個別最適から全体最適に変革する必要がある」と理解すれば、たしかに全体の趣旨に合った有意義な講演だったように思われる。