経済産業省による「2025年の崖」という言葉が、国内のさまざまな企業の間で話題に挙がるようになって久しい。では、「2025年の崖」の真に意味するところはどこにあり、「2025年の崖」を乗り越えるために企業はどのようなデジタル戦略へと踏み出せばいいのだろうか。そしてその際に「自動化」はどういった意味を持ち、企業はどう自動化に取り組めばいいのだろうか──。

本連載の最後を締めくくる第3回目では、日本企業が「2025年の崖」をいかにして乗り越えるべきなのかをテーマに、日本電気株式会社(NEC)の吉田功一氏と、マルチクラウドにおけるインフラ自動化ソフトウェアのリーダーである米HashiCorp社の日本法人、HashiCorp Japan株式会社の伊藤仁智氏による対談を行った。

  • HashiCorp Japan株式会社 シニアソリューションエンジニア 伊藤仁智氏

    HashiCorp Japan株式会社 シニアソリューションエンジニア 伊藤仁智氏

  • 日本電気株式会社 サービス&プラットフォームSI事業部 プロジェクトマネージャー 吉田功一氏

    日本電気株式会社 サービス&プラットフォームSI事業部 プロジェクトマネージャー 吉田功一氏

「2025年の崖」が真に意味するところと両社の役割とは

吉田氏:最初に当社の話からさせていただくと、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れを受けて、NECもまたDXやデジタルイノベーションに関わる事業に注力しています。従来はシステムの品質に徹底的にこだわってきたわけですが、加えて顔認証や分析基盤などをはじめとしたNECのアセットを活かしたシステムの追求──つまりオファリング(価値提供)の手段としてのシステムづくりという考え方を取り入れています。そうなると、そもそもプラットフォームはクラウドとオンプレミスのどちらが適しているのかという段階から、オファリングに応じて価値の目線も変わってきます。それにより、新しいアプローチにもチャレンジしやすい環境に変わり始めていると実感しています。

そして「2025年の崖」とは、一企業としてよりも日本全体の課題であると考えます。「崖」というと危機感を煽るような言葉に聞こえますが、実はこのテーマに言及している経済産業省の白書などでは必ずしも危機感の面ばかりが説明されているわけではありません。その意味するところは“崖から落ちない”──つまりマイナスをゼロにするといった世界だけではなく、実はピンチをチャンスに変えようというものです。2025年になると、ますますITの活用の仕方でビジネスの成否が決まってくるでしょう。その2025年頃に、時を同じくして日本企業のシステムの多くが老朽化を迎えるわけで、すると他社に先駆けて破壊的イノベーションを成し遂げた企業が競争で優位に立てるという先駆者有利な状況が見えてくるのです。

これらの要素をふまえると「2025年の崖」には、2つのステップで対応するのが得策と考えています。最初のステップは、いま抱えているITリソースの維持費・保守費の負担を軽減することです。そのうえで、次のステップとしてデジタル・ディスラプション(破壊的イノベーション)を起こす側に立てれば、ビジネスの勝者になれるということです。

北米を拠点に活動されているHashiCorpさんは「2025年の崖」をどう捉えていますか?

伊藤氏:正直、「2025年の崖」という言葉自体は社内では浸透していません。ただその本質的な問題は、日本企業のIT活用の遅れがいま致命的な段階に来ていることにあって、このような状況を言葉として表したのが「2025年の崖」であるのではないでしょうか。そしてDXの考え方にしても、お客様によってかなり違うなとも感じています。一つ言えるのは、ただ新しい基幹システムを導入してIT化を進めればいいという考え方では、逆の方向に向かってしまうということですね。だからと言ってすべてをクラウドに持っていけばいいのかというと、それもまた違うでしょう。

