スバル初のストロングハイブリッドシステムには気になる点がたくさんある。例えば、搭載する水平対向エンジンはなぜ2.0Lではなく2.5Lなのか、四輪駆動システムはなぜ機械式なのか、などなどだ。同システムを搭載する「クロストレック」に試乗して開発陣に話を聞いてきた。
なぜ電気式4WDにしなかった?
話を聞いたのは、技術本部走行性能開発第5課担当の北浦知紀氏、同本部車両開発統括部の里村聡氏、同統括部主査の清水亮介氏の3人だ。
まず、今回の水平対向エンジンが2.0Lではなく2.5Lである理由については「よく聞かれます」と北浦氏。理由としては、「北米ですでに出しているプラグインハイブリッド車(PHEV)は2.0LエンジンとTHS(トヨタハイブリッドシステム)の組み合わせなのですが、クロストレックよりボディが大きいクルマにも搭載することを想定すると、ハイウェイへの合流の場面などでは、少し非力な面がありました。あちら(北米)では、パワーは出れば出るほどいいという評価ですので、今回は2.5Lということになったのですが、実は、ストロングハイブリッド用の2.5LはピュアICE(内燃機関だけで走るクルマ)用に比べてエンジン自体の出力が少し下がっています。アトキンソンサイクル仕様とすることで燃費方向に設計を変更したからで、逆に熱効率自体はかなり上がっています」という。
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「FB25」型自然吸気2.5L DOHC4気筒直噴ボクサーエンジン(最高出力160PS/5,600rpm、最大トルク209Nm/4,000~4,400rpm)に発電用と駆動用(119.6PS/270Nm)の2基のモーターを組み合わせたストロングハイブリッドシステムを搭載する「クロストレック」。試乗したのは405.35万円の「Premium S:HEV EX」だ
さらに、「ハイブリッドの駆動用モーターは大きなものを搭載したので、トータルの出力はプラスになっています。パワーと燃費の両立は排気量の余裕があってこそで、2.5Lの方が良かったんです。回生の量と動力に使うアシストの領域が広がっているので、エンジンがかかる時間、つまりガソリンを使う時間が減り、燃費が向上します」とのことだ。
ハイブリッドシステムにアライアンス関係にあるトヨタの「トヨタハイブリッドシステムⅡ」(THSⅡ)を採用したことについては、「基本的な構造原理や制御思想は踏襲していますが、トヨタの横置きエンジン用のハードをスバルの水平対向縦置きエンジンにどう入れ込むかという構造的な部分、制御方法はスバルのオリジナルで、調整がけっこう大変でした。さらに、四駆のシステムとして機械式のペラ軸(プロペラシャフト)を入れた点は、今回のシステムで最も端的にスバルらしさを発揮している点だと言えます。THSⅡなので、トヨタ『RAV4』のようにモーターで後輪を駆動するタイプでも良かったはずなんですけど、あえて機械式のペラ軸を選択したのは、ある意味でスバルの“意地”だと思っています。EV(電気自動車)時代にあっては電動のイーアクスルというのは当たり前になるんですが、制御や性能面を考慮すると、まだペラ軸ありの方が有利だという判断がありました」という。
スバルの走りを実現するために
「マイルドハイブリッドの次の段階として、フルハイブリッドについてはスバルでもいろいろなケースを作ってやってきましたがが、今回はトヨタさんとのアライアンスがあったおかげで、やっと実現しました」と語るのは里村氏。
「実は、営業の方からは、国内の税制の関係で2.0Lの方が売りやすいという声が非常に強く上がっていました。しかし、燃費を考慮してアトキンソンサイクル化すると、市街地などの通常領域では差が出ませんが、トップエンドについてはトルクが落ちます。THSⅡは高速道路などの車速になるとエンジンだけで走っているので、そうした場所ではアクセルを踏み込むことになり、高回転になって上品な走りができず、2.0Lエンジンだと燃費も伸びません。最適解が2.5Lエンジンだったんです」
さらに「トヨタさんのRAV4やカローラクロスに対しては、残念ながら燃費性能ではあちらの方が長くやっておられるのでまだ追いついていません。一方で四駆の性能では、雪や悪路での乗り比べを行うと機械式の方が優秀で、そこはスバルらしい性能が発揮できているところです。たとえばTHSⅡは構造上、バックの時にはエンジンの駆動力が全く使えないので、モーターを逆回転させて進むしかありません。トヨタさんからすると、スバルがなぜこんなに大きなモーター(最大トルク270Nm)を積むのか疑問に思われるかもしれませんが、その力をペラでリアに伝えることで、坂道をバックで登ることができます。前後モーターにした場合の小さなリア用モーターだけでは登れない坂道でも登れるんです」という。機械式四輪駆動を残したのはスバル基準の走りを実現するためなのだ。
清水氏は先日の「東京オートサロン2025」会場に足を運び、クロストレックのストロングハイブリッド車を「もう買った」という顧客に話を聞いたそうだ。
「お客様から『燃費がすごく良くなった』との話を聞かせてもらって安心しました。スバルは燃費がダメという固定観念があったと思うんですが、そこをなんとか打破したかった。そんな願いを込めて熟成させたのが、今回のストロングハイブリッドなんです」
別稿の試乗記の通り、実際に乗ってみると、スバルのフルハイブリッドの仕上がりはなかなかいい。2024年12月にストロングハイブリッドのクロストレックが登場して以来、その受注率は64%と半分以上をマークしていて、400万円前後という高価格帯にも関わらず好調な売れ行きを示しているようだ。これまで唯一のネガポイントといわれた燃費性能を大きく改善したストロングハイブリッド+高性能な四輪駆動は、スバルの新たなスタンダードになっていくに違いない。