近年注目されているSDGs。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指そうと、様々な企業が環境問題について取り組んでいます。なかでも積極的な企業が、エプソンダイレクト。その取り組みのひとつとして、2022年秋に消費電力の削減や再生材料を活用したPC「Endeavor ST55E」の開発や、今年9月にはパフォーマンスを重視した幅約45mm高さ約195mmのウルトラコンパクトPC「Endeavor ST210E」も発表しました。そんなエプソンダイレクトにおける環境問題の考え方を知るべく、インタビューを実施。同社の環境に配慮したPCの実現に貢献した3人からお話を伺いました。
① 2030年:1.5℃シナリオに沿った総排出量削減
② 2050年:カーボンマイナスと地下資源消費ゼロ
業界が一体になって環境問題に取り組む
「エプソンダイレクトの環境問題に対する取り組みは、我々3人が属するワーキンググループの主導によって社員からのボトムアップで進めています。環境といってもいろいろな切り口があるので、まず“どこに対して取り組んでいくのか”を話し合いはじめました」そう語るのは、技術部の杉﨑将太氏です。そもそもワーキンググループとは……
問題の調査や、計画の推進を目的とした作業部会や審議会、勉強会等のこと。エプソンダイレクトもそうした位置づけで、社員のなかから環境問題に関心のある有志が自発的に集まって構成されている。
杉﨑氏は「環境価値シナリオ」のワーキンググループに所属し、どのようにしてエプソンダイレクトで環境負荷を低減するための施策を進めていくべきか研究しています。
現在、エプソンダイレクトには、4つのワーキンググループがあり、参加するメンバーは17名。技術職から営業職に至るまで多様な社員が所属しています。
「いろいろな領域で活躍する人たちに参加してもらうことでお互いに刺激しあって、意見を交換しています」(杉﨑氏)
過去の記事でも取り上げていますが、エプソンダイレクトでは「環境問題における戦う相手は競合他社ではなく気温上昇だ」とする考えがあり、自社だけでなくサプライチェーン全体で環境問題に取り組もうという姿勢をもっています。
「PC業界は製品が出来上がるまでに多くのサプライヤーが参画しています。そのため、自社だけで環境問題に取り組んでいるようでは、それほど意義は大きくありません。それぞれの企業間で協力しながら、環境負荷の低減に繋がるよう、使っているエネルギーを極力省エネ化したり、再生可能エネルギーに置き換えていたりと話し合いを進めています」(杉﨑氏)
杉﨑氏はワーキンググループの活動を通じ、環境問題についてエプソンダイレクト内やエプソングループ内、外部の協力会社の人にも、環境問題や社会課題について話すことが多くなったといいます。そうして話しているうちに、環境問題について前向きな人が多くいることに気付いたそう。そこから、“自分たちで環境活動を行いつつ、世の中全体に環境への意識改革を呼び掛けることが、エプソンダイレクトの意義ではないか”と杉﨑氏は考えたようです。
「環境価値シナリオの成果として、直近で印象的なのはEndeavor ST55E(以下、ST55E)とEndeavor ST210E(以下、ST210E)です。このシリーズは環境負荷の少ない素材の採用や、消費電力を抑えるなどの工夫を凝らした環境フラグシップとしてリリースしていくとスローガンに掲げています。技術面はもちろんですが、それ以外の面でも環境に対するWebページを整えたり、リファービッシュにも取り組んだり、当社が環境を意識していることを周囲に伝わるよう工夫しました」(杉﨑氏)
環境負荷低減の取り組みから生まれた「ST55E」と「ST210E」
ST55Eは、省電力の削減と再生プラスチックの使用により、環境負荷を低減したPCです。さらには、幅約33mm高さ約150mmというコンパクトな省スペースを実現しました。従来モデルの「Endeavor ST50」と比較すると、PCとしての性能は向上させつつ、消費電力は約4.7Wから約3.0Wに引き下げました。さらに、フロントベゼルに再生プラスチックを65%以上使用し、マザーボードにはハロゲンフリープリント基板を採用するなどして、CO2排出量は約14%の削減を実現。「国際エネルギースタープログラム v8.0」*にも適合しています。
*国際エネルギースタープログラムとは、オフィス機器の国際的省エネルギー制度。製品の消費電力などについて米国EPA(環境保護庁)により設定された基準を満たす製品が対象になっている
発表したばかりのST210Eは、パフォーマンスを重視した幅約45mm高さ約195mmのウルトラコンパクトPCです。インタフェースやストレージの数を増やすなどの機能強化を図りつつも、従来モデルと変わらない筐体サイズ、インタフェースの位置を継承しました。その結果、ST55Eで培った環境性能は漏れなく受け継ぎ、約15%の近い消費電力の削減に成功しました。
