元マイクロソフト業務執行役員で、”プレゼンテーションの神様”としても知られる圓窓代表取締役 澤円氏は「新型コロナにより時代はリセットされ、データと通信がインフラになった。そこで重要なのは、DXはITやベンダーのものではなく、全員がDXの当事者だと考えること」だという。

本稿では、10月26日、TECH+が開催したオンラインセミナー「ローコード/ノーコード開発 Day 2021 Oct. 自社開発でビジネスを加速させる」の基調講演に登壇した澤氏が、「システム開発は誰の仕事か?~DX時代に求められるマインドセット」と題して語った内容をレポートする。

新型コロナによるリセットで、データと通信はインフラに

新型コロナが世界を襲った2020年は大きな変化の年となった。移動が制限された状況下にあっても、企業がある程度ビジネスを継続できているのは「データと通信」のおかげだ。デジタルが人類のインフラになった現在の状況を、澤氏は「世界がリセットされた」と表現する。

圓窓 代表取締役 澤円氏

圓窓 代表取締役 澤円氏

前回のリセットは、「1995年の『Windows 95』の登場」だと澤氏は語る。このリセットにより、誰もがインターネットに簡単に接続できる世界がもたらされた。電子メールの普及は、それまでの電話やFAX、手紙というコミュニケーション手段に新たな選択肢を追加し、ビジネスのスピードは大幅に加速した。

同じ頃登場したのが、「EUC(End User Computing)」だ。EUCでは、IT部門以外のユーザーが必要なシステムを自分で開発するのだが、クラウドコンピューティングが無かった当時、サーバやネットワークの設定、バックアップの管理、ワークフローの定義の難しさなどが障壁となり、爆発的な浸透には至らなかった。「その結果、多くの人々がExcelに行き着いた」と、澤氏はITの歴史の流れを説明する。

ECを使うことができる人は「IT音痴」ではない

新型コロナがもたらす今回の「リセット」により、今後、ITを取り巻く状況はどう変わるのか。澤氏はまず「14.8倍」という数字を挙げた。これは、2011年からの10年間で新たに生成されたデータの増加量だ。2011年は、今では我々の生活に不可欠な存在になっているコミュニケーションアプリ「LINE」が誕生した年でもある。また、この10年で電子商取引(EC)も普及し、コロナ禍でさらに利用が増えた。澤氏は「ECサイトで我々が買っているのは商品ではなく、コンテンツだ」という。リアルな買い物とは異なり、ECでは購入ボタンを押した途端に商品が自分の手元に届くわけではない。しかし「我々はデータを信じているので、買ったつもりになっている」(澤氏)のである。

日常生活でデータを信じることが当たり前になっているのであれば、ビジネスでも「データを直接見る文化を作る」「マインドセットのインフラを合わせる」というのが、澤氏の提唱するアプローチだ。加えて、澤氏は「”IT音痴”はNGワード」だと警鐘を鳴らす。

「ITは”読み書き・そろばん”と同じ。『私、IT音痴なんです』と言っているのは、世の中を支えるインフラを使えませんと言っているのと同じことです。日常生活でECが使えているのであれば、すでにITが使えている状態。それを仕事の中でもやりましょう」(澤氏)