「営業とはお客さまを訪問して足で稼ぐもの」――そう考えている営業担当者は多いのではないだろうか。もちろん、足で稼ぐのも営業の重要なスタイルの一つだが、それだけでは不十分なのが今という時代なのだ。

「営業にこそDXが必要」と主張するのは、元キーエンスで社内ベンチャー立ち上げや経営に携わり、現在はアペルザ 代表取締役社長 CEOを務める石原誠氏である。

これからの時代において、製造業の営業担当者はどのようにDXに取り組めばいいのか。9月7日に開催されたTECH+フォーラム「製造業 DX Day 2021 Sept.事例で学ぶDX推進~課題と成功の勘所~」に登壇した石原氏が語った。

製造業におけるDXの現状

石原氏は新卒でキーエンスに入社し、社内ベンチャー子会社の立ち上げに従事したことで、経営の奥深さや面白さを学んだという。キーエンスを退職後、複数のスタートアップ創業を経て、2016年にアペルザを創業し現在に至る。

アペルザは、製造業におけるDXを推進する2つのサービスを提供している。1つは企業や製品、サービスの認知度向上に役立つオンラインプラットフォームの「アペルザ」、もう1つは既存リスト客への営業活動を行うためのクラウドSaaS「アペルザクラウド」だ。

DXへの取り組みが広まる今、こうしたサービスを通して製造業を支援してきた石原氏は、現状をどう見ているのか。

「私が気になっているのは、企業によってDXの取り組みに差があるということです。ある会社がデジタルマーケティングを始めたり、SFAを導入したりしている一方で、別の会社はiPhoneを営業に配ったばかりということも珍しくありません」

石原氏

アペルザ 代表取締役社長 CEO 石原誠氏

実は、日本企業におけるDXの進捗は芳しくないのが現状だ。アビームコンサルティングの調査によると、年間売上1,000億円以上の大企業のなかでDXに取り組む企業はわずか1割未満、さらに成功率となるとわずか7%にすぎないという。

何が企業のDXの成否を分けているのだろうか。

石原氏は「デジタルリテラシーがDXの勝敗を決めているのでは」と予想する。というのも、調査の結果、「全社員へのデジタル教育」や「デジタル知見を有した経営陣による意思決定」、「デジタルとビジネス・業務知見を有した推進組織の組成」などの項目が、DXの成果と相関することが明らかになったからである。

石原氏はさらに、「そもそもDXとは単なるIT化ではない」と続ける。

「スウェーデンのエリック・ストルターマン教授によると、DXとは『ITの浸透によって、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること』を指します。つまり、DXには”イノベーション”が期待されているのです」

ガートナーの定義によると、IT化とDXはそれぞれ「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」という言葉で置き換えられるという。デジタイゼーションとは、プロセスそのものが変化するわけではなく、ITツールなどの導入により業務を効率化すること。一方でデジタライゼーションとはデジタル技術を活用し、ビジネスモデルそのものを変化させて新たな利益や価値を生み出すことを指している。言うまでもなく、前者が単なるIT化であり後者がDXに相当する。

「しかし」と石原氏は続ける。

「私はデジタイゼーションとデジタライゼーションのどちらも必要だと思っています。デジタイゼーションはいわば”守りのデジタル化”であり、デジタライゼーションは”攻めのデジタル化”です。まずはデジタイゼーションを進めて業務を効率化し、余力が生まれてきたら取り組むべきなのがデジタライゼーションです。その意味で、私はデジタイゼーションとデジタライゼーションの両方を含んでDXと呼ぶべきだと解釈しています」

特に石原氏が注目しているのが、製造業の「営業職」におけるDXだ。なぜなら近年、営業職の業務プロセスにも「地殻変動レベルの構造的変化が訪れている」(石原氏)からである。