ヤマハ発動機では、長期戦略の下、ダイナミックな成長の実現に向けて、「経営基盤改革」「今を強くする」「未来を創る」の”3つのDX”を同時並行で進めている。
TECH+フォーラム「製造業DX Day 2021 Sept.事例で学ぶDX推進~課題と成功の勘所~」では、ヤマハ発動機 執行役員 IT本部長 山田典男氏が登壇。「ヤマハ発動機におけるDXの取組み」と題し、これら3つのDXが進む背景や具体的な取り組み内容、今後の方向性について解説がなされた。
経営/事業部門と連携した体制整備
現在、ヤマハ発動機では、ランドモビリティ事業とマリン事業を中心に、ロボティクス事業や金融サービス事業など多種多様なビジネスを展開している。2019年度の連結売上高は1兆6648億円に達しており、そのうち海外売上比率が89.8%と非常に高い割合を占めているのが、同社のビジネスの1つの特徴となっている。
そんな同社において、従来、ビジネスは本社からのハブ&スポーク型で進められていたという。そのため、地産地消/大量生産が基本で、意思決定要件は拠点最適化の考え方に基づいており、それに伴うIT基盤も拠点/プロセス最適で構築されていたわけだ。だが、ビジネスモデルがプラットフォームモデル、グローバルモデルへと移行したことで、個別最適化されていたIT基盤が今度はビジネスの”足かせ”となってしまったのである。
「会社として『基盤改革』『モノづくりの高度化』『新たな成長戦略』を掲げているなかで、IT部門においても新たな技術を適用した従来とは別のアプローチが必要だと判断し、2016年から2018年のIT中期計画に反映しました」と、山田氏は振り返る。
ヤマハ発動機が手掛ける幅広い事業と業務プロセスを、ITによって横断的にサポートすべく、経営/事業部門と連携してデジタル活用を推進。さまざまな施策を展開していくなかで、2016年8月には全社横断のデジタル戦略コミッティを立ち上げ、IT部門内にデジタル戦略グループも新設したという。
ボトムアップ型からトップダウン型へのシフト
新たなデジタル/IT戦略を進めていくにあたり、同社のコーポレートフェローであり、元インテル役員である平野浩介氏の「経営と目線を合わせる」というアプローチが重視された。
「フェローの平野は、経営/ビジネスの在り方について十分な時間を使ってディスカッションし、目的意識を合わせることにまずは重きを置きました。どのような戦略を描き、その実行にはどのような課題があるのかなどを経営側と詰めていくことが、前段として非常に重要になってくるからです」と山田氏は語る。次に着手したのが、経営課題や戦略に対してデジタル/ITが成し得るインパクトを共有することだ。
「特にコロナ禍では、デジタル/ITの重要性が非常に高まっています。一方従来、ITはあまり表舞台には上がって来ることがなく、積極的な投資対象とは見なされないことが多いものでした。そのようななかで、フェローの平野は、経営課題/戦略に対してデジタル/ITが成し得るインパクトについてじっくりと経営と会話しました。このような観点で経営と認識を合わせることが、経営とDXを効果的に推進する上で欠かせないポイントだと考えます」(山田氏)
こうしてデジタル/ITが成し得るインパクトを共有するなかでは、「ITはコスト」から「ITは投資」だと意識を変えていくこと、そして、そのリターンについてしっかりと説明することが重要となる。コストダウン一辺倒のIT投資の考え方から、戦略的にリターンを狙う「攻めのIT投資」に変革することが、今後のビジネス環境を整える上で大きな鍵を握るからだ。
さらにヤマハ発動機が重視したのが、スタートアップにはない資産を活用することである。大企業がスタートアップと同じアプローチで競争するのでは、大企業側のハンディも大きくなる可能性がある。むしろスタートアップでは真似のできない、大企業ならではの販売網や顧客、技術力や人材といった資産を最大限に活かしながら、デジタル活用を成長につなげていくというビジョンを描き、経営陣と共有していった。
「経営陣からの理解を得られれば、DXは一気に加速します。まず経営陣と認識を合わせること、その上で経営やビジネスプロセスとITのグランドデザインを描くことの重要性を改めて認識しました」(山田氏)
こうした段階を経て、トップダウンで2019年1月にIT本部を、続く4月にはビジネスプロセス革新部を新設し、両部門が連携してデジタル戦略を進める体制が整ったのである。