鈴廣かまぼこは、1865年創業の老舗かまぼこメーカーだ。元は網元だったが、1887年にそれまで副業としていたかまぼこ製造に軸足を移し、以降戦争など時代の荒波を何度も乗り越えながら小田原で事業を拡大してきた。

現在はかまぼこをはじめとする食品類の製造販売に加え、観光スポット「かまぼこの里」を展開。直売店やかまぼこ博物館、レストランの運営などを行っている。

150年以上の歴史を持つ同社だが、老舗ゆえの課題も抱えている。それは、60代以上の顧客の離反だ。さらにコロナ禍が重なったこともあり、同社は将来への危機感を募らせていたという。

2月2日に開催された「ローカルビジネスカンファレンス 2021」では、鈴廣蒲鉾本店 デジタルマーケティング推進担当部長 松井孝成が登壇。「コロナ禍における小売店舗の集客手法のリアルと今後の展望」と題し、次の時代を見据えて取り組んだDX施策について解説を行った。

老舗食品メーカーが抱えていた課題

デジタル活用のイメージが薄い鈴廣かまぼこだが、実は2000年頃にはオンラインショップを開設している。ただし、その位置付けは「食べておいしかったお土産のお取り寄せができるサイト」であり、事業の柱ではない。あくまでも観光需要の補助的な役割だった。

しかし、2020年に入り事態は一変する。コロナ禍により、観光スポットとして運営するかまぼこの里への集客に苦戦するようになったのだ。加えて、同社の既存顧客の利用会員数もじわじわと減少していた。理由は顧客の高齢化だ。もともと鈴廣かまぼこの顧客のボリュームゾーンは60代~70代で、80代以上も少なくない。亡くなる人もいれば、足腰が弱くなって店舗に来られなくなる人もいる。

「コロナ禍が原因で、高齢者の方が外出される機会はさらに減りました。そうなると、土産店など観光需要に支えられている店舗経由での売上は下がってしまいます」(松井氏)

会員減

同社にとって顧客の高齢化が大きな問題になったのは、若年層の顧客が育っていなかったからだ。かまぼこはおせちのイメージが強く、特に50代以下では日常的に食べる機会が少ない。そこで同社は、50代以下の層にアプローチすることで、生活の中にかまぼこを根付かせる必要があると考えた。

もう一つの課題として、コストを削減したいという思いもあった。これまで、顧客へのアプローチはDMやパンフレットの郵送、あるいは電話や外商の訪問などオフラインの活動がメインとなっており、特に季刊誌は年に4回発行するほど力を注いでいた。その制作費は、年間で1000万円にものぼっていたという。

50代以下へのアプローチ強化とコスト削減、この2つの事業課題を解消するため同社が取り組んだのがオンラインショップのリニューアルだった。

「ちょうど軽減税率に対応しないといけない時期で、そのためのコストが3000万円くらいかかりそうだという話でした。それなら、その3000万円を戦略的に投資するべきだと考えて、オンラインショップのリニューアルに取り組みました」(松井氏)

リニューアルのテーマは「かまぼこのある暮らし」。思わずかまぼこを食べたくなるようなシーンなどを提案し、日常的なかまぼこ需要そのものを増やすことを狙いとした。

シズル感のある写真を使って食べたくなる見せ方を演出したり、買いやすい導線設計でカート落ちの対策をしたり、送料込みセットを用意したりと工夫を凝らし、これまでにつかめていなかった50代以下の層へのアプローチを強化していった。

「オンラインショップ売上を構成するためのKPIは、流入や客単価、買い上げ率に設定しました。『流入』と言ってもコーポレートサイトからの訪問や、広告からの流入、メルマガ経由、SEO対策など、経路はさまざまです。広告運用に目が行きがちですが、実は自然流入のほうが売上へのインパクトがある可能性もあります。体系立てて検証し、改善していくことが重要です」(松井氏)