チェックポイント
- 旧サイトで課題となっていたパフォーマンスと安定性を大幅改良
- 消費税増税という期限が迫る中、ワンチームでプロジェクトを完遂
- サービス向上・事業拡大に向けIT自社開発を支えるEC基盤を構築
2019年8月にリニューアルした株式会社ニトリ(以下、「ニトリ」)の通販サイト「ニトリネット」。リニューアルを機に、ビジネスの屋台骨といえるEC基盤が大幅に刷新された。その効果は絶大で、「ニトリネット」はコロナ禍においても前年同期比を上回る売り上げを達成している。今回のリニューアルプロジェクトに最前線で携わった関係者に、開発の舞台裏や、ニトリにとってのECビジネスとそれを支えるシステムの重要性について話を聞いた。
自社開発にこだわり続けるニトリが、なぜ株式会社NTTデータ(以下「NTTデータ」)を選んだのか。ニトリが持つ独自のIT戦略に迫る。
性能・安定性向上を実現するサイト更改を短期間で完遂
“製造物流IT小売業”という独自のビジネスモデルで、原材料調達から配送まで一貫して手掛けるニトリ。同社にとってECビジネスはどのような意味を持つのか。通販事業部 マネジャーの山本 哲夫氏はこう語る。
「ECはあたりまえの要素ですが、実店舗・ECというようにチャネルを分けることには意味がなく、お客様がニーズに応じてその都度選ぶものと考えています。ですから当社は、店舗でもWebでも共通した価値提供に取り組むことを大切にしています」
そのECの軸となる今回のニトリネット更改は、2019年10月の消費増税に対応するため、新税率施行前である8月のサイト更改を目標としていた。ニトリ社内でプロジェクトが動き出したのは2018年1月。プロジェクトの立上げに時間がかかり、要件定義が終わったのは9月で、期限まで1年を切っていた。
株式会社ニトリホールディングス(以下、「ニトリホールディングス」)情報システム改革室長で、当時はインフラ担当技術リーダーとして現場を牽引した荒井 俊典氏は、更改に際する課題を次のように語る。
「今回のシステムはECプラットフォームとしては3代目です。1、2代目はパフォーマンスや安定性に不安がありました。そこで今回は、クラウドネイティブな技術を多く活用し、業務量の急拡大に対応可能なスピード・安定性を備えつつ、顧客サービス向上とビジネスの拡張も柔軟に実現できるシステム構築を目指しました」
ニトリでは、かねてシステムの内製化を進めてきた。基幹システムも、20年以上の長きにわたり拡張を続けてきたものが現在も稼働している。その基幹システムをベースに、多様なシステムをこれまで一貫して自社開発してきたニトリが、なぜ今回、NTTデータと共にサイト更改に臨んだのか。その理由を荒井氏に聞いた。
「近年ニトリのビジネスは格段に大きくなっています。早い話が、自社だけで性能や安定性を担保しつつ、多くのシステムがつながるプラットフォームを構築するのは難しい。しかも今回は消費税対応という目的もありますから、期間が限られています。そうした状況でこれだけ大規模なシステムを安全に開発するには、信頼できるパートナーが必要です。その点、NTTデータは多彩な大型案件を手掛けた実績があり、総合力を高く評価しました」
こうした要望を、NTTデータはどう受け止めたのか。流通サービス事業部でプロジェクトを率いる統括部長の杉本 大介氏はこう語る。
「確かに納期はタイトでしたが、消費増税の期限があるので遅れることは許されませんし、そもそも絶対に止めてはならないシステムですので、使命感をもって臨みました」
開発過程では当然、問題も発生した。なかでもインパクトが大きかったのが、要件定義直前にサイトデザインを一新したことと、同タイミングでの更改を予定していたアプリとの連携に関するトラブルだった。
「サイトデザインについては、NTTデータにかなり無理なお願いとなったと思います。しかし当社の意図を理解し、真摯に対応してくれました。また同期して刷新するニトリアプリについても結合テスト直前に双方のインターフェイス設計に問題が発生しましたが、このときも調整を含めNTTデータが各社走り回ってくれ解決に導いてくれました。結果的に、こうしたトラブルを通じてニトリとNTTデータ、そしてアプリ開発会社がワンチームになれたと感じています」(荒井氏)
新たなニトリネットのサイトは、スケジュール通りに無事公開された。当時の様子を山本氏はこう振り返る。
「時間がない中、追加の要望にもトレードオフを考慮しながら良い提案をしてくれましたし、懸案だった性能と安定性の面もきっちり実証できました。NTTデータのプロジェクト管理がしっかりしていたため、最終的に遅れることなくリリースできたと感謝しています」
メンバーが語るプロジェクトの成功の舞台裏
プロジェクトの舞台裏では何が起きていたのか。プロジェクトマネージャーを務めたニトリホールディングス 情報システム改革室 プロジェクト推進統括ディレクターの藤家 晋氏、ECシステム開発を牽引したシステム企画・構築グループ デジタルコマースチーム リーダーの小又 宏明氏と、NTTデータ 流通サービス事業部の岩崎 新氏は、互いに当時をこう振り返る。
小又:現場として大事にしたのは、まず納期を守ることと、前世代は公開時にしばらく動かない事態に陥ったためとにかくシステム切り替えを安全に行うことでした。
