2000年代に急激な進化を果たしたIT技術と、それを可能にした発想と思想を私たちはどれだけ理解できているだろうか。「この15年の変化を消化せずに未来を作ろうとすると、最新技術を使って1990年代のOA化と同じやり方をしてしまう」と語るのは、建築施工部門のASP・クラウド利用などによる業務改革を担う、大成建設 建築本部建築部企画室ICT業務改革推進担当チームリーダ 田辺要平氏だ。同氏は、1月28日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「建設業界のDX促進の方法論」で、今の建設テックに足りない考え方を指摘した。

田辺氏

大成建設 建築本部建築部企画室ICT業務改革推進担当チームリーダ 田辺要平氏

ITの発展により、ユーザーとシステムとの距離感が遠くなった

インターネットやPC、スマートフォンの登場により、ITの急速な進化が2000年代に起こった。そして、2010年代はこうしたITの活用が一般化した年代だったと言える。しかし、日本はこの世界的な波にうまく乗ることができず、IT活用が十分にできていないために生産性が上がっていないと言われている。

実際に1人あたりの国別GDPを為替レートの近い2000年と2018年で比較すると、米国や欧州、韓国などは大幅に伸びているが、日本はほぼ横ばい。現在の時価総額世界ランキング上位には、日本企業の姿はほとんどない。田辺氏は、こうした状況を「日本が『落ちた』のではなく、『置いていかれた』」と表現し、次のように考察する。

「携帯電話でのパケット通信が可能になった1990年代の時点で、モバイルデバイスで動画が視聴できるようになる未来は日本企業も予想できていたはずですが、現在、米Netflixのような動画配信サービス企業が伸びていることからもわかるように、そうした『答え』を知っているだけでは何の役にも立ちませんでした。未来を知っていることは、もはや当たり前。世界の企業が争っているのは、いつ、どうやって本気でやるかといった、タイミングと手法論です」(田辺氏)

そして田辺氏は、ITの発展によるユーザーとシステムとの距離感の変遷についても考察する。田辺氏の主張は、「かつては『プログラマー』という一言で済んでいた仕事がITの発展によって細分化されてきた」というものだ。

かつてマイコンが普及した時代には、ユーザー自身がプログラムを打ち込んで実行していたが、MS-DOS、Windows 95が普及した2段階目のフェーズでは、プログラムエンジニアが登場し、彼らが開発したシステムを購入することが当たり前になった。その際、システムからデータという概念が分かれた。

Windows2000、XPなどが登場した3段階目のフェーズでは、エンタープライズIT(情報システム部門)が生まれ、ユーザーとプログラマーの間に入るようになった。そして、システム側にはネットワークのレイヤが入り、プログラムエンジニアだけでなくネットワークエンジニアが必要になった。

そして、田辺氏によると、現代は4段階目のフェーズにあるという。UIデザイナー、スマートデバイスアプリ開発、フロントエンド、バックエンド、オーセンティケーション、ネットワークといった機能が、情報システム部門とユーザーインタフェースの間に登場してきている。

このように田辺氏は、コンピュータでできることが増えた弊害として、仕事が細分化され、ユーザーとシステムの距離感が遠くなってしまったと指摘する。

ITの発展によるユーザーとシステムの距離感の遷移

ITの発展によるユーザーとシステムの距離感の遷移