アニメ、映画、演劇といったエンタテインメントは、従来、劇場や自宅など限られた場所で鑑賞するものでした。その制約を突破し、まったくあたらしい消費体験の創出に取り組んでいるのが、東宝です。「ゴジラ」など世界的知名度を誇るコンテンツを有する同社は、2018 年、「HIBIYA 2018」 と銘打った期間限定のプロジェクトをスタートしました。マイクロソフトの AI、MR(Mixed Reality : 複合現実) 技術を駆使することで、「エンタテインメント」と「リテール」を組み合わせた近未来の消費体験が生まれつつあります。

ネット ショッピングではできない「新たな消費体験」を提供

映画や演劇の製作、配給、興行と、不動産経営を主事業として展開する東宝。同社が近年注力しているのが、エンタテインメント・コンテンツとリテールの融合です。不動産領域にもエンタテインメント・コンテンツを活かしていくこの方針について、東宝株式会社 不動産経営部 東宝日比谷ビル営業室長の安武 美弥 氏はつぎのように説明します。

「ネットで買い物することがあたり前となった時代だからこそ、リアルな場所でしか体感することができない、まったくあたらしい消費体験を提供していかなければならないと考えています。たとえば、レストランやカフェの入店時に『待つ』ことは嫌なものですが、この時間を少しでも短くしたり、あるいは楽しい時間に変えたりすれば、それが『リアルな場所でしかできない体感』になるのです。この考えを発端として東宝では、2018 年度より『 HIBIYA 2018』 と銘打ったプロジェクトを期間限定でスタートしました。不動産業として文化的な街づくりを展開してきた経験があり、さらに数多くのエンタテインメント・コンテンツを有する東宝だからこそチャレンジできることだと思います」(安武 氏)。

東宝が本社を構える日比谷は、数多くの劇場、映画館が軒を連ねる、日本随一の芸術文化街です。2018 年 3 月には同社の運営する商業施設「日比谷シャンテ」が 30 周年リニューアルを実施。また、あらたに「東京ミッドタウン日比谷」もオープンするなど、日比谷はいま、大きな盛り上がりをみせています。上質なエンタテインメントを楽しめる街として、「日比谷を日本版ブロードウェイにしたい」と意気込む安武 氏は、「HIBIYA 2018」の詳細をこう語ります。

「『HIBIYA 2018』では、主に 2 つの取り組みを展開しています。1 つは、私たちが運営する日比谷シャンテの館内を舞台とした『Future Retailing』です。顔認証によって来館者 1 人ひとりにマッチする映画を AI が判断し、その予告編を B2F に設置しているデジタル サイネージヴィジョンで放映しています。シャンテに訪れる方は昨年対比で 150% に増大しています。それに伴って仮に混み合う待ち時間が生まれたとしても、館内のスペースで楽しくお過ごしいただけるようになっています。また、飲食店の空き状況をリアル タイムで表示したり、注文や決済をスマホ アプリで済ませられたりと、待ち時間そのものをなくすサービスも提供しています」(安武 氏)。

  • 飲食店のリアル タイムの待ち時間を表示するバカンのサイネージシステム (左) や、1人ひとりに合った映画をおすすめするアロバビューコーロのシステムを活用したディスプレイ(右)

    「Future Retailing」では、飲食店のリアル タイムの待ち時間を表示するバカンのサイネージシステム (左) や、1人ひとりに合った映画をおすすめするアロバビューコーロのシステムを活用したディスプレイ(右) など、エンタテインメントとデジタルを活用したさまざまなしくみを提供している

これまで日比谷シャンテを訪れていたのは、観劇を目的にした 40 代 ~ 50代の女性が中心でした。しかし、新たな街づくりによって、20 代 ~ 30 代の男女も数多く訪れるようになったと安武 氏。エンタテインメントとデジタルを組み合わせた「 Future Retailing」は、この双方から前向きな理解を得ることができ、結果良い反響が生まれているとつづけます。

「従来のお客さまの中にはスマホを持っていないという方もおられますが、デジタル サイネージで各店舗情報を空き時間も含めご案内できるようになったことで、これまで以上に使って頂きやすい商業施設になれたと思います。また、エンタテインメントを組み合わせたデジタル サービスによって、あたらしいお客さまの心を掴めているという感触もあります。私たちがこれまで大切にしてきたお客さまとあたらしいお客さま、それぞれにとって、魅力的な消費体験を提供できつつあるのです」(安武 氏)

現実世界と映画世界を重ね合わせることで、高さ 118.5 メートルのゴジラが日比谷の街に出現

「Future Retailing」と並ぶ「HIBIYA 2018」のもう 1 つの大きな取り組みが、屋外のイベント スペースで開催された「ゴジラ・ナイト」です。2018 年 5 月、東宝は日比谷シャンテ前広場「日比谷ゴジラスクエア」に期間限定の特設ステージを設置。現実と仮想世界を重ね合わせる Mixed Reality 技術によって、映画『シン・ゴジラ』の世界を追体験できるイベントを開催しました。

