アドビシステムズは15日、「Adobe Acrobat 3D Version 8日本語版(以下、Acrobat 3D)」を6月中旬に提供開始すると発表した。この製品は、Acrobat製品群の最上位に位置づけられ、文書ファイルフォーマットとして一般的なPDFファイルに3次元データを付加することができる。なお、通販サイトのアドビストアでは販売予約の受付が既に開始されている。

3次元データは、CADデータやOpenGLから変換してPDF文書内に取り込む。Version 8では、変換可能なCADデータはCATIA、Pro/ENGINEER、SolidWorks、UGS NXなど40種類に及ぶ。OpenGLをサポートしたCADシステムの場合は、PrintScreenキーでキャプチャするだけでデータを取り込める。このキャプチャ機能はWindowsベースのシステムだけでなく、Solaris、AIX、HP-UX、IRIXといったUNIXベースのシステムにも対応する。

アドビシステムズ マーケティング本部 インテリジェントドキュメント部 フィールドプロダクトマネージャー 小圷義之氏

また、「PRCフォーマットのサポートにより、最大150分の1までデータを圧縮してPDFファイルに変換できるうえ、それに製品製造情報(PMI)として幾何公差寸法や許容差情報なども盛り込むことも可能」(アドビシステムズ マーケティング本部 インテリジェントドキュメント部 フィールドプロダクトマネージャー 小圷義之氏)だ。

一方、PDFからの書き出しはSTEP、IGESなどのフォーマットに対応し、既にPDFに変換済みの3次元データでも、再びCADや機械加工などのシステムに取り込んで再利用が可能だ。

このように多様なデータフォーマットに対応しているのは、CADシステムを多く利用している製造業などのユーザー企業およびそのグループ企業において、さまざまなCADシステムが用いられ、部門間での情報の共有が難しいという背景がある。

製造、建設、エンジニアリングなどの業種は、日本企業といえども、その事業活動は既にグローバル化しており、しかも下請企業を含めて数多くの人が事業に参画している。そのような環境で多国間競争を勝ち抜いていくためには、CADシステムを利用しない管理職や品質保証などの部門とも3次元データを共有し、部門間のコミュニケーションをより円滑にする必要がある。

アドビシステムズ ナレッジワーカービジネスユニット シニアプロダクトマーケティング マネージャー 山本晶子氏

Acrobat 3Dをリリースするねらいは、社内に散在する3次元CADデータを、ビューアが普及しているPDFファイルに統一することによって、社内での情報共有を促進することにある。PDFビューアーであるAcrobat Readerは無償でダウンロードできるし、今やほとんどのPCにプレインストールされているので、PCを導入すれば、PDFファイルを閲覧できる環境はすぐに整えられる。これにより、「社内のあらゆる部門で3次元データを共有できるようになる」(アドビシステムズ ナレッジワーカービジネスユニット シニアプロダクトマーケティング マネージャー 山本晶子氏)というわけだ。

また、「Acrobat 3Dであらかじめ権限を設定しておけば、Acrobat Reader(バージョン7.0.7以上)からでも3次元データにコメントをつけることができる」(小圷氏)ので、製品レビューや見積依頼のような、CADシステムを持たない部門が関わるワークフローでも、3次元データを付加した書類のやりとりが可能になる。

ワークフローシステムは、製造業などの企業では既に導入が進んでいるが、必ずしも会社全体で一貫したワークフローが実現できているとは限らず、やはりファイルフォーマットの違いなどの理由で、工程ごとにフローが分断されていることも多いという。「そうした状況においても、PDFファイルを利用すれば、ワークフローシステムではカバーし切れない部分を補完するフローを構築できる」と山本氏は説明する。

3次元データは、製造前の部品などについて綿密に記述されており、セキュリティも大きな課題だ。Acrobat 3Dではデータのコピー、書き出しなどの機能を制限する設定ができるほか、データの一部を恒久的に削除できる「墨消し機能」がこのバージョンで新たに追加された。さらに、「LiveCycle Policy Serverを用いれば、書類へのアクセス権限を設定することも可能」だ。

実行環境は、CPUがPentium 3以上、メモリ512MB(1GB以上を推奨)、OSはWindows 2000 SP4から同 Vista(32bit、64bit)まで対応し、IE6とDVD-ROMも必要となる。また、MS Officeの2000から2007まで対応しており、Office文書に3Dモデルを取り込むことも可能だ。

CADデータの共有は、さまざまなCADシステムを持つ企業の大きな悩みの1つだ。PDFによるフォーマットの統一を実現するAcrobat 3Dは、検討に値するのではないだろうか。