日本では、2011 年から人口の減少が始まっています。しかし、それにともなって「働き手の数も減っている」と判断するのは間違いです。総務省の『労働力調査』によれば就業者人口は増え続けており、2018 年には 6,664 万人と過去最高を記録しました。前年と比べて最も伸びているセグメントは「15歳〜64歳の女性」であり、「65歳以上男性」がここに続いています。人口は確かに減少していますが、働く意思のある女性や高齢者は全国に数多くいるのです。

ところが、事務職のように高度な専門性が求められない業務ほど有効求人倍率は低く、また地方ではそもそも働く機会が少ないなど、先のセグメントに該当する方々に仕事が十分に提供されているかと言うと、そうではありません。もし、それぞれの暮らし方、住まいの場所、所持しているスキルに合わせた「新しい働き方」を社会が用意することができれば、人口減少が加速する中にあっても労働生産性を維持向上することが可能となるでしょう。

コールセンター アウトソーシングのリーディング カンパニーであるベルシステム24ホールディングス (以下、ベルシステム24) は、最先端のテクノロジーと企業間共創によって、トラディショナルな方法論にとらわれない働き方を実現させようとしています。マイクロソフトの HoloLens 2 を活用したデロンギ・ジャパン (以下、デロンギ) との共創により、時間や場所に束縛されない「コールセンター バーチャライゼーション」が始まっています。

「コールセンター バーチャライゼーション」で場所と時間の制約を解消する

ベルシステム24 は 1982 年の創業以来、30 年以上にわたって、コールセンター アウトソーシングを中心とした CRM ソリューションを展開してきました。単なる「電話応対の受託業務」にとどまらず、エンド ユーザーと企業をつなぐタッチ ポイントを担うことによって、企業の新商品開発、売上拡大、業務改善を支援しているのです。

そんな同社が企業理念に掲げるのは、「イノベーションとコミュニケーションで社会の豊かさを支える」というメッセージ。冒頭に挙げた「コールセンター バーチャライゼーション」の目的はこの企業理念と直結していると、株式会社ベルシステム24ホールディングス 執行役員 事業戦略部部長 兼CSR管掌役員の景山 紳介 氏は語ります。

「最先端のテクノロジーとコールセンターのノウハウを掛け合わせて社会を豊かにすることを、私たちは企業理念によって宣言しています。今回のプロジェクトに取り組む最大の理由は、社会の中の格差解消を支援し、地方に行ったとしても豊かに暮らしていける社会の実現にあります。様々な事情を、社会側が受け入れる能力をさらに高めていこうというのが、当社の基本的なスタンスです」(景山 氏)。

電話応対の業務ならば、どんな場所でもできるのでは? そう思う方がいるかもしれません。しかし、「その建物でなければその業務ができない」という制約が、コールセンターにはあるのです。

ベルシステム24 が受け持つサービスの一つに、コーヒー マシンの代表ともいえるデロンギ製品のサポートがあります。「抽出ユニットが取り出せなくなったのだがどうすればよいか?」「コーヒー豆のカス受けのお手入れの仕方は?」といった相談に対して、コールセンターに勤めるコミュニケーターは、まったく同じ製品を棚から取りだし、机に置いて、状況を再現しながら受け答えしていきます。

製品の機構は複雑で、実際の機械で再現をしないと問い合わせの解決ができないケースが多くありました。そのため、センターにはすべての製品を集め、人もそこに集める必要があります。スキルを積んだ担当者であっても、事情があってその場所に出勤できなければ、センターを離れなければなりません。本人はもちろん、デロンギやベルシステム24 にとってもそれは望まれない状況でした。

  • デロンギ製品をサポートするコールセンターに設置された棚の様子

    デロンギ製品をサポートするコールセンターに設置された棚の様子。棚にはデロンギ製品がずらりと並んでおり、撮影中、コミュニケーターが棚から製品を持ち出す風景がそこかしこで見られた

また、実物を使ったサポート対応にも限界がありました。10kg を越えるコーヒー マシンを手元へ運んで同じ環境を再現するのは時間がかかり、問い合わせている顧客を待たせしてしまいます。

デロンギ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 杉本 敦男 氏は、全世界コーヒー マシン市場において販売金額トップを誇るデロンギだからこそ、製品の品質だけでなくサポートも業界ナンバー ワンでなければならないと言います。

