コンセプトを「腹落ち」させるために
――ビジョンを明確にするとともに、働き方改革に取り組むために必要なことはなんでしょうか。
溝口氏:
大石さんは日頃から肌で感じてらっしゃると思うのですが、日本ではクラウドの導入を始めとする「攻めのIT」に対して非常に消極的だと思います。情報通信白書の統計などを見ても、IT投資は横ばいで、仕事をするための道具に投資ができていません。「守りのIT」に閉じこもっているような印象すら受けます。
大石氏:
働き方改革で有名な企業も、おそらくはツールの導入にたくさん失敗しています。僕らも最初から順風満帆だったわけではありません。痛い思いをして、そこから次にどうしようかと考えるときが、組織としてラーニングできる機会です。Slackの導入もトライアンドエラーが基本でした。
溝口氏:
同感です。「流行のツールだからとりあえずSlackを入れてみよう」とした結果、展開が上手くいかず相談に来る方もいらっしゃいます。働き方改革が上手くいっている会社は、経営層をふくめて社員全員がコミットしていることが特徴だと思います。現場にだけ、人事にだけ何かやらせるのではなく、経営層も事業部門も、みんなが改革の目的とその手段の整合性について腹落ちして進めたところは、導入が上手くいきやすいです。
大石氏:
導入段階だけでなく、私たちみたいにSlackが定着しきっている会社でも、その作業は必要だと思います。私は週に一回、5分ほどですが「なぜ情報をオープンにしているのか」という考えを繰り返し伝えるようにしています。
ほっとくとみんなDMを使い出すんです。クローズドなやり取りなら「アレやっといて」で済みますが、誰にでも見せられるテキストをつくるとなると、頭を使いますから。でも、たとえ負荷がかかるとしても「過去にこういう議論が あって、こういうことが決まったんだ」ということを共有することで、会社のカルチャーがクリーンに保たれていくと考えています。
溝口氏:
たとえ繰り返しであっても、経営者から直接会社の考えを伝えることは非常に重要ですね。
大石氏:
「また同じこと言ってる」って、嫌がられますけどね(笑)。
溝口氏:
会社が大きくなればなるほど、どうしてもヒエラルキーというのはできてしまうものですが、それでもコミュニケーション上オープンでフラットな関係を保つためには、現場と経営層の距離を縮めることが大切だと思います。例えば、Slackでは「経営層に直接質問しよう」(#exec-ama)というパブリックチャンネルがあり、従業員はいつでも質問できて、経営層は原則として必ず答えなければならないというルールがあります。
大石氏:
私は社員のチャンネルを覗いて、リアクションだけ押すように心がけています。
溝口氏:
トップに「見てもらえている」ことは、心理的な安心感や自信にすごく繋がります。
企業文化を変えるのではなく、「スポットライト」の当て方を変える
――働き方改革を進める上で、具体的なヒントがあればお聞かせ下さい。
大石氏:
状況に応じてベストプラクティスは変わります。わたしは創業者でオーナーですから、トップダウンが早いですし、良いです。オープンな企業カルチャーを実現するためにSlackを導入する際は、社内のメールを禁止しました。“ 禁止する”ことがポイントで、メールとSlackを併存させると易きに流れてしまいます。うまくいってもいかなくても責任の取れる立場であるなら、「こうする」と決めて実行するのが一番です。
そうでないポジションの時は「サンドイッチ」が有効です。AWSを導入する際は、エグゼクティブスポンサーと現場の推進者を両方見つけて、サンドイッチで進めると上手くいきます。上から下からじわじわと展開して、気づいたらもうなっている、というのがベストプラクティスでしょう。
溝口氏:
まったく同じような趣旨のことを申し上げようと思っていました。私なりに3点にまとめると、このようになります。
①「何のためにやるのか、経営者をふくむ全社員が腹落ちして取り組むこと」 ②「創業精神や経営理念を今の時代に照らし合わせて再定義し、どこを手術すべきなのか見極めること」 ③「やらない理由を考えるのではなく、やるための方法を考えること」
いきなり完璧な「働き方改革」を目指すのではなく、前に進んでいく風土をつくるほうが重要だと思います。
大石氏:
「企業文化を変える」と考えると抵抗が大きくなると思いますので、そうではなく、「スポットライトの当て方を変える」と考えてみてはどうでしょうか。これまでは現場の流儀にスポットライトが当たっていました。これからは、オフィスで働くホワイトカラーの人たちが創造性を発揮して、ものづくりだけではない新しい付加価値をつくる。そういったスポットライトの切り替えを経営者がすることが大前提であると思います。
溝口氏:
あるグローバル大手企業の役員の方から聴いたことを思い出しました。「私たちは創業者の創業精神の字面に縛られすぎていた。それが今の時代に何を意味するのか、従業員が考えていかねばならない」とおっしゃっていたのです。会社の社是は、その時代に合わせて再定義していく必要があるということです。
Slackの推奨するモットーの1つは"Work Hard and Go Home!"です。今は「勤務時間中は最大限のパフォーマンスを発揮して良い仕事をし、終わったらきちんと家に帰り、仕事と家庭のバランスを大切にするもの」だと認識していますが、10年後は目的は同じでも、そのための手段はまったく別のものに変わっているかもしれません。
大石氏:
いい話ですね。成長を続けている会社の多くは、考え方やビジョンが素晴らしいものばかりです。オペレーションや企業カルチャーに対する見方を変えていくことは、常に必要であり、それこそが、「働き方改革」の源泉だと考え
ています。
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