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課題解決アプローチ(2):組織のポートフォリオの決定とプロダクト志向

【連載】

SAFeでつくる「DXに強い組織」~企業の課題を解決する13のアプローチ~

【第9回】課題解決アプローチ(2):組織のポートフォリオの決定とプロダクト志向

[2021/02/25 08:00]篠崎悦郎 ブックマーク ブックマーク

前回解説したように、DXを実現して組織のアジリティを上げるためには、経営層の理解と現場の改革推進チーム(リーダー)の存在が不可欠です。一方で、彼らが組織の変革をいくら声高に叫んだとしても、「どのように変わるのか」「何を実現するのか」という戦略やポートフォリオビジョンが明確でなければ、変革への取り組みは”絵に描いた餅”となってしまいます。今回は、組織のアジリティを向上させるために、組織の戦略やポートフォリオ、取り組みをどのように扱うのかをご紹介します。

今回解決する課題

今回解決する課題は、次の3つです。

  • A-1:優先度の高いビジネスアイデアがあっても、開発の着手までに時間がかかる
  • A-2:新技術が登場しても、それを用いたサービスを他社に先駆けて生み出せていない
  • D-5:既存のレガシーシステムの維持/メンテナンスのコストが高く、DXに予算を確保できていない

組織のDXを推進するためには、経営層/リーダー層が具体的な「組織戦略とビジョン」を示した上で、市場や自社の状況に応じた「リーン予算編成(戦略とそれに伴う予算や体制の見直し)」が必要です。リーン予算編成では、プロジェクト単位ではなく価値のある活動単位で素早く資金提供を行います(詳細は、次回説明します)。

これを行うのが、下図に示す「SAFe Big Picture」の中の「ポートフォリオレベル」です。今回は、ポートフォリオレベルの核となる「リーンポートフォリオマネジメント(Lean Portfolio Management)」について概説をお伝えしつつ、そこで扱うものの中で特に重要な戦略テーマ/ポートフォリオビジョン/バリューストリームについて説明します。

SAFe

SAFe 5.0のBig Picture(Full SAFe Configuration)/出典:https://www.scaledagileframework.com

組織のポートフォリオを司る「リーンポートフォリオマネジメント」

第4回で触れたように、ポートフォリオレベルでは以下のような項目を行います。

  • 組織の戦略テーマとポートフォリオビジョンの確立
  • リーンな予算編成の実施とバリューストリームへの予算の割り当て
  • 組織の取り組み状況の評価と戦略の見直し

ポートフォリオレベルは、組織のアジリティ向上の中心的役割を担っていると言えるでしょう。ポートフォリオレベルを導入することで、以下の項目の実現が期待できます。

  • 企業戦略に沿ったビジネス価値の提供
  • 企業戦略に直結した予算配分の可視化
  • プログラムやソリューションへの権限移譲(予算配分)と、自律的な自己管理/自己組織化により、組織運営の効率化と顧客への価値提供の迅速化を推進
  • 市場の変化、企業戦略の変更に応じた予算配分の見直し

ポートフォリオレベルで特に重要なのが「リーンポートフォリオマネジメント」です。これは、SAFeのコアコンピテンシーの1つでもあり、ポートフォリオマネジメントにリーンアジャイルシステム思考を導入したものです。その取り組みには、大きく3つの取り組みがあります。

リーンポートフォリオマネジメント

リーンポートフォリオマネジメントの3つの特長/出典:https://www.scaledagileframework.com/lean-portfolio-management/

◆1. Strategy and Investment Funding:戦略と資金投資
組織の幹部/管理職、ビジネスオーナー、エンタープライズアーキテクトらが参画し、以下を行います。

  • 組織の戦略テーマとポートフォリオビジョン設定
  • (デベロップメント)バリューストリームへの予算配分
  • ビジネスエピック(組織として取り組むビジネステーマ)への投資判断

◆2. Agile Portfolio Operations:アジャイルポートフォリオオペレーション
LACE、リリーストレインエンジニア、スクラムマスターが連携し、ARTやソリューショントレインが協調しつつ、組織全体が目標に向かって業務を遂行できるよう、調整や支援を実施します。

◆3. Lean Governance:リーンガバナンス
LACE、ビジネスオーナー、エンタープライズアーキテクトが連携して、以下を行います。

  • ポートフォリオ全体の投資の割り当ての動的な調整(リーン予算編成)
  • ポートフォリオの投資期間ごとのフォーマンスの測定
  • 組織全体のコンプライアンスの継続的な担保

これらに取り組みつつ、結果と状況に応じて組織の方針を変えることで、アジリティを向上し、新しく必要なことにすぐ取り組めるようにします。

では、上述の1つ目の取り組みにある「戦略テーマ」や「ポートフォリオビジョン」、「バリューストリーム」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。その詳細を見ていきましょう。

