さらに、カメラ「EX-SA10」を使えばさらに詳細なデータ分析も可能だ。
野嶋氏「CMT-S10GSETは、カメラ(EX-SA10)がなくても十分使えますが、お持ちであれば、撮影した映像とグラフを連動させるなどの連携機能も利用できます。ほかにも、自分のショットをログとして記録したり、現在のデータと比較して成長具合を確認することも可能です。また、アプリには武藤俊憲プロのスイングを計測したデータが収録されていますので、ご自分のスイングとグラフや数値を比較してみると、多くの発見があると思います。
たとえば、武藤プロはスイングの途中で腰の回転速度が止まるだけでなく、わずかに逆方向に回っていることがわかります。これが飛距離を生む秘密なんですね」
花ヶ崎コーチ「鞭を打つように、腰でしなりを生み出してショットしているんですよね。でんでん太鼓みたいに。これは映像を見ているだけではわからない。腰の回転をセンシングしているからこそわかる一例だと思います」
――「腰の回転」の重要性が大変良く理解できました。ところで、いかにしてこの新しい視点に行き着いたのですか?
野嶋氏「CMT-S10Gの発売後も、色々な人のデータのアーカイブやセンシングデータの分析を継続していました。この小さなセンサーが取得できるのは実に複雑膨大な生データで、それをどんな視点で切り分けていくかによって、計測する項目が決まります。これを様々な角度から行ったところ、200以上の項目について数値化できました。
その中から30項目くらいを選んで花ヶ崎コーチに見ていたいだたら、これは面白いと言っていただけて。それから何度かお話をするうちに、今まで使っていなかった数値も意味を持つことがわかってきました。そして、カメラで撮影しての分析とはまた違ったアプローチで使えるのではないかと考えるに至ったのです。何に使えるかあまりわからなかった数値も含め、花ヶ崎コーチの指導理論と合体することで、腰の動きに紐付けることができた。これが前回との大きな違いですね」
■数値とレッスンの融合が最大の効果を発揮する
――その指導理論が「腰の回転」の重要性だったんですね。
花ヶ崎コーチ「ゴルフに限らず、腰は多くのスポーツにとってエンジンみたいなものです。エンジンを回さないで打っても飛ばないし、エンジンの性能が上がれば、結果は大きく伸びます。レッスンでも上半身をいじるのは簡単で、初心者でも1カ月もあれば色々できるようになりますが、腰を回転させる、腰の回転スピードを上げるとなると3カ月はかかるんですよ。ですから、腰からフォームを作っていくことが重要なんです。僕らもレッスン初期に腕の動きは教えますけど、そこから先は、もう腰の動きしか教えません」
野嶋氏「昨年11月開催のカシオワールドオープン(男子ゴルフトーナメント)にも出展して、多くの方々に計測させていただいたのですが、統計上は、女性の方がふた山が多く出ました。これは、女性は男性に比べ腕力がないので、そもそも腕で振り回そうとしない人が多いからだと思われます」
花ヶ崎コーチ「そうですね。上半身に力が入ったら、まったく距離が出ませんから。読者の方々の中にも、軽く振ってみたら、いつもより飛んだ、という経験がある人は多いのでは。それは、肩に力が入らず、腰で振れているから。アマチュアの方は、まず力の抜き方を覚えるのが大切なんです。僕のレッスンでもHIP SPEEDERを使っていますが、グラフや数値を見ると、生徒のみなさんもそれを理解してくれるようになりますね」
――従来のレッスンだけだと、どうしても「感覚的に教わる」ことが多かったと思います。そこに、HIP SPEEDERの「説得力」が加わったというわけですね。逆説的に言えば、HIP SPEEDERで得られるデータをフル活用して実力を高めるには、やはり花ヶ崎コーチのような方のレッスンが不可欠とも感じました。プロのアドバイスがあるから、より一層理解できるんですよね。今回もコーチのお話が聞けたからこそ、より納得できる点が多かったと思います。
花ヶ崎コーチ「デジタルな数値と、しっかりとしたレッスンの融合が最大の効果を発揮する、ということですね。ただ腰をもっとギュッと回せ! とか言われてもね(笑)。その点、ひと山とふた山のグラフを見せれば、その違いはどんな初心者でもわかりますから」
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――では最後に、開発者として、読者にひとことメッセージをお願いします。
野嶋氏「エンジニアとして言うと、スポーツは科学。数値から分かることがたくさんあります。HIP SPEEDERのようなデジタルな手法でスポーツを科学的に研究して、上達する人がたくさん出てくれると嬉しいですね。理に適った最適な練習法を見出すことで、初心者の方でも、より効率的に上達できるようになるはず。そのために、カシオとしてもこういった製品を継続的に開発、発売していかなければと思います」