  • 日比谷のビルの谷間から高さ 118.5 メートルのゴジラが現れる……、映画の追体験ともいえる「ゴジラ・ナイト」は、150 名の定員に対して約1,500名もの応募が集まるなど、大きな反響をみせた

    日比谷のビルの谷間から高さ 118.5 メートルのゴジラが現れる……、映画の追体験ともいえる「ゴジラ・ナイト」は、150 名の定員に対して約1,500名もの応募が集まるなど、大きな反響をみせた

「ゴジラ・ナイト」は、東宝がこれからエンタテインメント・コンテンツを活用した新たな消費体験を提供していくことを象徴したイベントだといえます。映画館や自宅という旧来の枠組を超えて、商業施設やイベント スペースでも物語世界を体験できる。こうした取り組みは、まさに東宝ならではの試みでしょう。安武 氏はこの「HIBIYA 2018」について、マイクロソフトの持つ技術に支えられて実現できたと語ります。

「『ゴジラ・ナイト』でユーザーが装着する MR デバイスには Microsoft HoloLens を、『Future Retailing』の裏側で稼働する AI やサービス基盤には Microsoft Azure を利用するなど、マイクロソフトのさまざまサービスを利用しています。『HIBIYA 2018』は、エンタテインメント・コンテンツとリテールにくわえ、先進のデジタル技術も融合した取り組みだといえるでしょう」(安武 氏)。

"「Future Retailing 」と「ゴジラ・ナイト」の両方で、マイクロソフトのテクノロジーを大いに活用させて頂きました。技術だけでなくビジネスや企画の側面でも支援いただけたおかげで、「HIBIYA 2018」を実現できたと感じています。 "

-安武 美弥 氏:不動産経営部 東宝日比谷ビル営業室長
東宝株式会社

  • 安武 美弥 氏:不動産経営部 東宝日比谷ビル営業室長 東宝株式会社

たとえば「ゴジラ・ナイト」の場合、参加者は実際にゴジラと " 対決" する前、どのような手法で迎撃するのか、「日比谷ゴジラ迎撃作戦」の隊員に扮した俳優と「戦略会議」をおこないます。この際、Microsoft HoloLens を装着した参加者には、ゴジラの進行ルートや戦車、航空機の 3D ホログラムが机上に見えています。

  • 「ゴジラ・ナイト」は「戦略会議」と「実行」の二部で構成される。その「第一部 日比谷ゴジラ迎撃作戦 戦略会議」のようす。

    「ゴジラ・ナイト」は「戦略会議」と「実行」の二部で構成される。その「第一部 日比谷ゴジラ迎撃作戦 戦略会議」のようす。Microsoft HoloLens によって参加者の眼前に表示される情報は、手のジェスチャーで操作することができる

第一部の「戦略会議」では、手書きした文字が、画像情報として Microsoft Azure 上へ送信され、AIサービスである Cognitive Services の Custom Vision (文字認識機能) によって文字情報として変換。この情報をもとに "作戦情報" (ホログラム) が現れます。そして、第二部の「実行」では、Cognitive Services の Speech to Text によって日本語による音声コマンドを実現。「ミサイル発射!」という掛け声によってミサイルがゴジラに発射される仕組みになっています。

「ゴジラ・ナイト」の制作と運営を指揮した東宝株式会社 映像本部 映像事業部 映像企画室 企画制作グループ キャラクターチームの吉川 哲矢 氏は、マイクロソフトの技術によって、想像以上の満足感を参加者に提供することができたといいます。

「『ゴジラ・ナイト』の参加者の多くは、昔からゴジラをお楽しみいただいているコアなファンです。こうした目の肥えた方々にも、スクリーン越しに見るのとはまた違う『シン・ゴジラ』世界を追体験いただくこと、そして満足してもらうことをめざし、イベントを作り込みました。その甲斐あって、『迫力があって心臓がバクバクしています』『本当にゴジラがいるような臨場感があった』というたくさんの嬉しい声をいただけました。アンケートによると満足したという参加者は全体の 86% を占め、55% からは有料でも再度体験したいという回答を得られています。参加者同士で作戦を達成できたという『体験感』、目の前の日比谷に 118.5 メートルのゴジラが現れるという『現実感』、この 2 つを MR によって提供したからこそ生まれた反響だと思います」(吉川 氏)。

収集したデータを活用して、さらに魅力的なコンテンツ、売り場づくりへ

近未来の消費体験を提供する「Future Retailing」もまた、マイクロソフトの技術を駆使して実現しています。

たとえば AI で映画をお薦めする仕掛けでは、カメラによって撮影した来館者の顔情報を Microsoft Azure へ送信。これを Cognitive Services のFace API ( 顔識別) と Emotional API (感情識別) を使ったアロバビューコーロのシステムにより性別、年齢、感情を分類することで、各属性にあった映画の予告編をデジタル サイネージ上に放映していきます。また、レストラン&カフェの空席状況をお知らせする為に、バカンのシステムにより、待合椅子に取り付けたセンサーで人が座っているかどうかを情報化。 Microsoft Azure 上へとデータが送られ、処理結果がデジタル サイネージに表示されています。

