街は、日々の活動において膨大なデータを生みだしています。こうしたデータを有効活用して社会活動に活かす試みが、各自治体において積極的に取り組まれています。

巨大な水島コンビナートを有する日本有数の工業都市である倉敷市では、「データ・ドリブン・シティ」という理念のもとで、データの有効活用を推進。同市の理念がユニークな点として、データの有効活用に加えて、データの収集、分析活動自体の基盤産業化を目指していることが挙げられます。

地域のデータ活用を推進する同市の取り組みにおいては、「現場でまさにいま起こっていること」をデータ化することがまず欠かせません。これを収集し、蓄積するプラットフォームとして倉敷市が選んだのは、Microsoft Azureを基盤に提供する、日本ユニシスの「IoTビジネスプラットフォーム」でした。

重要伝統的建造物群保存地区として選定されている、倉敷市の美観地区

プロファイル

岡山県南部の瀬戸内海に臨む倉敷市は、人口約48万人を抱える中核都市です。西日本一の製造品出荷額を誇るなど、日本でも有数の工業都市でもある同市では、現在第二の基盤産業として、データ活用に関する取り組みに注力しています。

導入の背景とねらい
「データ・ドリブン・シティ」を掲げ、第二の基盤産業の創出を目指す倉敷市

巨大な水島コンビナートを有する岡山県倉敷市。同市は西日本一の製造品出荷額を誇る、日本でも有数の工業都市です。中国地方で3番目の人口をもつ倉敷市では、現在、地域の社会活動の効率化と製造業に次ぐ第二の基盤産業の構築を目指して、「データ・ドリブン・シティ」を掲げた取り組みが進められています。

「データ・ドリブン・シティ」とは、街中から有益な情報を集め、分析し、それを活かす新たな街づくりのことです。

データ・ドリブン・シティの構成要素
(1) データ 街から収集される事実
(2) 情報 意味のあるものに変換されたデータ
(3) 行動 市民と職員による、情報に基づいた効率的な行動
(4) 街 行動により新たにつくられる街

行政のもつさまざまなオープンデータ、IoTやセンシング技術によって街から収集したデータ、インターネット上のデータなどを組み合わせることで、データを有益な情報に変換し、上の表にある形でエコサイクルを回転させる。これによって地域課題の解決や新たな価値創造を図ることが、同取り組みのねらいです。

各地から収集したデータを社会活動に活かすという試みは、既にいくつかの自治体で進められています。倉敷市の取り組みがユニークなのは、これに加えて、データの収集、分析活動自体の基盤産業化を目指している点にあります。

倉敷市役所 情報政策課 主幹 真鍋 裕行氏

これについて、倉敷市役所 情報政策課 主幹 真鍋 裕行氏は次のように話します。

「たとえ多量のデータを集めても、それを市民や企業が情報として扱い、行動に移すことができなければ意味がありません。『データ・ドリブン・シティ』の実現には、日々の生活の中に情報が存在するということの意識付けや、情報を活用するための教育の提供が不可欠なのです。こうした啓発や教育の提供は、データの分析、可視化を主とした産業の創出、既存産業での情報活用の加速につながります。倉敷市では、新たな基盤産業の創出も見据え、一般社団法人データクレイドル(以下、データクレイドル)を事業主体としてデータ活用の事業を推進しています」(真鍋氏)。

データの活用は、場合によっては複数市町村が関与することがあります。また、基盤産業化を目指すのであれば、行政が何もかも主導するのではなく、民間事業者による創発を促すべきです。こうした背景から、倉敷市は2015年にプロポーザルを実施し、創発を促すタテの活動、そして地域連携というヨコの仲介を担う事業者を公募。その結果、一般社団法人データクレイドルが設立され、「プラットフォームの整備」と「教育、産業支援」を目標に掲げ、携帯電話の位置情報を活用した観光客動向のデータ収集や、オープンデータと市販データを連動して人口推移を可視化した「高梁川みらいマップ」の一般公開など、さまざまな取り組みを進めています。

一般社団法人データクレイドル 代表理事新免 國夫 氏

一般社団法人データクレイドル 代表理事 新免 國夫氏は、こうした取り組みを、複合的な施策として進めていると語ります。

「『情報はこんなにも便利なんだ』と知ってもらうこと、そして情報を活用できるデータ技術者を育成することが、私たちの使命です。そのため収集した情報は、まず当法人が運営する『data eye』で公開して有用性を啓発し、また個人事業主や大学生向けに提供する統計分析教室『データ分析サロン』でも利用するなど、既存の社会と次代を担う人材の双方に向けた教育支援、産業支援で複合的に活用しています。特に大学生向けとして岡山大学や岡山県立大学と連携することで、若い人材への教育活動に注力しています。こうした活動では、いかにして『地域に活きるデータ』を集めるかが鍵となります」(新免氏)。

写真:一般社団法人データクレイドル 理事 大島 正美 氏

世の中にあるオープンデータだけでは、人口分布のような「事実の把握」はできても、その背景や問題点、課題にまで踏み込んで分析することは困難です。地域という「現場でまさにいま起こっていること」のデータ化は、地域課題の解決、新たな価値の創造において欠かすことができません。