「当社は 1902 年に、ベニス郊外の職人が集まる街トレビーゾで創立しました。大量生産ではなく、使う人と作る人が 1 対 1 で対話することによって両方が満足するモノをつくるという精神が、ブランドの根源にあるのです。ですから、お客様と対話する機会となるタッチ ポイントは、特別な時間だと捉えています。お客様に疑問や悩みがあるならば、私たちは最高の応対でお客様と向き合いたいと考えています。ベルシステム24 は、中長期的な視野においてもそれが可能となるパートナーだと考えています」(杉本 氏)。

  • 株式会社ベルシステム24ホールディングス 景山 紳介 氏、デロンギ・ジャパン株式会社 杉本 敦男 氏

「本物以上」の 3D ホログラムを表示する HoloLens 2 の可能性

「場所や時間にとらわれず働ける環境を用意したい」「タッチ ポイントにおいて最高の顧客体験を提供したい」こうした両社の思いに応えるために選ばれたのは、MR (Mixed Reality : 複合現実) 技術を備えた HoloLens 2 の活用でした。

まるでバーチャル空間に飛び込んだような体験を可能にする技術を VR (Virtual Reality : 仮想現実) と呼ぶのに対し、MR は、いまここに見える現実空間にデジタルな表現を "重ね合わせる" 技術です。MR ゴーグルである HoloLens 2 を装着すると、何も無いはずの机上や空中にボタン、スクリーン、物体が表示され、押したり、つまんだり、握ったりできるようになるのです。またセンター内で働く場合も、自宅等で働く場合も、自分の周りの環境を同時に見ることができるのは非常に重要であり、その意味でも MR の技術が採用されました。

MR 技術はこれまで、大型設備の配置レイアウト検討や、遠隔地からの共同作業などに用いられてきましたが、ベルシステム24 とデロンギが目指す世界にはどのように貢献できるのでしょうか。

前述したように、高品質なサポートを提供するためには、「本物のコーヒー マシン」を手に取りながら対話していくことが必要でした。問い合わせのたびに多数のラインナップの中から製品を探して運ぶことには時間がかかり、顧客を待たせてしまいます。

しかし、HoloLens 2 を使えば、一つのジェスチャーでコーヒー マシンの 3D ホログラムを机の上に投影することができます。任意の方向に 3D ホログラムを動かせることはもちろん、拡大縮小も自由自在。筐体に邪魔されずに内部の機構をのぞき込むことや、その場で水を流すシミュレーションを行うことすらも可能です。

  • HoloLens 2 ならばボタン一つでホログラムを呼びだせる他、実際に給水を行うシミュレートも可能だ

    手元にコーヒー マシンを持ってきて給水機構を確認しながらサポートを行う様子 (上)。HoloLens 2 ならばボタン一つでホログラムを呼びだせる他、実際に給水を行うシミュレートも可能だ (下)。

景山 氏は、HoloLens 2 への期待をこう語ります。

「平面的なディスプレイで 3D 画像を見る技術はこれまでにもありましたが、我々が欲しかったのは『本物』でした。本物でなければ、トラブルの原因や細かい状況をきちんと説明することができなかったからです。こうした観点で HoloLens 2 がもたらしてくれたのは、現実感と合理性の両立による『本物以上』の業務環境でした」(景山 氏)。

杉本 氏も、初めて HoloLens 2 に触れた時に受けた印象を次のように振り返ります。

「HoloLens 2 を装着した時、思わず『凄い……!』と声がでました。あの時のワクワクは今でも忘れません。お客様から今まで聞いたことのない質問を受けたときは、誰でもドキッとしてしまうものですが、これを使えば『コーヒー マシンの中に入っていく』ことができるのです。複雑な箇所であっても、実際にその場で見ながら、動かしてみながら確認できるので、応対への自信が段違いに変わっていくでしょう」(杉本 氏)。

関係者すべてをモチベートする未来のテクノロジー

「コールセンター バーチャライゼーション」の仕組みは、ベルシステム24 とデロンギ、HoloLens を提供するマイクロソフト、そして MR とビッグデータをかけ合わせたソリューションを提供する Data Mesh、以上 4 社が共同する形で開発が進められました。現在、ベルシステム24 のコールセンターでは、この仕組みと HoloLens 2 を利用した POC (概念実証) が取り組まれています。

景山 氏は、「まずは一つの製品・一人のコミュニケーターでテストを行うことから始めていますが、HoloLens 2 を想定した応対スクリプトの制作や、既存システムとの連携を迅速におこない、2020年中には、複数の製品・複数のコミュニケーターで利用できるようにしていきたいと考えています」こう取り組みのロード マップを語りますが、POC 段階ながら、HoloLens 2 のテスト導入は現場に対しても大きな興奮をもたらしていると続けます。

