小売店の数は25年間で45%減少している。特に、ここ10年で小売店を苦しめているのが「ショールーミング」という消費行動だ。EC化やスマートフォンの普及により、消費者はリアル店舗をショールームとして利用し、実際にはECサイトで購入するという傾向が強まっている。その一方で、アリババやAmazonなどIT企業によるリアル店舗への進出が相次いでいる。これからのリアル店舗の価値は、一体どこにあるのだろうか?

6月17日に開催されたリテールガイド×マイナビニュース共催セミナー「リテールDX2021 小売流通のDX経営最前線」では、リアル店舗の変革に取り組む次世代型ショールーム「蔦屋家電+」のプロデューサーであり、蔦屋家電エンタープライズ 商品部 商品企画Unit 新規事業Team Team Leaderを務める木崎大佑氏が、これからのリアル店舗の可能性や蔦屋家電+のビジネスモデルについて紹介した。

木崎大佑氏

蔦屋家電+ プロデューサー/蔦屋家電エンタープライズ 商品部 商品企画Unit 新規事業Team Team Leader 木崎大佑氏

“モノ売りからコト売り”への挑戦

蔦屋家電+は、東京 世田谷の「二子玉川 蔦屋家電」内に2019年4月にオープンした。蔦屋家電自体のスタートは2015年。「ライフスタイルを買う家電店」をテーマに運営されており、家電店のようでもあり書店のようでもある、これまでにない不思議な空間として注目を集めている。

蔦屋家電立ち上げの背景には、”モノ売りからコト売り”への変革を模索したいという思いがあった。木崎氏は「ECが主体になり、リアル店舗が置き換えられていくなかで、リアル店舗が生き抜いていく方法を考えていくために設立した店舗」と説明する。

蔦屋家電のコンセプトの根本にあるのが「ライフスタイル分類」という考え方だ。書店であれば、「雑誌」「小説」「漫画」といったように、物質的な分類で商品が陳列されているが、木崎氏はこれを「モノ軸の視点」と表現する。

一方で、蔦屋家電では、「食」「体を鍛える」「仕事をする」といったように、ライフスタイルの分類を大項目に掲げて、モノ軸にとらわれない発想で商品を分類している。例えば「食」の場合、食という大項目の下に「本」や「家電/雑貨」があり、「本」の下にレシピブックや食に関する小説/漫画など、「家電/雑貨」の下に炊飯器や茶碗/お箸、食材などが分類されていくイメージだ。

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ライフスタイル分類のイメージ

実際の店舗を見てみると、一般的な家電店では、「エアコン」「TV」といったかたちで商品の分類ごとに陳列されているが、蔦屋家電では、「リビング」というテーマを掲げた区画に、リビング用の家電商品を住居のように配置。キッチンコーナーでは、炊飯器の炊き比べやジューサーの作り比べを行うようなイベントなども実施している。「利便性ではなく発見/体験を大切にして売り場をレイアウトしている」と、木崎氏はそこに込められた思いについて語る。

こうした取り組みが話題となり、蔦屋家電は現在、年間700万人が来店する人気店舗となった。1店舗のみで年間200件以上のメディア取材を受けていることも特徴だろう。集客力やメディアへの発信力があることで、企業の新製品発表会やワークショップ開催に利用されることも多いという。一部の人にしか需要がなさそうなユニークなプロダクトを好んで販売していることも、蔦屋家電のメディア露出につながっている。

「蔦屋家電に話を聞けば何か新しいモノがあるのでは? という期待からメディアに声を掛けられることがよくあります。メディアで取り上げられれば、お客さまにも来ていただけるし、メーカーからの注目も集まります。空間価値をメディア化し、こうしたサイクルがうまく回るようにすることで、新たなビジネスモデルをつくっています」(木崎氏)