再編が続く小売業界で右肩上がりに成長しているのがトライアルグループだ。7月14~16日にオンライン開催された「TECH+ EXPO 2021 Summer for データ活用」では、社名の通り挑戦(トライ)の文化を重視するトライアル ホールディングスが自社店舗、そして業界全体で進めているDXの取り組みについて、代表取締役社長 亀田晃一氏が説明した。

スマートカートの利用は4割に - 次はメディア化でGAFAの一歩先へ

インターネットやスマートフォン、直近では新型コロナがもたらした新しい行動様式など、常に消費者の行動変化の影響を受けているのが小売業界だろう。変化の激しい業界にあって、2002年よりほぼ右肩上がりで売り上げを増加させてきたのが、トライアルグループだ。新築での出店のほか、撤退した店舗の跡地を使うという出店方法もとり、食品スーパーとホームセンターの品揃えをした”スーパーセンター”を主力業態として展開することで地域のニーズに応えた。売上高は、2002年に200億円程度だったのが2021年3月期には5251億円に、店舗数は現在約265店舗となっている。

DXについて亀田氏は、2007年に登場したiPhoneが大きなきっかけだと語る。スマートフォンによって、消費者が手元でさまざまなものをコントロールできるようになったからだ。これがいわゆる第4次産業革命の幕開けとなり、IoTセンサーやビックデータ、AIなどの登場とあいまって移動、医療、学校などリアルの空間を動かし始め、「現在の店舗のかたちは約60年前から変わっていないが、店舗の在り方も変わるタイミングにきた」(亀田氏)という。

亀田晃一氏

トライアルホールディングス 代表取締役社長 亀田晃一氏

音楽がCD販売からダウンロード形式、そしてストリーミングへと変化しているように、流通業界は製品からサービスへと形態が変わりつつある。そんな中、小売業界はどう変わるのか――亀田氏は、その答えは「『顧客との継続的な関係性(エンゲージメント)』をいかにして作り上げるか」にあるとする。

では、どのように店舗の在り方は変わっていくのだろうか。トライアルグループが進めているのが「スマートストア」だ。例えば、タブレットとバーコードスキャナーを搭載した買い物カート「スマートショッピングカート」では、顧客は商品をカートに入れるときに商品のバーコードを読み込み、タブレットでプリペイドカードを使った決済ができる。

約3年前に導入したもので、導入店舗は現在45店舗、約4400台が稼働しており、導入店舗での利用率は40%を超える。顧客にとっては、レジで待つ必要がないことや、キャッシュレス決済が可能なことがメリットになると想定していたが、もう1つ意外な視点として「現在の合計金額がわかる」ことも評価されているという。

こうした技術を活用するメリットを享受できるのは顧客だけではない。例えば、スマートカートならば、従業員のレジ作業が軽減されることになる。また、売り場の確認にAIカメラを使うことで、目視による欠品確認などの作業も減るだろう。

「IoTなどの技術を使うことで、従業員にとってストレスが大きかった作業を減らし、本来やりたかった接客や売り場作りに力を入れてもらうことができます」(亀田氏)

スマートストア側での最新の挑戦は、”小売のメデイア化”だ。これは、買い物中の顧客の心理を分析して展開するマーケティング手法で、「ショッパーマーケティング」と呼ばれる。

人々が情報を得るメディアは、TVや新聞などのマスメディアからGAFAのデジタルメディアに移ったが、そこでは「過去にどんなものを見ていたかの情報」がベースとなる。これに対し、亀田氏は「リアル店舗は、お客さまが何かを購入するというタイミングの状況を理解した上でコミュニケーションを取ることができる」とし、「GAFAよりも1歩進んだメディアになるのではないか」と見解を示した。