一般社団法人データクレイドル 理事 大島 正美氏は、この「地域に活きるデータ」は、外部から調達するのではなく地域自らで収集する必要があると語ります。

「現場のデータを収集するために、携帯電話の位置情報を活用した取り組みも過去行いました。これは用途によっては有効なのですが、毎回データを外部から調達、購入していたのでは、必要な時、即座に活用することができません。リアルタイムかつフレキシブルにデータを活用するには、地域自らが現場に即したデータを収集することが求められたのです。そこで2016年から、IoTによるデータ収集ならびにそれを蓄積するためのプラットフォームの構築を開始しました」(大島氏)。

高梁川みらいマップなどさまざまな「可視化された情報」をインターネット上で公開することによって、情報の有効性に関する気付きを生み出している

データクレイドルでは、気付きを得た人材に向けてデータ分析サロンを提供。啓蒙からデータ技術者の育成までを一気通貫で担っている

システム概要と導入の経緯
プライバシーが保護でき、拡張性にも富んだ「IoTビジネスプラットフォーム」を採用

倉敷市とデータクレイドルは、「地域に活きるデータ」として、まず「観光」に関するデータの収集を計画。重要伝統的建造物群保存地区として選定されている「倉敷美観地区」の人の流れ(人流)を追うデータと、観光客向けに提供されている音声応答型AIサービス「Tabit(タビット)」の応答データを対象に、データの蓄積を開始しました。

倉敷美観地区は、四季折々でさまざまな表情をみせる

前者は特定の観光地にフォーカスするミクロな情報であり、後者は倉敷市全体の観光動向全体を見渡すマクロな情報だといえます。これらのデータはマイクロソフトが提供する Azure 上に蓄積され、日本ユニシスが提供する「IoTビジネスプラットフォーム」を利用することで、倉敷美観地区の人流データを収集しています。

日本ユニシス株式会社 全社プロジェクト推進部 IoT ビジネス開発室 共創ビジネスグループリーダー 新井 康治氏

日本ユニシス株式会社 全社プロジェクト推進部 IoT ビジネス開発室 共創ビジネスグループリーダー 新井 康治氏は、IoT ビジネスプラットフォームの概要について、次のように説明します。

「倉敷市様には、当社が提供するIoTビジネスプラットフォーム上の『人流解析サービス』を利用いただいています。これは、監視カメラや防犯カメラなどで撮影された映像を解析することで人の動線と属性をデータ化し、Azure IoT Hub経由でAzure上に蓄積した同データをもって人流を可視化するサービスです。映像解析を設置端末のエッジ処理で行うことで、個人を特定しないデータだけをAzureへ送信します。撮影映像は解析処理後に廃棄するため、撮影対象のプライバシーが守られるという点で大きな特徴をもちます。つまり、個人情報の漏えいを心配することなく、人流や属性をリアルタイムに把握できるのです。また、クラウド側はAzureのPaaSのみを組み合わせて構成しているため、高い拡張性と柔軟性を備える点もポイントです。IoT関連のシステムは、設置カメラの増加やほかのセンサーから取得する情報や別システムとの連携など、環境の迅速な発展が求められます。そうした際にPaaSの拡充、組み替えだけですばやくこれに対応できることが、当サービスの強みだといえるでしょう」(新井氏)。

IoTビジネスプラットフォームの概要図。「データ収集」「データ蓄積」「データ加工、統合」「機械学習」「活用」というさまざまな工程において、AzureのPaaSが利用されている

映像解析によって人流を可視化するには、対象エリアへのネットワークカメラの設置が必要です。当然、設置に際しては市民の理解と協力を得ねばなりません。しかし、昨今プライバシーの保護はセンシティブに扱う必要があり、先の理解を得ることは容易ではありません。倉敷市がIoTビジネスプラットフォームを採用したのは、「属性データのみが通信される」という同サービスの強みが、市民の理解を得るうえで有効だと判断した結果といえるでしょう。

ところで、Azureには、前述のとおり、人流データに加えてマクロ視点である「Tabit」の応答データも蓄積されています。これは、倉敷市とデータクレイドルが、同取り組みを「点の取り組み」ではなく、将来的な「情報プラットフォーム化を構想した取り組み」としてとらえているからです。

この構想を実現するプラットフォームとして、IoTビジネスプラットフォームとAzureは非常に適していたと、新免氏と大島氏は語ります。

「IoTビジネスプラットフォームは、セキュリティやプライバシー、コストといったIoTにおける課題をよく理解して設計されていると感じました。また、IoTは新しい概念であるために、変化の激しい技術だといえます。そのため、従来のシステム開発のように『一度完成したらそれをそのまま数年利用する』という運用であってはならず、IoTの変化に合わせてシステムも順次変化していくことが求められます。プラットフォームにオンプレミスではなくAzureを採用する同サービスは、そこで必要な拡張性の担保という点でも魅力的だったのです」(新免氏)。