藤家:消費税率変更に間に合わせるという限られた時間の中で、性能と安定性に加え、今後のビジネス拡大に際して容易にスケールアップでき、新しいサービスも柔軟に追加できる仕組みの構築を目指しました。
岩崎:私の立場としては、短納期であることを前提に、まずスケジュールをどう組むかを検討しました。そこで開発チームを2つに分けるとともに、ニトリの対応拠点も複数に分かれていたので、円滑なコミュニケーションの醸成に注力しました。
小又:私は札幌で、藤家が東京にいましたからね。
藤家:プロジェクト初期から良い意味でぶつかり合い、人間関係がきっちり構築されたことは大きかった。気を使わずに言うべきことを言える環境ができ、プロジェクトがスムーズに進んだと思います。
藤家:私と小又は、開発チームの1つであるインドの現場視察にも出かけましたね。現地の環境や開発者のモチベーションを知る事が出来て良かったです。
岩崎:インドまで行っていただけるとは思っていなかったので、正直驚きました。
小又:システム入れ替えは一大イベント。私が最も苦労したのは、納期厳守と安定稼働を大前提に、どの機能を盛り込むか、要件定義に関する複数部門との調整でした。
岩崎:要件の調整は確かに大変でしたね。ただ、定例会議にいつも役員の方が出席してくださったので、その場で機能の要・不要の判断がスピード感を持って示されたことは大きかったと思います。
小又:通常であれば仕様をがっちり決めてから動くのですが、今回は動きながら詰めていきました。それもニトリらしいところといえばそうなのですが。
藤家:基本的に自社開発しているので、その場その場で対応できる柔軟さはある一方、標準化されていない部分も多くあり、システムが複雑な構成になっています。そこは苦労したのではないですか。
岩崎:確かに、受注プロセスなど仕様の理解が難しいシステムがあり、データ移行で手こずった面もありました。
小又:パフォーマンステストも大変でしたね。お客様の購入行動のさまざまなパターンを想定し、厳しい基準で実施しました。
岩崎:要求される性能は厳しいものでしたが、決して止めるわけにはいかないシステムですので、要求にお応えするために全力を尽くしました。
藤家:あれはNTTデータの底力だと感じました。
小又:実際に稼働を始めてからは、今回のコロナ禍での大幅な受注増にも余裕で対応ができ、当社の業務を無事故で支えています。ECシステムとして大幅なアクセス増、受注増は問題なく処理できましたが、バックオフィス業務や配送業務など他の部分の今後の課題が見えてきました。
藤家:逆にいえば、他のシステムにはまだまだ改良の余地があるということです。今後の自社開発の可能性も見えてきました。
岩崎:これからもニトリの自社開発の方針を当社ソリューションでお支えし、ビジョンの達成に貢献していきたいと考えています。
“自前主義”だからこそ、プロの技術に期待
“自前主義”で知られるニトリのIT戦略。今回のECサイト更改におけるNTTデータの参画は、一見矛盾するようにも見える。
しかしながら、荒井氏は「NTTデータと一緒につくっていった」と強調したうえでこう語る。
「NTTデータが当社のニーズに寄り添い、自社開発に適した新しいプラットフォームをつくってくれたからこそ、その後1年かけてさまざまなシステムを内製できましたし、今後の変化にも柔軟に対応していける感触を得ています」
自前主義を貫くからこそ、その屋台骨として信頼性と拡張性が求められるEC基盤構築のパートナーとしてNTTデータを選択したということだ。
ニトリホールディングス 執行役員 CIOの佐藤 昌久氏が語る、ニトリのIT戦略と今後の展望から、ニトリ独自のITに対する考え方が見えてくる。
「当社は製造物流IT小売業として基本的に自前のIT開発を行っています。基幹システムも私が当時書いたコードから始まっているように、手作りのITをビジネスの中核に置いています。その路線は今後もきっと変わらないと思っています。ITの内製化を始めたのは、最初はそれこそ“素人”ゆえ の考えがあったからだと思います。“とにかくやってみよう”、“やればなんとかなるのでは”というところから、マニュアル片手に勉強しながら取り組んできました。」
「昨今のDXのトレンドを当社は3つの観点で捉えてお客さまへの新しい価値の提供に取り組んでいます。1つ目は自社の生産性の効率化、2つ目はデジタルを活用した新しい商品展開、そして3つ目はサービス・チャネルの進化です。私たちは最新技術に関しては素人ですから、先進テクノロジーを自社開発するのではなく、ある程度実証された技術を、時機を見計らって適宜取り入れていきます。ですからその点については、プロであるNTTデータに期待し、今後も気軽に相談できる関係になれたらと考えています。」
ITを“使う側”と“作る側”という関係とは大きく異なる、ニトリとNTTデータのパートナーシップ。互いの強みをあわせ、二人三脚で目標を目指すこの関係は、日本におけるDXの進展にとって必要な、新たなスタンダードとなっていくかもしれない。
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