大人になると日々の仕事と生活に追われ、自身の趣味に費やす時間は往々にして取れないものである。資格取得に向けた勉強やダイエットのためのジム通い、英会話、イラスト、カメラなどなど、「時間さえあればやりたいこと」を挙げれば切りがない。

そして「時間さえあればやりたいこと」は、いざ時間があってもあれこれと理由を付けて結局始めないのも、また世の常である。小誌「マイナビニュースTECH+」は会員数が10万人を突破したことを記念して、特集を立ち上げて「大人の自由研究」を企画した。その取材を行うにあたって、いくつかの企業に「せっかくの機会なので、普段やりたいけれども時間やお金の都合でできていないことを"自由に研究"してほしい」とお願いした。

今回、筆者が伺ったのは育児から社会人教育まで日本の教育を支える企業であるベネッセコーポレーション。自由研究との相性が良さそうな「学習」のプロフェッショナルとも言える同社は、どのような自由研究を行ったのだろうか?

進研ゼミがオンライン会議に一石を投じる

「ベネッセ」という社名を聞いて、読者の皆さんはどのようなことを思い浮かべるだろうか?

しまじろうやコラショといった個性豊かなキャラクターを想像した人や、近所にベネッセが運営する高齢者向け住宅があったなと思い出した人、実際に自分や子どもが進研ゼミを受講していたという人もいるだろう。

そんなさまざまなサービスを手掛けるベネッセだが、筆者はベネッセと聞くと、真っ先に「なるり」を想像してしまう。

「なるり」とは、「なるほど!理解!な授業を目指すVティチャー」として2020年6月に誕生した「進研ゼミ中学講座」の公式Vtuberだ。

  • 「進研ゼミ中学講座」の公式Vtuber なるり

筆者は、「企業公式Vtuberの活躍から学ぶ新しい情報発信のカタチ」という連載を担当しているのだが、この連載の取材で出会ったのが「なるり」だった。

今回、大人の自由研究を実施するにあたって、この取材の時からすっかりファンになってしまった「なるり」と自由研究を一緒にしたいと考えた筆者が、ベネッセに依頼を持ち掛けた。

そこでベネッセに考えていただいた企画が「オンライン会議を『なるり』が活性化!? 中学講座で人気のVティーチャー『なるり』は、中学生だけじゃなく、大人もやる気にさせられるのか? オンライン会議で議論が活発化するかをベネッセ社内で検証した!」というものだ。

「コロナ禍でオンラインでの会議が増えた中、積極的な発表者に対し、閲覧者は受け身になりがちだったと思います。カメラ機能が搭載されているデバイスであっても、グループ会議になるとカメラをOFFにして聞き役に徹してしまうという状況はよくあることです。この問題に対して、多くの子どもの心を動かしてきた進研ゼミが挑戦し、オンライン会議に一石を投じたいと思います」(進研ゼミ・古岡氏)

この企画に対して、ベネッセが打ち立てた仮説は以下の3つ。

  • 社内会議で「なるり」が突然登場すると、参加者の興味を引くことができ、平常時よりも自分の身近に感じ、発話数の増加や議論の活発化が見られる
  • 「なるり」からの「カメラON」の声掛けによりカメラONにするハードルが下がり、顔出しする人が増える
  • 「なるり」の登場により会議への参加が楽しくなる

今回の自由研究では、「なるり」が途中で突然登場する1回目の会議と登場することが分かっている2回目の会議を通して、上記の仮説は正しいのか、またオンライン会議にVtuberの活用は有効なのかを検証していく。

ベネッセのオンライン会議に潜入! 突然Vtuberが登場したら社員は……?

第1回目の「なるり」が途中で突然登場する会議を取材するにあたり、中学生マーケティング 営業部の川田斐斗氏に密着した。「オンライン会議の様子を取材させていただきます」と伝えていただけなので、もちろん川田氏は今回の企画の全貌を知らない。

「私はまだ入社してからの年次が浅いのですが、新人だからといって会議中に話しにくい雰囲気があるということはないです。しかし、オンライン会議の時にカメラオンにしていると『表情を見られている』と少し、身構えてしまうこともあります。また、まだ駆け出しの自分にとっては、オンラインよりも対面で行う会議の方が、先輩方のメモを取る様子など学ぶことが多いとも感じています」(川田氏)

  • 会議への挑み方を語る川田氏

そんなことを事前に語っていた川田氏だが、なるりが登場したらどんな表情をするだろうか……
筆者は、さながらドッキリの仕掛け人のような気持ちで会議の開始時刻を待っていた。

筆者が参加した会議は「中学講座のインスタグラム投稿の内容についてのブレーンストーミング」というものだ。いざ会議が開始してみて、筆者が受けた印象は「意見が飛び交うというよりは1人が深く話すのを聞いていることが多い」ということだ。

会議の主催者が1人で話し、それ以外の発言は基本的にチャットベースで行われる。筆者が密着した川田氏も、自分の意見やアイデアは、発言ではなくコメント機能を活用して発信していた。

  • 会議に参加する川田氏の様子

テキスト上での発言は非常に盛り上がっているが、傍から会議を見ている筆者からはどうしても「主催者→参加者」の一方通行のように見えてしまう。加えて、今回は新しい企画の提案ということもあり、1人1人がじっくり考えている時間も長かったのだろうか、多数のチャットが投稿されるため、目で追うのが難しく、重要な情報を見逃してしまう可能性を感じた。

なるりが登場することによって、この状況に何か変化が起きるのだろうか……?

会議開始から30分。ついに社員たちには内緒で準備を進めていたサプライズゲストが登場した。

  • なるりが会議に登場!

川田氏以外の社員もこの登場は知らなかったため、チャット欄が賑わいを見せる。

  • なるりの登場に驚く川田氏

なるりが会議に登場してからは、チャットだけでなくマイクを通してなるりとの会話を楽しむ様子や、今まで発言していなかった社員が自分のアイデアを出す姿などが見受けられ、非常に会議が活発になった印象を受けた。

会議の最後には、第2回目の会議の通知と、次回は「顔出しして参加してほしい」という言葉とともに、なるり特製のバーチャル背景が配布された。

会議後、なるり登場に関して、川田氏は以下のように語った。

「最初の方は、自分の意見をある程度まとめてから話さなくてはいけないような雰囲気でしたが、なるりちゃんが登場してからは、思ったことをすぐに口に出せるような雰囲気になったと思います。また、名前を呼んで話を振ってもらえるので、かなり話しやすい環境でした」(川田氏)

後編では、2回の会議を通した考察となるり配信の裏側、そして後日譚として「TECH+編集部員との打ち合わせも盛り上げられるのか?」という企画に挑戦した様子をお届けする。