自動車産業やロボット産業では電子制御システムの重要性と開発の難易度が高まっている。そんななか、パナソニック アドバンストテクノロジーが取り組むのがMATLAB/Simulinkを活用したモデルベース開発(MBD)だ。開発現場だけでなく、社内エンジニアの育成を目的としたモーター制御のMBDトレーニング教材や、リチウムイオン電池の過充電による発火や絶縁破壊によるユーザーの感電に対する機能安全対応などの分野でもMBDを活用し、成果を上げている。

「何を開発するか」に加え「どうやって開発するか」を重視

オートモーティブ・住宅・医療・ロボティクス・セキュリティの分野で、システムやソフトウェア設計開発を提供するパナソニック アドバンストテクノロジー。パナソニックにおける先端技術開発をR&D部門と密接に連携しながら展開してきた同社は、その高品質なソフトウェア開発技術を駆使した、設計から開発まで全工程をサポートする技術力と提案力が大きな特徴だ。

オートモーティブ分野では、コネクテッドカー対応やドライブアシスト機能対応など、大規模化と複雑化が進むなかで、高機能で高品質な製品開発を実現する車載ソリューションを展開する。2012年には機能安全設計の認証システム「ISO26262機能安全プロセス認証」を取得し、コンサルティングからコンセプト作成、開発、認証取得支援まで、機能安全対応に必要なサービスをワンストップで提供できる体制を整えた。車載ソフトウェアプラットフォーム「AUTOSAR」上での機能安全対応OS・ソフトウェアの開発も手がける。

また、モデルベース開発(MBD)による開発のフロントローディングを進め、上流での制御アルゴリズム設計、安全設計、機能・性能検証も行う。これまでに、先進運転支援システム (ADAS)、EV/HEV向けパワートレイン(インバータ、コンバータ)、車載バッテリーシステム(リチウム/ニッケル/鉛)、充電器システム、ヒートポンプ空調システム、自動車向け電気・熱統合マネジメントシステムなどを開発してきた実績がある。

パナソニック アドバンストテクノロジー 高信頼性開発センター総括担当 第一開発部 部長 堀江雅浩氏

パナソニック アドバンストテクノロジー 高信頼性開発センター総括担当 第一開発部 部長 堀江雅浩氏

同社 高信頼性開発センター総括担当 第一開発部で部長を務める堀江雅浩氏は、ものづくりのアプローチについて「センシングや認識技術、機械学習、デバイス制御、自動ブレーキなどの『要素技術』と、機能安全対応や開発プロセス、シミュレーション、高信頼設計などの『設計開発技術』を組み合わせて開発を進めます。要素技術は何を開発するのかという『What』に、設計開発技術はどうやって開発するのかという『How』に相当しますが、Whatだけでは開発できません。Howを含めた両方を持つことが当社のコアコンピタンスです」と説明する。

  • パナソニック アドバンストテクノロジーの保有技術

MATLAB/SimulinkをMBDトレーニング教材に活用

WhatとHowの両方を自社の強みとするためには、どうやって開発するかを突き詰める必要がある。また、それを維持し続けるためには、開発者のトレーニングも不可欠だ。そうしたなか、パナソニック アドバンストテクノロジーは、Howの部分でMATLAB/Simulinkを幅広く活用している。特にバッテリー制御では、Whatの部分では実機での制御アルゴリズム検証は危険を伴うため難しく、シミュレーション技術を適用することは有用である。電気/機械/制御などのマルチドメインの要素が絡んだ複雑なシステムにおいて、モーター制御は、システム全体のシミュレーションから制御アルゴリズムのマイコン実装まで、業界を問わずMBDのニーズが多い。

「MATLAB/Simulinkを使ったMBDは自動車業界で広く導入されています。MBDによるシミュレーションをシステム開発の中心に据え、要件定義から、アーキテクチャ設計、実装、テストといった各工程で活用することで、高信頼性が必要なシステムを高効率で開発できることが大きなメリットです。特に、この一例として、パワエレ系(モーター制御、コンバータ制御、バッテリー制御)」はフォーカスしている分野の1つです。」(堀江氏)

もっとも、MBDで制御システム(コントローラ+プラント)を設計することと、機能安全対応の組み込みシステムを設計することは基本的には別の課題だ。MBDを導入したからといって機能安全対応が済むわけではない。そこで同社では独自のモーター制御を題材としたMBDトレーニング教材を整備し、MBD技術者育成に努めてきたが、特定の設計、開発工程のMBDスペシャリストでは踏み込んだ開発プロセス改善ができないという課題があったという。そこで採用したのがMATLAB/SimulinkによるMBDだ。

