今年も「スーパー耐久」(S耐)の「ST-Q」クラスに参戦するスバルとマツダ。レースではライバル関係にある両社だが、実は2024年から参戦車両に使う「再生カーボンパーツ開発」を連携して行っている。どんな取り組みで何が狙いなのか、「SUBARU×MAZDA スーパー耐久シリーズ トークイベント」で聞いてきた。
両社の連携は「共挑」がきっかけ
スバルとマツダの再生カーボンパーツ開発は、“共挑”をスローガンに国内5社が自動車メーカーの垣根を越えて設立した「S耐ワイガヤクラブ」の取り組みの一環だ。
今回の連携について、「MAZDA SPIRIT RACING」の代表を務めるマツダの前田育男さんは、「スバルの本井雅人さん(Team SDA Engineering代表)からS耐ワイガヤクラブで何か一緒に開発しませんかと話があった際に、我々のクルマはフロントが重いので、なんとか軽くしたいという思いがあり手を挙げた」ことがきっかけだったと話す。
-
「カーボンニュートラルの実現」「人材育成」「技術開発」「モータースポーツの発展」をメーカーの垣根を越えて取り組むS耐ワイガヤクラブ。スローガンは“共挑”で、ロゴのグラフィックはマツダのデザイナーが担当した
“共挑”の舞台となるS耐は、1991年に始まった日本発祥の自動車レース。市販量販車をベースとするマシンで戦う日本最大級のレースだ。9つにクラス分けされた各カテゴリーに、アマチュアレーサーからプロドライバー、小さなチームからワークスチームまで幅広く参加している。
マツダとスバルが参戦するST-Qクラスは、2021年に新設された比較的新しいカテゴリー。特徴は他クラスに該当しない「STO」(スーパー耐久機構)が認めた開発車両が参戦することだ。他クラスとは趣が少々異なるが、小型車からスーパーカーまでバラエティに富んだ車両がガチンコ勝負を繰り広げるカテゴリーとなっている。
再生カーボンパーツが秘める可能性
ST-Qクラスに参戦するスバルとマツダのレース車両が使う再生カーボンパーツは、スバルの航空事業で出た「廃材」を使用している。その狙いはカーボンニュートラルだ。
スバル航空宇宙カンパニー 基盤技術部の関根尚之さんによれば、「炭素繊維」(カーボンファイバー)は「ポリアクリロニトリル」という繊維を2,000~3,000度の高温で焼いて作る。つまり、製造時にCO2を排出しているのだ。そのため、すでに作られた炭素繊維を繰り返し何度も使用できればCO2排出削減効果に期待できる。
ボンネットに再生カーボンパーツを採用する「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」(写真左)と「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept」(写真右)
スバル航空宇宙カンパニーが扱う「ボーイング787」向けの「中央翼」(左右主翼と前後の胴体をつなぐ部材)は高い強度と剛性を必要とするパーツで、使用する炭素繊維は自動車用と比べて強度や弾性率に優れている。この上質な炭素繊維を自動車用カーボンパーツとして再生し、レース用車両に活用しているというわけだ。
再生カーボンパーツは「持った瞬間にわかるほど、従来のカーボンパーツに比べて圧倒的に軽い」とマツダの前田さん。このパーツを使うことで、マシンの軽量化による走行性能の向上や燃費向上によるさらなるCO2削減が期待できる。
スバルには何のメリットがある?
スバルの航空事業から生まれる恩恵をマツダが享受していることは十分に理解できたのだが、この取り組みでスバルにはどんなメリットがあるのだろうか。両社の再生カーボンパーツ開発では、スバルがマツダに再生カーボン材を無償提供している。ST-Qクラスで競い合う両社の関係を考えると、言わば「敵に塩を送る」ようなものだと思えるのだが……。
実際、2024年11月に富士スピードウェイで行われた最終戦「S耐ファイナル富士」の予選では、「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept」が「HIGH PERFORMANCE X FUTURE CONCEPT」を0.058秒差で下している。これにはスバルの大崎篤社長も、「(MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio conceptが再生カーボンパーツを使わず)スチールだったら勝てただろう」と思わず唇をかんだという。
それでも連携するスバル側のメリットとは? 本井さんに聞いてみると、「勝負もありますが、大きく言うと自動車業界、レース業界を盛り上げるのも私たちの使命だと思っています。その中で一緒にやれるところはやりたいですし、1社ではなく2社で取り組むことで発信力も高まります」とのことだった。
技術面で得られるものもあるそうだ。本井さんは続ける。
「カーボンの成形方法は1つではありません。スバルとマツダでも方法は異なります。2社間の技術連携では、我々がマツダにカーボン材を無償提供する代わりに、マツダからはフィードバックをいただきます。例えば、マツダのやり方ではこんな不具合が出たとフィードバックをいただいたら、じゃあこうしたらどうかというふうに解決策を考えることができます」
なお、SUBARU恵比寿ショールームでは1月19日(日)までスーパー耐久シリーズ参戦車両の合同展示を実施している。実物が見たい方は足を運んでみては?