「現場への新しいテクノロジー導入には様々な反応があるものですが、HoloLens 2 は『あっ、これお客さんのためになる!』『これがあると助かる!』という驚きをコミュニケーターの間で巻き起こしています。顧客応対とはこんなにも未来の仕事なのだ、私たちの業務はこんなにもワクワクするものなのだ、働きがいがあるのだと感じてもらえれば、コミュニケーションを通じて電話の先にいらっしゃるお客様にもその気持ちが伝わっていくと思います。そんな素晴らしいことを起こせる新たなテクノロジーが HoloLens 2 なのだと思います」(景山 氏)。

杉本 氏もこの景山 氏の言葉に同調を示し、さらにコールセンター以外でも HoloLens 2 は大いに活用できると期待を述べます。

「当社では新たな製品を市場へ展開する際、営業やマーケティングの担当者を集めた新商品勉強会を開催しています。ただ、半日から一日かけて行われるために全員のスケジュールを押さえること自体が大変ですし、一回話を聞いただけで覚えきれるものでもありません。実際に触って、色々なことを試して、自分ごととしなければ、真に製品の良さをお客様へ伝える事はできないのです。HoloLens 2 を使えば、場所も時間にも制限されず、製品トレーニングやフォロー アップをすることが可能になるでしょう。また、例えば店舗に HoloLens 2 を設置してお客様に仕組みを体験していただくようなこともできます。コールセンターにとどまらず、ステーク ホルダー全員の体験をワクワクさせてくれる HoloLens 2 は、デロンギのブランド メッセージである "Better Everyday : 日々の気持ちを、ほんの少し豊かに" にぴったりのテクノロジーです」(杉本 氏)。

  • 物理的に離れている人同士であっても、HoloLens 2 を介してまるで "そこにいる" かのような臨場感の下でコミュニケーションができる

    物理的に離れている人同士であっても、HoloLens 2 を介してまるで "そこにいる" かのような臨場感の下でコミュニケーションができる。遠隔でのトレーニングやチーム マネジメントにあたっても、HoloLens 2 は有用だ。

  • スマホやタブレットを利用し、同様の MR 体験を提供することで、製品が備える機能、機構を実際に顧客へ触れてもらうことも可能

    スマホやタブレットを利用し、同様の MR 体験を提供することで、製品が備える機能、機構を実際に顧客へ触れてもらうことも可能。デロンギでは、物理的なタッチ ポイントでのMR テクノロジー活用も視野に入れながら、同プロジェクトを進めていくという

HoloLens 2 で日本社会の課題を解消する

「都心で働いていたが、地方に帰ることになった」「足が不自由で、家から出ることが難しい」「もうリタイアしたけど、短時間であればまだ働きたい」。それぞれの事情を両立させながら、やりがいのある仕事に就くことは簡単ではありません。しかし、HoloLens 2 を活用した「コールセンター バーチャライゼーション」によって、新しい働き方の 1 つを日本社会に提案できると景山 氏は言います。

「HoloLens 2 は眼球の虹彩を読み取ってログインする機能があるので、その人でないと使えないように設定することでセキュリティを担保することができます。例えば介護などの理由で実家に戻ったとしても、勤務していたコールセンターと変わらない環境やセキュリティで、製品ホログラムを手に取りながら応対することが可能になるのです。我々が社会に提供する業務は、日本全体に存在する業務のうち、ほんの一部に過ぎません。ただ、新しい働き方を社会に示すことは、他の業界、他の企業が私たちの試みに共感するきっかけになると信じています。新しい波を生むことで日本を変えていきたいと、本気でそう思っています」(景山 氏)。

MR 技術と複数の企業が共同するパートナー シップによって、「コールセンター バーチャライゼーション」のプロジェクトは本格的に始動しました。ベルシステム24 とデロンギの挑戦は、社会を豊かにする働き方を私たちに見せてくれることでしょう。

  • 集合写真

    向かって左から、株式会社ベルシステム24ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 CEO 柘植 一郎 氏、デロンギ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 杉本 敦男 氏、DataMesh株式会社 代表取締役 王 暁麒 氏、日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務クラウド&ソリューション事業本部長 兼 働き方改革推進担当役員 手島 主税 氏。4 社が共同して進めている本プロジェクトが、社会に "働き方を変える波" を生み出していくに違いない。

[PR]提供:日本マイクロソフト