  • AI の映画お薦めサービス (左) とレストラン&カフェの空席状況リアル タイム表示 (右) のしくみ。

    AI の映画お薦めサービス (左) とレストラン&カフェの空席状況リアル タイム表示 (右) のしくみ。クラウド、AI という先進の技術を駆使して、これらのサービスを実現している

  • 日比谷シャンテ B2F 「リンガーハット トウキョウ プレミアム」では、スマートフォン上で注文と会計が行えるスマートな飲食体験も提供

    日比谷シャンテ B2F 「リンガーハット トウキョウ プレミアム」では、スマートフォン上で注文と会計が行えるスマートな飲食体験も提供。「注文 0 分、会計 0 分」を掲げたこのしくみは、Microsoft Azure をプラットフォームとするボクシーズが開発するシステムによって実現されている。Microsoft Translator を実装することで、12 言語で注文、会計することが可能だ

東宝株式会社 映像本部 映像事業部の澁澤 匡哉 氏は、こうしたテクノロジーを活用することが、今後のリテールの発展にもつながっていくのではと話します。

「単に空席情報を表示する、お薦めの映画を流すのではなく、そこで得られたお客さまの反応を情報として蓄積し、分析する。これを以て施策の成果を検証したり、より魅力的な売り場づくりに活かしたりすることが、『Future Retailing』の最終的な目的だと考えています。ある作品の予告編を見て感情分析で満足度が高い方が多いのなら、公開に向けてグッズ売場の棚を拡充するなど、その反響を活用していけば、お客さまにもっと喜んでもらえると思います。将来的には、店舗側にも同じ仕組みを展開することで、たとえば服を薦められて本当に満足しているのかといったことも随時確かめることが可能です。こうした『データ活用』は、『Future Retailing』を発展させるための大きな強みとなるはずです」(澁澤 氏)。

  • (左)吉川 哲矢 氏、(右)澁澤 匡哉 氏

季節の移ろいによって消費行動は日々変化していきます。「Future Retailing」のようなデータを活用した売場づくりにおいては、できるだけタイムリーな情報を取得し、素早く PDCA を回してこれをリテールに反映していくことが求められます。

「その中では、『別の新たなデータを取得したい』『新しくこんな体験を提供したい』といった要望も数多く生まれると思います。クラウド サービスならではの素早さを活用することで、こういったシステム対応の時間も短縮できるのではないでしょうか。今回、このプロジェクトで Microsoft Azure にデータ収集基盤やサービス基盤を構築したことは、こういった観点でも大いに意義があったと思います」(澁澤 氏)。

つづけて吉川 氏は、リテール側だけでなくコンテンツ側にとっても、データ活用が有効であることを語ります。

「AI 分析で映画を観ている人の表情を分析すれば、監督のねらいどおりに反応しているのか、試写の段階で細かく確認することが可能になります。哀しんでいるのか、笑っているのか、その感情を把握することによって、プロモーション計画も立てやすくなるでしょう。『ゴジラ・ナイト』のような映画を追体験するコンテンツも合わせて提供できるようになったため、今後、スクリーンの中と外とを連携しながらお客さまの満足度をいっそう高められるよう、取り組んでまいります」(吉川 氏)。

待ち時間さえも上質なエンタテインメントにする、近未来の街づくりを展開

「Future Retailing」と「ゴジラ・ナイト」はともに、マイクロソフトの先進技術を活用してすすめられました。新たな消費体験の提供をめざした「 HIBIYA 2018」の成果について、安武 氏はこうまとめます。

「『HIBIYA 2018』では、観劇のお客さまやゴジラ ファンといった『昔から東宝を愛してくださっている方』だけでなく、若い方を中心にあたらしいお客さまにも喜んでいただけたことが各種データに現れています。リアルな場での飲食やショッピングは『楽しいもの』であるべきです。これを損なう待ち時間を最小化できる、あるいは待ち時間さえもエンタテインメント・コンテンツによって楽しくできるという意味において、『HIBIYA 2018 』には確かな手応えを感じました。もちろん、まだまだ改善、発展が必要ですが、マイクロソフトと協働していくことでエンタテインメント・コンテンツとリテール、デジタルの融合を加速させていきたいと思います」(安武 氏)。

「ゴジラ・ナイト」は 5 月 24 日から 29 日とわずかな開催期間にもかかわらず、定員の約 10 倍を超える応募があるなど大変な賑わいを見せました。日比谷シャンテの来館者数も、昨年対比で 240% と急増しています。「ゴジラ・ナイト」や「Future Retailing」を先駆けとして、「新たな消費体験」を追求する東宝の街づくりはますます拡大していきます。

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