コロナ禍があろうとなかろうと、働き方改革は待ったなし。――こう語るのは、自身も時間の制約があるなかで長年仕事をしてきたというワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵氏。これまで1000社以上の企業に対してコンサルティングを実施し、顧客企業の残業時間を減らして業績を上げるためのサポートを行ってきた。

そうした経験や知見を持つ小室氏が、9月3日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「全体生産性から導く『働き方改革』主導法」に登壇。働き方改革における経営者への提案方法やマネジメントの在り方などについて解説した。

小室淑恵氏

ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵氏

人口ボーナス期と人口オーナス期

働き方改革の必要性を経営者が理解していないという悩みの声もあるなか、小室氏は経営層への説明の際に納得してもらうための根拠として、ハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が1998年に提唱した「人口ボーナス期」という考え方を紹介した。

人口ボーナス期は、生産年齢人口の比率が高まり、人口構造が経済的にプラスに働く時期のことを指す。インドや東南アジア諸国などは現在真っ只中にある一方で、日本の人口ボーナス期は1960年~90年代。ちょうど高度経済成長期と一致しているのがわかるだろう。

人口ボーナス期にある国は、富裕層が子どもへ教育投資し高学歴化が進み、人件費高騰や結婚/出産年齢が後ろ倒しになることによる少子化が問題となっていく。さらに医療や年金制度の充実により高齢化社会となり、人口構造が経済の重荷になる人口オーナス期へと移っていく。そして現在の日本は、まさに今、人口オーナス期に入っているという。

働き方改革は人口オーナス期にある日本で生き残るために必須

人口オーナス期にある日本が今後経済的に成長していくためにはどうすればよいのだろうか。小室氏は、2つのポイントがあるとする。1つは、生産年齢に該当するにも関わらず労働参画できていない人を労働力として確保すること。もう1つは、未来の労働力の確保だ。

「女性/障がい者/介護者などがドロップアウトしないような労働環境をいかにつくるかということが大切です。また、共働きを推進しながら2人以上の子どもを持てるような少子化対策を行っていく必要があります」(小室氏)

そして小室氏は、少子化対策のためには、子どもや女性の優遇よりもむしろ、男性の働き方改革が必須であると指摘する。夫が休日に家事/育児をする時間が長いほど第2子以降の生まれる割合が高くなるという厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」などの結果を、その根拠としている。男性が育児参画できるよう、長時間労働を解消しなければならないということだ。

人口ボーナス期とオーナス期では経済発展していくためのルールが異なる。ボーナス期ならば、なるべく男性が労働市場に出て、女性が家事育児を無償労働でと役割分担することが社会全体としては高効率となる。また、大量生産のニーズがあるなかでは、なるべく長時間/同じ条件で従業員を働かせた企業が勝つ。

「日本はこれを過去に類を見ないほど上手にやりとげた国。しかしそれは人口ボーナス期の人口構造があってこそ成り立つルールです。人口オーナス期は、昔の成功体験と決別し考え方を転換できた企業だけが生き残ります。勝ちにいくために働き方改革を行うべき、とシンプルに経営層へ説明すると良いですよ」(小室氏)

人口オーナス期における経済発展しやすい働き方として小室氏は、「なるべく男女とも働く」「なるべく短時間で働く」「なるべく違う条件の人を揃える」の3つを挙げる。人材の奪い合いが激しくなる状況では、男女問わず人材をフル活用する必要がある。介護で時間制約を持つ男性も増え、集中力を要する複雑な業務が増えるオーナス期には、少ない時間で効率的に働ける職場をつくり、しっかり睡眠を取ってミスなく質の高い仕事ができる環境整備が重要だ。

また、イノベーションを起こすには、多様な人材がフラットに議論をすることが重要だと言われている。小室氏は「ダイバーシティを意思決定層にも持たせなければならないが、時短勤務の社員は重要な仕事を任されず、昇進昇格もできないなど、ここでも働き方による門前払いが行われ、結果として意思決定層は24時間型男性のみという多様性のない状況になる」と、イノベーション創出という視点でも働き方を変えていく必要性があると説明する。