マイナビニュースマイナビ マイナビニュースマイナビ
Index square
( Money )
1 藤田行生の経済先読み

期待外れのG7サミット、「トランプ関税」と「中東緊迫」の影響はどこまで広がるか

JUN. 24, 2025 11:00
Text : 藤田行生
Share
Contents

2025年6月15日から17日まで、カナダ・アルバータ州カナナスキスで開催されたG7サミットは、国際経済および地政学の転換点として注目されました。しかし、期待された成果を十分に上げられなかったとの評価が多く見られます。

米国主導の関税政策やイラン・イスラエル間の軍事衝突への対応が主要議題となりましたが、首脳宣言の取りまとめには至らず、日米首脳会談でも関税交渉における大枠合意は実現しませんでした。中東情勢の緊迫化は市場に不透明感をもたらし、金融市場および日本経済に多層的な影響を及ぼしています。

以下では、これらの動向と市場への影響について考察します。

G7サミットと市場の反応

G7サミットでは、米国の関税措置、中東情勢、ロシアのウクライナ侵攻などが議論されましたが、米国と他国との意見の対立は解消されず、最終的に首脳宣言は見送られました。議長国カナダがまとめた声明に米国も署名しましたが、市場ではG7の存在意義そのものが問われ、不確実性が一層高まる結果となりました。

特に、トランプ米大統領がカナダやメキシコに対し「フェンタニル密輸阻止」を名目に25%の関税を課す方針を表明したことが、G7諸国間の緊張を高める要因となっていました。この措置は保護主義の強化と受け止められ、グローバルなサプライチェーンに混乱をもたらすとの懸念が広がっています。

関税によるコスト増は企業収益を圧迫し、特に自動車や製造業に大きな影響を及ぼすとの見方が強まっています。解決への期待が寄せられていたものの、具体的な進展は見られませんでした。

日米首脳会談:関税交渉の進展は見られず

日米首脳会談では、石破茂首相がトランプ大統領と自動車関税について協議しましたが、合意には至らず、協議継続が確認されたにとどまりました。日本の自動車産業は米国市場への依存度が高く、関税引き上げは深刻な打撃となります。トヨタやホンダは米国での現地生産比率を高めてはいるものの、複雑な部品供給網を考慮すれば、コスト上昇は避けがたい状況です。市場では、日米間の貿易摩擦が長期化するとの見方が強まり、日経平均株価は中長期的に上値の重い展開が予想されます。

為替市場では円安傾向が続く中、輸入物価の上昇がインフレ圧力を高め、消費者物価指数(CPI)への影響が懸念されています。日本企業は関税リスクの軽減を図るべく、米国以外の市場開拓や生産拠点の多元化を進める必要に迫られていますが、これには相応の時間とコストがかかります。

イラン・イスラエル対立とエネルギー市場

中東では、イスラエルによるイランの核施設への攻撃が行われ、G7は緊張緩和を求める声明を発表しました。しかし、トランプ大統領がサミットを途中退席したことで、米国主導による国際協調の欠如が露呈し、G7の影響力の低下が改めて浮き彫りとなりました。

この軍事衝突はエネルギー市場に直接的な影響を及ぼしています。イランはOPEC加盟国として原油供給の要であり、紛争のエスカレーションは原油価格の急騰リスクを高めています。サミット期間中、原油価格は一時10%以上上昇し、市場に不安が広がりました。

イランがペルシャ湾での原油輸送を妨害する可能性も取り沙汰されており、原油高は輸送・製造コストの上昇を通じて、グローバルなインフレ圧力をさらに高めるおそれがあります。

日本にとって、原油価格の上昇はエネルギー輸入コストの増加を意味し、製造業や運輸業の収益を圧迫します。日本銀行は、インフレ圧力の高まりと、トランプ関税による世界経済の減速という二重の課題に直面し、難しい金融政策の舵取りを迫られています。

  • 市場への影響は?

市場への総合的影響と展望

G7サミットの不調、日米関税交渉の停滞、そしてイラン・イスラエル対立の激化は、市場に多層的な不確実性をもたらしています。貿易摩擦の長期化はグローバル経済の成長鈍化を招き、輸出依存度の高い日本経済に下押し圧力を与えかねません。円安による輸出の恩恵も、関税コストやエネルギー価格の上昇によって相殺されるリスクが高いと見ています。

地政学的リスクの高まりは、エネルギー市場の不安定化を通じてインフレを加速させる要因となります。米連邦準備制度(FRB)はインフレ抑制を最優先とし、利下げに慎重な姿勢を崩していません。日本銀行も、円安によるインフレ圧力と景気減速懸念の間で、利上げのタイミングを見極めるという難題に直面しています。

投資家は、エネルギーや防衛関連株への関心を高める一方、自動車や製造業株には慎重な姿勢をとる必要があります。金や米国債といった安全資産への需要も一段と高まると考えられます。企業にとっては、サプライチェーンの見直しやリスク分散が急務となりますが、それには多大な時間とコストが伴います。

結論

カナナスキスで開催されたG7サミットは、国際協調の難しさと地政学リスクへの対応の課題を浮き彫りにしました。

日米間の関税交渉の停滞は日本企業に新たな挑戦を突きつけ、イラン・イスラエル対立はエネルギー市場の不安定化を通じて世界経済に影を落としています。

投資家や企業は柔軟な戦略とリスク管理の強化が求められており、G7の協調姿勢や中東情勢の推移を注視する必要があります。不確実性が高まる中、各国中央銀行の動向を見極めつつ、冷静な判断と迅速な対応がこれまで以上に重要となるでしょう。


Share

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

  • Pick Up
    Iapp
    PR
    未経験でも年収1,000万以上! 日本住宅ローンが“おもてなし採用”で求める人材とは?
    • PR
      Index.large
      【PR】黒一色で引き締まる洗練のスタイル - 超軽量ノートPC「FMV Zero」
    Weekly Ranking
    • 1

      Large
      「住民税が増えている!?」給料が変わらないのに、突然税金が高額になる“落とし穴”とは
    • 2

      Large
      住宅ローン金利が上昇中、『持ち家』と『賃貸』どちらが得かを検証してみた
    • 3

      Large
      ボーナスを定期預金に預けるならどこが一番お得? 各行の金利アップキャンペーンを比較
    • 4

      Large
      相続手続きの負担を軽減、近年市役所に増える「おくやみ窓口」とは?
    • 5

      Large
      「板橋区や練馬区などでも明確に上昇」東京23区の新築マンション平均価格から見えてきた、今後価格が上がる場所とは