重要なのは、現状のSoR(Systems of Record)なIT資産をいかにうまく使いつつ、別のアプリケーションやサービスと連携してSoE(Systems of Engagement)へと変えていくかであって、その間の段階としてクラウドシフトがあるのではないでしょうか。その際に当社のTerraformが役に立てるのが、オンプレミスやクラウドを問わず、さまざまなコンピューティングやストレージ、そしてサービスのプロビジョニングをいかに自動化するかというところです。つまり、DXを成功させるための一つの手段としてTerraformがあり、さらにTerraformを使いやすくしてくれるのがExastro ITAであると考えます。

吉田氏:全部が全部クラウドネイティブではないというのは納得できます。ただしモノリシックなシステムの中にもクラウドシフトするのが妥当な機能があって、そこはクラウドネイティブにしましょうというのが正解だと思います。少なくとも運用における機能デリバリーの問題であれば、クラウドネイティブのテクノロジーで解決できるケースがあります。そうなると、システム全体ではモノリシックとクラウドネイティブのハイブリッドになるので、クラウドリソースの払い出しをオーケストレーションしてくれるTerraformに期待しているわけです。

クラウドネイティブのカギとなるワークフローの統一

吉田氏:クラウドにすればさまざまなサービスをぱっと組み合わせられるようになるので、“賞味期限切れ”のものを切り捨てやすくなります。HashiCorpさんは先進的なツールをフットワーク軽く出していて、製品ロードマップを見てもその目指している世界というのは、ITの単位コストあたりの売上を伸ばし、ビジネスのスピードについていきやすくするという“攻めの自動化”を目指されているのだと理解しました。

伊藤氏:まずはコスト削減をはじめさまざまな理由からクラウドシフトしましょうとなるわけですが、そのためにはいろいろなチャレンジをする必要がありますよね。まずインフラではIaaSレイヤのプロビジョニングが重要となります。各IaaSごとに多種多様なツールがあるものの、ベンダーロックインに近い状況にあるからです。そこで、どのクラウドサービスでもプロビジョニングが可能なTerraformにより、ワークフローを統一するというアプローチが効果を発揮するのです。

HashiCorpのツールに共通しているのが、クラウドオペレーションにおける「ワークフローの統一」というコンセプトです。

吉田氏:クラウドネイティブを突き詰めるとワークフローの統一に到達するというのは、そのとおりだと思いますね。

ROIの引き上げを見据えたクラウドオペレーションのあり方

吉田氏:本来、企業が目指すべきデジタル戦略の最終的な目的であり目標というのは、ITリソースを活用し利益向上を実現すること、言い換えればデジタル競争に勝つことであると思いますが、そのためにやるべきステップがあるはずです。

まず1つ目のステップは、運用に必要な保守費と人件費を削減することにより、 OPEX(運用費)を下げて投資にまわすことです。そのためのクラウドネイティブな手法としては、オートスケーリングや分散トレーシング、メトリックス監視、仮想化によるハードウェア寿命からの解放などが挙げられるでしょう。

吉田氏:そして2つ目のステップは投資の質を上げて売上につなげること、すなわち、OPEXの効率化だけでは片手落ちで、ROI(Return on investment:投資利益率)の引き上げが重要だという論理になります。そのためには、まず単位時間あたりの提供機能数=価値の向上というアプローチが求められるでしょう。これはアプリの継続的開発に相当します。そして次のステップとなるのが、高速・スケーラブルな機能提供(リリース)であり、これにひもづくクラウドネイティブな手法として、マイクロサービスアーキテクチャやサービスメッシュ、ブルーグリーンデプロイメント、宣言的APIなどが挙げられます。このうち宣言的APIは、少ないコードでシステムリソースを定義できるので、高速でスケーラブルなシステムの実現に寄与します。

私はHashiCorpが提唱するクラウドオペレーティングモデルというのは、高速・スケーラブルな機能提供のステップに関わるクラウドオペレーティングな手法を束ねるものだと理解しています。つまり、ROIの引き上げへの貢献こそが最大の強みであると見ています。