「それまでのトレーニング教材は、ツールや特定の開発工程にフォーカスしていました。そのため、開発のV字プロセス全体を俯瞰したうえで、柔軟に開発戦略を立案していくスキルが求められました。MATLAB/Simulinkを採用したトレーニングではこの点を改良。業界問わずにニーズの多いモーター制御を題材に、ソフトウェア開発の領域を超えた開発V字プロセス全体において一気通貫でのMBDを経験できるようにしました」(堀江氏)

受講者には、シミュレーションと実機の手触り感を持ってもらうため、実機を扱う環境を用意した。要件定義では、あえてラフな要件で受講者にシステム設計から着手してもらえる課題を設定。モデルとインタフェース設計まで行ってからは、Simulinkに移行し、MBDのポイントを習得できるようにした。

  • 要件定義
  • 作業画面

堀江氏はその効果を「MBDの工程を一通り経験する環境を構築することで、Whatだけでなく、Howやアーキテクチャに関する手触り感を理解できるトレーニングが実施できます」と話す。

EV/PHEVバッテリーの機能安全対応に活用

MATLAB/Simulinkの特徴的な事例としてはもう1つ、EV/PHEVのバッテリー充放電コントローラの機能安全対応での活用がある。一般に機能安全とは「故障が起こることを前提に危険を回避する安全機能を実装すること」を指している。自動車分野でISO26262として規格が標準化されてからは、自動車部品サプライヤーにとって機能安全規格を遵守することはOEMからの必須要求となっている。

「欠陥がないことを担保するのが信頼性です。これは『Automotive SPICE』(ISO15504)で定められています。一方、危険状態に移行させないことが安全性です。これは『機能安全規格』(ISO26262)で定められています。信頼性を担保したうえで安全性を実現することが求められます」(堀江氏)

EV/PHEVのバッテリー充放電コントローラは、大きく充電システム(車載)と、バッテリーマネジメントシステムの2つで構成されている。充電システムは、家庭用電源や充電ステーションからの急速充電を行うシステムで、車載充電コントローラで制御する。また、バッテリーマネジメントシステムは、バッテリーやセルの状態監視、セルバランスを行うバッテリーマネジメントコントローラで制御する。機能安全対応としては、フルモデルで記述しただけでは不十分で、適切な安全分析に基づく安全メカニズムが必要になるという。

  • 安全コンセプト例のイメージ

「機能安全対応としては、主に、過充電によるリチウムイオン電池の発火と、絶縁破壊によるユーザーの感電という2つのハザード対策を行います。具体的には、過電圧、過昇温、漏電などの異常を検知し、バッテリーの高電圧系をリレーで遮断するというイメージです」(堀江氏)

こうした対策はカーメーカーと共同して実施していくが、その際の共通言語になるのがMATLAB/Simulinkだ。電源系冷却用電磁バルブの制御や、温度センサーによるチェックを、モデルを使って行う。

  • カーメーカー様との共同作業における共通言語としての活用例
  • カーメーカー様との共同作業における共通言語としての活用例
  • カーメーカーと共同してSimulinkで作業している

「仕様段階で考慮漏れが発生しやすい機能や機能間の優先順位をモデルで記載することで漏れなく明確化します。文章にすると複雑で誤解が生じやすい仕様も、誤解なくコミュニケーション可能です。仕様上の不具合をシミュレーションすることで検証することもできます」(堀江氏)

WhatとHowの強みを生かした価値提案を続ける

機能安全対応では、開発効率改善も重要な課題となる。そこで同社では、AUTOSARプラットフォームを活用したECU開発で、MATLAB/Simulinkのモデルを連携させることで開発効率を高めている。

具体的には、AUTOSARサプライヤー提供の開発ツールと、MATLAB/SimulinkのC/C++コード生成ツール「Embedded Coder」を連携させるスクリプトを作成し、スクリプトを自動実行することで、ワークフローとして処理できるようにした。これにより、機械的に反復可能な開発フローを実現し、機能開発とプラットフォーム開発の並行開発を実現できるようになったという。

  • 安全コンセプト例のイメージ

「MBDは強力な設計手法ですが、『何を』開発するのかと同じくらい『どうやって』開発するのかが活用のポイントです。当社では、MATLAB/Simulinkを使ったMBDをトレーニング教材から製品システム開発まで広く活用し、開発改善につなげています。特に、モーター制御やバッテリー制御などのパワエレ系の需要が多く、その分野へのMBDの活用を積極的に行っていきます」(堀江氏)

また、MBDやAUTOSARなどを活用した効率的な開発環境の構築は、業界標準になってきている。それにともない、サプライヤーの競争領域も「どう対応したらどんな品質とパフォーマンスでできるか」といったノウハウや成熟度に移ってきているという。

「当社には、パナソニックグループの主要製品をカバーしてきた開発経験と、多様な保有技術があります。MATLAB/Simulinkを活用した開発や機能安全対応といったWhatとHowの強みを生かし、これからもお客様のニーズに応じた提案を行っていきます」(堀江氏)

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