組織の方向性を示す「戦略テーマ」と「ポートフォリオビジョン」

ここでいう「戦略テーマ」とは、企業戦略(中期経営計画など)に結び付いた、組織のビジネス上の目標であり、組織の意思決定の指針のことです。

組織は企業(または官公庁、非営利団体)の一部であり、企業戦略の実行の一翼を担います。そのため、企業戦略に結び付くかたちで、戦略テーマを決定します。企業の経営戦略、事業計画、経営課題に加えて、市場/競合の状況を入力とし、SWOT分析/TOWS分析などを用いて自組織の状況を明らかにします。リソースを集中するべき事業領域や顧客セグメントが定まったら、「自組織が提供できる価値」を検討し、今後1~2年での実現を目指す目標を戦略テーマとして設定します。この戦略テーマが、組織のあらゆるビジョン、予算配分、バックログなどの根拠となります。

一方で、「ポートフォリオビジョン」とは、戦略テーマに基づく、組織の将来の到達点です。その視覚化には、下図のような「ポートフォリオキャンバス」を利用します。

ポートフォリオキャンバス

ポートフォリオキャンバス/出典:https://www.scaledagileframework.com/portfolio-vision/

ポートフォリオキャンバスでは、組織が提供する価値が顧客まで届く流れ(バリューストリーム)や、それに関わるソリューション、顧客、チャネル、予算、KPIなどと、その実現に必要な主要な活動とリソース、およびコスト構造と収入源を明らかにします。なお、組織のポートフォリオは複数のバリューストリームで構成されます。

組織が提供する価値とその実現までのステップを明らかにする「バリューストリーム」

ポートフォリオキャンバスの項目の一つに、バリューストリームという聞き慣れない言葉があります。バリューストリームには、顧客の価値を届けるまでのステップとそれに関わる人々、およびソリューション(ITシステムなど)を洗い出す「オペレーショナルバリューストリーム」と、ソリューションの提供を実現するためのプロセスを洗い出す「ディベロップメントバリューストリーム」の2種類があります。2つのバリューストリームのイメージは、下図の通りです。

バリューストリームの全体像

バリューストリームの全体像/出典:https://www.scaledagileframework.com/value-streams/

また、バリューストリームを可視化する手法として、「バリューストリームキャンバス」を使用します。

バリューストリームキャンバス

バリューストリームキャンバス/出典:https://www.scaledagileframework.com/value-streams/

ポートフォリオキャンバス、オペレーショナルバリューストリーム/ディベロップメントバリューストリーム、バリューストリームキャンバスの作成時期や作成者を下表にまとめました。

  ポートフォーリオキャンバス オペレーショナルバリューストリーム/ディベロップメントバリューストリーム バリューストリームキャンバス
作成時期 SAFe 導入での「変革エージェントの教育」で状況に応じて作成。一定期間毎に継続的に更新 SAFe 導入での「バリューストリームの特定とARTの編成」で初期作成。その後継続的に更新 SAFe 導入での「バリューストリームの特定とARTの編成」で初期作成。その後継続的に更新
作成者 幹部、管理職、リーダーなど 幹部、管理職、リーダー、LACE、ステークホルダー 幹部、管理職、リーダー、LACE、ステークホルダー

SAFeは、これまでのITシステムの開発とは異なり、プロジェクト(期間と成果物の決まった開発)ではなく、プロダクト(価値を実現するソリューション)に焦点を当てています。その上で、プロダクトを考える際に着目するのがバリューストリームです。つまり、「組織がいつまでに何を作るか」ではなく「組織がどのような価値の提供をどのように実現するか」を意識しています。

加えて、予算配分に関しても、期間と成果物の決まったプロジェクトに予算を割り当てて完成を目指すのではなく、複数のバリューストリームの中から、その時の状況に応じてより価値を生み出すバリューストリームに対して重点的に予算を配分します。戦略テーマの下で、組織が提供する価値が最大となるように配分を見直すことで、変化に強いDX組織を実現します。

また、この考え方の中でもう1つ重要なことは、組織のポートフォリオの検討にソリューション(ITシステム)が含まれていることです。

これまで、特にIT業界でない企業においては、ITシステムが業務効率化の方法だと見なされ、新しいビジネスを生み出すものだとは認識されていない傾向にありました。その結果、IT予算の用途は従来システムの維持/管理に偏重し、新規のビジネス創出に関わるIT投資が積極的に行われていなかったのです。

現在多くの分野で、ITを駆使した新たなプレーヤーが市場に参入しており、ビジネスにおけるITシステムの重要性は高まっています。そのため、バリューストリームに着目する際には、戦略テーマの実現においてITシステムをどのように活用するかを考えることが求められます。また、ポートフォリオとは別に、ITの維持/改修コストを抑えるための方法として、変更に強いアーキテクチャ(マイクロサービスアーキテクチャ)を採用することが考えられます。「組織」と「システムのつくり」の両面から改善することで、より組織のアジリティを高めることが可能になるのです。

* * *

今回は、アジリティの高いDX組織を実現するための手法として「リーンポートフォリオマネジメント」を取り上げ、その中で用いられる「戦略テーマ」「ポートフォリオビジョン」「バリューストリーム」について解説しました。組織変革には、リーダーシップだけでなく、変革のための手段と、変革後の組織のビジョンが不可欠です。その1つの手法として、今回の内容が参考になればと思います。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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