伊藤氏:まさにそのとおりで、CI、CD、マイクロサービスアーキテクチャ、サービスメッシュ、ブルーグリーンデプロイメント、宣言的APIの6つというのはバッチリ当てはまると思います。ただ多くの日本企業がやろうとしているのは最初のステップのOPEXの効率化までで、ROIの引き上げまでやろうとするとかなり勇気がいるのが現状ではないでしょうか。

吉田氏:システム全体の中でイミュータブル(廃棄容易)にできる部位に関しては、Terraformなどの優れたツールがありますので、我々が注目しているのは、そうした頻繁に改造するイミュータブルな部位をクラウドネイティブに切り出すことです。ただし、クラウドネイティブアーキテクチャではできる限りイミュータブルにしようと頑張ったとしてもそうできない部位が存在します。こういった箇所にもメスを入れなければ実現できないことに対して、ビジネスモデルを柔軟かつ迅速に変更できるようにするには、さらなる工夫が必要となってきます。

大事なことは、顧客や売上の「永続データ」等のイミュータブルにはできない部位にも自動化の手段は提供されており、それも使って全作業を自動化することで、クラウドネイティブな環境と同じスピードを出せるはずだということです。そうすれば、イミュータブルな部位に対する解決策と合わせて、ビジネスモデルを柔軟かつ迅速に変更することができるようになり、デジタル競争に勝てるというわけですね。

具体的には、クラウドネイティブアーキテクチャに関してはできるだけ宣言型IaC(Infrastructure as Code)を用い、どうしてもできない永続データ等に関わる部分は命令型IaCによる自動実行でスピードを損なわないようにするわけです。Exastro ITAではこの宣言型IaCと命令型IaCの両方を使えるように、特に宣言型IaCの実行プラットフォームとしてTerraformに期待しているところです。

伊藤氏:Exastro ITAは、デベロッパーもオペレーターもそしてセキュリティチームもみんなが一緒のプラットフォームで作業するのにとても適したツールですよね。クラウドに移行させたあとの世界を考えると、クラウドのリソースの最適化を突き詰める必要が出てくるわけですが、そこでExastro ITAやTerraformのようなツールが必要となってきます。人間は必ずミスするものなので。

Exastro ITAはゲーム機の本体のような存在に

吉田氏:我々としても宣言型IaCのところをHashiCorpさんとともに強力に推し進めていきたいですね。クラウドネイティブで特に重要なのはスピードであり、そこでは宣言型IaCが必要です。

Terraformの魅力は、パブリッククラウドをまたがるリソースのオーケストレーションをHCLという共通の言語で記述できることであり、またエンタープライズでの利用で必須となるポリシーアズコードを提供できることにあると感じています。

伊藤氏:人間の目でチェックしているとミスも時間もかかるので、そこをポリシーアズコードでコード化してしまうというのは、オペレーションだけでなくセキュリティ面でも効果が大きいでしょうね。

逆に我々がNECさんに期待しているのが、外資系の小さなベンダーである我々にはなかなか接点が作りづらい、金融機関など日本のいわゆる“お硬い”組織へのアプローチを一緒にしていただけたらということです。Exastro ITA自体もオープンソースですから、その知名度向上に従って当社の製品も一緒に組み込んでもらえるようにしていけたらいいですね。さらに言えば、組み込むためにも技術が必要となるので、最初からExastro ITAの中に入れてもらえればより効果的ではないでしょうか。

吉田氏:NECが目指しているのは、Exastro ITAがゲーム機の本体のような存在になることです。システムテンプレートをメニューとして“カートリッジ”のようにラインナップし、ニーズに応じて柔軟に“付け外し”できるようにするわけです。

吉田氏:このように、今後もExastro ITAは、システムテンプレートの実行基盤としてさらに使いやすさを追求していきますので、ぜひさらなる両社の連携を強めていきましょう。

伊藤氏:こちらとしても、ぜひよろしくお願いします。

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