クルマに詳しくない人でもその名を知っているフェラーリ。多くの人がスポーツカーの最高峰だと考えるブランドだけに、ネガなことを言ってはいけないような雰囲気もあるが、ジャーナリストとしてはそれではいけない。最新作の「アマルフィ」をメインに、最近のフェラーリのデザインを感情抜きで解説していこう。
フェラーリだからこそデザインを語りたい理由
フェラーリはスポーツカーの頂点。そう思う人は多いだろう。なのでデザインについても、私たちがあれこれ文句をつけるような存在ではないと考える人がいるかもしれない。
ただし、冷静にジャーナリストとして眺めると、フェラーリのデザインは、「らしさ」を大切にしているポルシェやアストンマーティンなどと比べると、世代や車種によって違いが大きく、それゆえに語るべきことが多い。
これはフェラーリが、デザインでもメカニズムでも、冒険や挑戦を欠かしてこなかったブランドだからだと言えるかもしれない。
例えば、創業以来作り続けている12気筒エンジンを搭載した車種として、2024年に発表された「12チリンドリ」は、前任車にあたる「812スーパーファスト」とは全く違う姿をしている。
とりわけ最近のフェラーリで目立つのは、先進的でありながら、そこに伝統的なディテールを融合させていることだ。
12チリンドリのフロントマスクは、「デイトナ」の愛称で知られる「365GTB/4」を思い出すし、ミッドシップの「296GTB」ではサイドウインドーやリアフェンダー、リアエンドを1960年代のレーシングカー「250LM」から引き継いだと公式にアナウンスしている。
では、2025年7月に日本で初公開された「アマルフィ」はどうなのか。実車を見る機会があったので、解説していこう。
今回も跳ね馬なしの顔に
アマルフィとは南イタリアの海沿いにある観光地の名前だ。V8フロントエンジンのルーツは「カリフォルニア」で、その後は「ポルトフィーノ」「ローマ」と続いてきた。4世代すべてが地名を車名にしたことになる。
フェラーリではこのアマルフィについて、ローマのエレガントなプロポーションをインスピレーションに、さらに彫り込まれたモダンなフォルムを追求したと説明している。確かにシルエットはローマに似るが、実車を見た印象はかなり違っていた。
なによりも目立つのは、フロントグリルがないことだ。左右のヘッドランプをつなぐのは薄いスリットだけで、中央にシルバーの跳ね馬を据えたグリルはない。
V8フロントエンジンのシリーズは、カリフォルニアからローマまでの全モデルが跳ね馬つきグリルを備えていた。12気筒でも、12チリンドリの前までは跳ね馬つきのグリルがあった。アマルフィで跳ね馬の位置にあるのは先進運転支援システムのセンサーで、12チリンドリもそうだ。安全対策とはいえ、驚きの決断である。
ボディサイドでは、水平に貫くキャラクターラインが明確になり、ホイールは20インチのままダイナミックな造形になった。ローマではスパイダーから追加された、フロントフェンダーのエンブレムも目につく。
リアはフェラーリ伝統の4連コンビランプが印象的だ。昔は丸型4連だったが、最近はLEDをいかしてスリムになった。このスタイルは現行フェラーリの他の車種も採用しており、しばらくこの意匠が受け継がれるだろう。
ただしアマルフィでは、上側がパネルで覆われた。ここは可動式スポイラーになっていて、車速やコーナリング時の横Gに応じて3段階に角度を変える。最大角度のときには、250km/hでダウンフォースを110kg増加させるという。
リアウインドー後端のブラックのパネルが、この可変リアスポイラーとつながったことも特徴。先代にあたるローマでは、この部分が半円形で、可変スポイラーとなっていた。形状を考えると、アマルフィのほうがダウンフォースを確実に発生しそうだ。
さらにリアでは、ナンバープレートがボディ色のパネル部分から、4本出しのマフラーを収めたブラックのバンパー部分に移動したことで、跳ね馬のエンブレムがより引き立つようになった。
あのボタンが復活!
アマルフィのボディサイズは全長4,660mm、全幅1,974mm、全高1,301mm。ローマと比べると全長がたった4mm長くなっただけだ。ホイールベースの2,670mmは変わらない。
メカニズムについても、3.9リッターV8ターボエンジンは最高出力が620psから640psにアップしているものの、760Nmの最大トルク、8速デュアルクラッチ式のトランスミッションなど、多くの部分はローマから引き継いでいる。
つまり、今回の進化はビッグマイナーチェンジとも言えるのだが、実車を目にするとローマより明確にダイナミックになっており、グリルレスという新たな試みも取り入れてあって、車名を改めただけの価値はしっかりあると感じた。
インテリアはインパネの運転席側と助手席側を盛り上げた、デュアルコックピットをローマから受け継ぐ。同じフロントエンジンの12チリンドリやフェラーリ初の5ドア「プロサングエ」にも似ていて、これが今のフェラーリのスタンダードと言える。
ただし、センターコンソールはローマのように高い位置からスロープさせるのではなく、インパネから切り離して低い位置にレイアウトした。グランドツーリングカー的だったローマから、よりスポーツカー的になったという印象だ。
ドアトリムの斜めのラインが傾きを強めていることもローマとの違い。センターコンソールにも同じ角度のパーツを加えてあって、モダンだしスピード感もある。今後のフェラーリに反映されていくかもしれない。
細かい部分だが、ステアリングもアマルフィのトピックのひとつだ。近年のフェラーリではタッチ式だったスタートスイッチが、アルミ製の赤いボタンに戻ったからである。クルマ好きの気持ちを汲んだ復活劇だと感心した。
アマルフィには、近年のフェラーリのディテールを受け継いだ部分がある一方で、グリルレスのフロントマスクのような新しい挑戦もある。フェラーリのデザインがいつも注目されるのは、こうした伝統と革新の絶妙な融合のおかげだと感じた。


