「データ活用の領域では、ディープラーニングやAIなどの技術が不可欠ですが、こうした先進技術は、『実装』することが目的なのではなく、それによる『データの有効活用』が本義だといえます。いかにして実装を早期に行って活用にリソースを割くかが、今後の重要なテーマとなるでしょう。Azureは、Azure Machine LearningやCognitive Servicesなど、先進的な技術の多くをPaaSとして備えていますが、これは、私たちでも容易に先進技術が実装できることを意味します。あらゆるデータを収集する『情報プラットフォーム』を構築し、その情報を有効に活用するという構想上で、Azureを基盤に採用することには大きな利点がありました」(大島氏)。

導入効果
「地域に活きるデータ」を自ら収集したことが、教育支援と産業支援を大きく加速させる

倉敷市とデータクレイドルでは、2016年秋にIoTビジネスプラットフォームとAzureの採用を決定。それから半年後の2017年4月より、倉敷美観地区の人流データ、音声応答型AIサービス「Tabit」を利用するユーザー応答データの収集を開始しました。 Azure上に蓄積されたこれらのデータは、データクレイドルのスタッフやデータ分析サロンのユーザーによって、日々、価値のある情報へと変換されています。この情報は、産業支援での活用や、啓発を目的としてdata eye上で公開するなど、既にさまざまな形で活用されています。

倉敷美観地区に設置されたネットワークカメラ(左)。同カメラの映像は、属性や人数、動向といった情報へと変換された形で、リアルタイムのようすがdata eye上で公開されている(右)

新免氏と大島氏は、地域自らが現場に即したデータを収集できるようになったことは、教育支援と産業支援を今後前進させていくうえで大きな一歩になるだろうと、笑顔で語ります。

「『データ・ドリブン・シティ』の目的のひとつである経済活動の活性化につながるまでには、まだ時間がかかるでしょう。それでも、今回の取り組みによって、IoTやビッグデータという先進技術のプラットフォームを取り扱うためのノウハウを習得したこと、また『地域に活きるデータ』を実際に自らで取得できるようになったことは、教育支援と産業支援の水準を向上し、新たなIoTサービスを生み出していくうえで、大きな意義をもつでしょう。今後、エリア単位のマーケティングや、暮らしやすい街づくりに展開できるよう、プラットフォームを発展させていきたいと考えています」(新免氏)。

「ネットワークカメラについて、いまの段階では固定の場所に設置していますが、お祭りや花火大会といったイベントでの活用など、同システムを横展開することを現在検討しています。また、収集したデータを前処理、分析、プログラミングして可視化するという一連の業務を各自が行い、OJTを繰り返すことでデータ技術者を育成していますが、今後IoTで収集するデータ量やその領域が拡大することが見込まれますので、効率が求められる産業支援ではマイクロソフトが提供するPower BIも活用していく予定です」(大島氏)。

今後の展望
新たな社会の創造と、データ技術者の輩出を、倉敷市から

IoTビジネスプラットフォームを利用することで、「地域に活きるデータ」の収集と「情報プラットフォーム化」が実現可能な環境を整備した倉敷市。データを産業支援に活かしていくためには、まだまだ同環境の発展や改良が必要ですが、同市とデータクレイドルでは、ベンダーとの密な連携によって、IoT、ビッグデータ、AIといった「総合的なデータ活用」の地域社会への実装を目指してまい進していきます。

真鍋氏は、同取り組みの今後のビジョンについて、次のように語ります。

「最終的には、現実空間に存在する、またはそこで発生するすべてのデータをサイバー空間上に写像し、それをあらゆる市民が有効に活用することで、地域から多様性に富んだサービスが生まれていく状態を目指していきます。政府が『Society5.0』と表現するこの世界を実現する鍵は、やはりデータ技術者の輩出にあるでしょう。日本ユニシスやマイクロソフトをはじめとするベンダーにおかれましては、地域のデータ技術者に対する支援など、データ産業活性化に向けた密なパートナーになっていただけることを期待しています」(真鍋氏)。

街は、日々の活動において膨大なデータを生みだしています。このデータを上手く情報に転化することで、都市計画や防災計画といった行政活動の効率化、各産業の経済活動の活性化につながります。倉敷市が「データ・ドリブン・シティ」へと進化していく過程は、多くの自治体や国民が注目すべきことだといえるでしょう。

「最終的には、現実空間に存在する、またはそこで発生するすべてのデータをサイバー空間上に写像し、それをあらゆる市民が有効に活用することで、地域から多様性に富んだサービスが生まれていく状態を目指していきます。政府が『Society5.0』と表現するこの世界を実現する鍵は、やはりデータ技術者の輩出にあるでしょう。日本ユニシスやマイクロソフトをはじめとするベンダーにおかれましては、地域のデータ技術者に対する支援など、データ産業活性化に向けた密なパートナーになっていただけることを期待しています」

倉敷市役所
情報政策課
主幹
真鍋 裕行氏

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