法整備を含む働き方改革の実行計画が明らかになったいま、柔軟な働き方を実現する手段として「テレワーク」を導入する企業が増えている。ICTの活用により、時間や場所を有効活用できる働き方を実現するテレワークには、どのようなメリットがあるのだろうか。また企業は労務管理上、どんな点に留意すべきなのか。本連載の第1回となる今回は、厚生労働省 雇用環境・均等局 在宅労働課 テレワーク係長の梅村渉介氏に話を聞いた。

企業の生産性向上に有効なテレワーク

長時間労働の是正や同一労働・同一賃金の実現を目指し、本格的な取り組みが始まった働き方改革。その実行手段の1つとして、労働環境の改善やワークライフバランス(仕事と生活の調和)の推進に寄与するテレワークを導入する企業が増えている。

テレワークとは、ICTツールの活用により時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方を指す。外出先でのモバイルワーク、サテライトオフィス勤務、在宅勤務などオフィス以外の場所で働ける環境を用意し、出勤時間や移動時間の無駄をなくして業務効率化を実現することを目的としている。すでに日本でも2000年前後から導入企業が出始めるなど、決して新しい勤労形態ではないが、国を挙げて働き方改革が進められる中、改めて注目度が高まっている。

厚生労働省 雇用環境・均等局 在宅労働課 テレワーク係長 梅村渉介氏

厚生労働省でも、雇用と労働を所管する立場からテレワークによる働き方改革を積極的に推進している。その理由はテレワークの導入によりもたらされる効果にあると、梅村氏は話す。

「テレワークは、オフィスに通勤することが困難な、育児や介護に携わる人、身体障害者や高齢者などが仕事を継続するための解決手段の1つです。多様な人材に働く機会を提供できるようになることで、少子高齢化による今後の労働人口減少にも効果があります。また企業が限られた労働力で業績を上げるには生産性を高める必要がありますが、それを実現するのにもテレワークは有効です」

  • 厚生労働省による「テレワークモデル実証事業」で行われた企業アンケート調査及び従業員アンケート調査から判明したテレワークの効果
    出展:厚生労働省「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック」より

2020年度に「企業の34.5%/労働者の15.4%」を目指す

厚生労働省ではこうしたテレワークの導入効果を評価し、10年以上前から総務省や経済産業省、国土交通省などと連携しながらテレワークの導入を推進するための施策に取り組んできた。

「総務省の調査によると、2016年におけるテレワークを導入する企業の割合は13.3%となっています。また国土交通省の調査では、企業等のテレワーク制度に基づいてテレワークをしている労働者の割合は2016年度で7.7%という数字が出ており、まだテレワークの利用を拡大していく余地は大きいものと言えます。現在、働き方改革の一環としてテレワーク導入の機運が高まっていることもあり、2020年度までにテレワーク導入企業の割合を34.5%、企業等の制度に基づいてテレワークを行う労働者の割合を15.4%まで増やす(※)、という政府目標を持って、さまざまな施策に着手しています」(梅村氏)

※平成29年5月30日閣議決定「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」において、平成32年(2020年)には、テレワーク導入企業を平成24 年度比で3倍、テレワーク制度等に基づく雇用型テレワーカーの割合を平成28 年度比で倍増することとされている

そうした施策の1つとして、厚生労働省では2016年12月に「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック」を発行した。このガイドブックは主に、企業経営者・経営企画部門、人事・労務・総務部門の担当者を対象にしたもので、テレワークの導入メリットから導入手順・推進体制から実施するための全体方針やルール作り、セキュリティ、人事評価の方法まで、わかりやすくまとめられている。

さらに、この中にはテレワークを実現するためのツールとして、リモートデスクトップ方式や仮想デスクトップ(VDI)方式、クラウドアプリ方式など具体的なシステム構築の手法も紹介されており、情報システム部門の担当者にとっても役に立つ内容だ。

厚生労働省もリモートデスクトップ方式を実践

厚生労働省では、ガイドブックのほかにもさまざまな施策を打っている。例えば2015年度からは「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」という表彰制度を始めた。テレワークの活用によって働き方改革の実現に成果を上げた企業を表彰するとともに、その取り組みを事例集にまとめて公表している。

ちなみに、厚生労働省そのものはテレワークをどのように導入しているのだろうか。

「厚生労働省でも、自宅から職場のPCにアクセスして仕事ができる環境を用意しています。私自身も、ときどき在宅勤務を行っています。家庭の都合、あるいは悪天候や交通事情により、時間通りに出勤できないことが見込まれる場合であっても、業務を滞りなく進められるので、テレワークの有効性は身を持って実感しています」(梅村氏)

このほか厚生労働省では、テレワークに関する情報提供や相談窓口として、テレワーク相談センターや、東京都と連携して開設した「東京テレワーク推進センター」による支援活動も積極的に行っている。厚生労働省が制作したガイドブックはこのセンターでも配布されており、東京テレワーク推進センターでは、配布が追いつかないほどの人気だという。

「働いた証拠」に基づく労務管理が重要

一方で厚生労働省は、テレワークを導入する際に企業が留意すべき点についても検討を重ねてきた。

「例えばテレワークによって、どこでも仕事ができる環境が整備されたからといって、自宅に仕事を持ち帰らせ、無給で働かせるようなことがあってはなりません。こうした事態を未然に防止するには労働関係法令の遵守に基づいて、労務管理を適切に行い、就業規則などを改訂し、時間外労働に関する規定を明確にする必要があります。こうした労働関係法令の遵守が必要になる雇用型テレワークの労務管理について、『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン』を策定し2018年2月に発出しました」(梅村氏)

このガイドラインに示される内容の中で、特に重要なのは「労働時間を適切に把握すること」と梅村氏はいう。

「テレワーカーの労務管理についても、自己申告に任せるのではなく客観的な記録に基づくことが求められます。また、労働時間を適正に把握していないと、事故が発生した場合に、労災の適用が困難になる可能性もあります。『どこで仕事をしたか』『いつ仕事をしたか』を記録することは非常に重要であり、パソコンのログなど、可能な限り客観的な記録を確実に取得することが望まれます。テレワークを導入するにあたっては、時間外労働の監視も含め、ログを根拠とする労務管理をしっかり行うべきです。ガイドラインの中では、テレワークに際して生じやすいいわゆる中抜け時間や移動時間の扱いなども含め、労働時間の考え方、労務管理のポイントを示しています」

このようにテレワーク普及の下地は整いつつあるが、梅村氏によると2020年に向けて実施を予定している取り組みがあるという。

「総務省や経済産業省、国土交通省と連携し、2020年の東京五輪の開催期間に合わせてテレワークを一斉に実施する『テレワーク・デイズ』という取組を計画しています。これはオリンピック期間中の通勤・移動による交通混雑を避けることが狙いで、2012年のロンドン五輪でも同様の施策により成果を上げていたと聞いています。今後、企業等に賛同を呼びかけ、国民運動プロジェクトとしてテレワークを促進する予定です」(梅村氏)

ここまでは、働き方改革の実現手段として注目されるテレワークの動向について聞いた。では、具体的にテレワークを導入するには、どのような方式を選べばよいのか。次回はその基盤となるシステムの選び方について解説する。

[PR]提供:日商エレクトロニクス