このST55EとST210Eの開発を担当したのが、技術部の岡田卓也氏です。岡田氏は学生時代からPCの自作が好きだったこともあり、PC製作に携わるべくエプソンダイレクトに入社しました。環境問題にも早くから関心があったようで「既存顧客に満足してもらいながらも、環境について配慮したPC開発に取り組んだ」といいます。
「開発に携わっていると、設計や企画開発段階で製品コストがいかに抑えられるか重視されがちです。しかし、ST55Eでは、コストを増やしてでも環境性能を高めることを目指し、リサイクルプランを取り入れたり、ハロゲンフリー基板を採用したりと試行錯誤しました。これは、今までにない新しい提案です」(岡田氏)
もちろん、環境負荷を低減することを最優先にして何を採用してもいいわけではありません。従来ならコストが上がるからと諦めていた施策でも、「コストを下げる工夫ができないか技術部門のチーム全体議論や検討を重ねたうえで、環境負荷の低減率との兼ね合いを見ながら採用していく」というようにアプローチの仕方を変えたそう。そうしたことで、コストも最大限に抑えながら、環境性能を高めることを実現することができたのです。
「ST55Eで苦戦したポイントは大きく3つあります。1つ目はコストを抑えながら、ハロゲンフリーの基板や再生プラスチックのフロントベゼルを採用したこと。2つ目は品質基準をクリアすることです。ハロゲンフリーの基板はどうしても基板の反りが起きやすく、USB端子が挿さらなくなるといったリスクがあります。他にも、再生プラスチックの耐久性や、40℃環境でも最大パフォーマンスが出せるかなど、当社の基準をクリアする水準まで品質を高める必要がありました。3つ目は消費電力の低減です。これが一番大変でした。ST55Eは本体が小さく機能が限られています。それでもお客様が安心して継続使用できるよう、前機種となるST50の機能を下回ることは許されません。消費電力を減らしつつ機能性を担保するためには取れる手段が少なく苦戦しました」(岡田氏)
消費電力に関しては、海外の製造元とも議論を重ねて、回路設計をシンプルになるよう工夫したといいます。さらに、自分たちの熱量をサプライチェーンに伝えて協力を仰ぎ、デバイスの省電力化を見直したり、ストレージをHDDからSSDに変更したりすることで、消費電力の削減ポイントを見出していったそう。そのような試行錯誤を重ねたことで、実現した製品こそST55Eです。
廃材を減らして資源の循環に貢献するPCのリファービッシュ品にも着手
営業推進部コミュニケーション推進グループの塩原洋市氏も、ワーキンググループに所属する1人です。塩原氏は自社の商品や活動などを社内外に伝える広報を主な業務としています。
塩原氏は昨今、PCのリファービッシュ品のPRに注力しています。リファービッシュ(refurbish)とは、貸出機や展示会などで展示した実機、初期不良などで戻ってきた製品などを整備して新品に準じる状態にして割安で販売するというものです。
「PCのリファービッシュ品を取り扱うことになったのは環境問題についての観点からです。当社では『エプソンのPCを長く使うほど、地球環境とお客様に優しいビジネスモデルを作る』ことをスローガンのひとつとしています。その考え方には大きく2つの考え方があります。1つ目は、個々の製品の環境負荷を下げていくこと。2つ目は、廃棄しない資源循環型ビジネスモデルを創出することです」(塩原氏)
これまでだとPCのリファービッシュ品に回すような製品は、分解してパーツ単位で再利用していましたが、それではどうしても廃却する部品が出てしまっていました。たとえばケースに傷や汚れがある部品。エプソンダイレクトでは、少しの傷や汚れがあるだけでも商品としては売れません。しかし、中身の性能や品質には問題ないのであれば、傷や汚れのある部分をクリーニングすれば問題なく使用できます。そんな商品を割安で提供すれば、購入者は安い価格で購入することができ、廃棄しなかった分、環境に配慮できるというわけです。
PCのリファービッシュ品はあくまで事業を運営するうえで出てきてしまう“そのままでは販売できない製品”を利用しています。そのため、計画的に在庫をもつのは難しく、大々的なプロモーションを行っていない状況ですが、「現在は自社サイトでの販売に抑えていますが、今後は認知を広げ、部材の廃棄を減らしていきたい」と塩原氏は希望を述べました。
一歩ずつの積み重ねも、まずはスタートを切ることが大切
環境負荷への取り組みの1つひとつは小さな工夫の積み重ねに過ぎません。しかし、千里の道も一歩からという通り、まずは一歩を踏み出し、塵を積み上げ山にしていくのが環境対策です。
「銀の弾丸みたいな一発で解決できるものではないからこそ、コツコツした積み重ねのスタートを切ることが大事」と指摘していた塩原氏、「そもそも何をもって環境負荷の低減に繋がるのか」という哲学的な問いから考えていったという杉﨑氏、「PC購入時の選択肢として、“環境負荷の低減”について考えてもらえるようになりたい」と語る岡田氏。みなさんのお話から、次の世代やさらにその次の世代に自分たちが育ってきた環境を引き継いでいきたいという使命感が感じられました。
若い世代が「自分世代のミッション」と考える地球環境保全の取り組み。ますます広がるに違いないと希望が抱ける取材でした。
[PR]提供:エプソンダイレクト