「SAFe」とは(その5)- SAFeの成果物/ツール

【連載】

SAFeでつくる「DXに強い組織」~企業の課題を解決する13のアプローチ~

【第6回】「SAFe」とは(その5)- SAFeの成果物/ツール

[2020/07/10 10:00]近藤陽介 ブックマーク ブックマーク

第3回で解説したように、SAFeの組織構造は最大で3つのレベル(ポートフォリオレベル、ラージソリューションレベル、エッセンシャルレベル)で構成されます。

今回は、各レベルで管理される「バックログ(要件)」について、その管理方法や階層間でのバックログの関係性、チーム間での依存関係を可視化するツールについて説明します。SAFeのコアバリューの一つ「Transparency(透明性)」を実現する手段を見ていきましょう。

ポートフォリオレベル

ポートフォリオレベルでは、バックログに関連するものとして「戦略テーマ(Strategic theme)」とバリューストリームを策定します。

戦略テーマ

戦略テーマとは、企業や官公庁/非営利団体などが立てる中長期的な計画や戦略などの全体方針を前提に、SAFeを適用する組織がどのようなビジネス上の目標を達成するかを定めたものです。全体方針や組織の現状分析の結果から、「どのような価値を顧客に提供するのか」「それにより組織がいつ/どのようなゴールを目指すのか」を明文化します。

戦略テーマは、次に説明するバリューストリームや、バックログを検討する際のインプットになります。また、今後の連載で解説する課題解決アプローチの「組織のポートフォリオの決定」や、「予算と体制の柔軟な変更」にも関わってきます。

バリューストリーム

SAFeでは、開発対象や体制、開発手順を考え、価値を最短時間で届けるフローを構築する上で、価値の流れである「バリューストリーム」に着目して考えます。

このバリューストリームには、次の2種類があります。

【オペレーショナルバリューストリーム】

顧客がきっかけとなる行動(トリガー)を起こしてから価値が届くまでに、その組織がソリューションを用いて実現するビジネスのステップとその運営に携わる人々から構成されるのが「オペレーショナルバリューストリーム」です。例えば、「銀行のカードローン」のストリームであれば、利用者が「お金を借りたい」というトリガー、「申し込み受付」や「貸付審査」「貸付」「返済」「解約」などのステップ、さらに、それらのステップを実現するための「信用審査」や「貸付管理」などのソリューションで構成されます。

【デベロップメントバリューストリーム】

オペレーショナルバリューストリームで特定したソリューションを開発/実装していく順序と、その実装に携わる人々から構成されるのが、「デベロップメントバリューストリーム」です。ソリューションが新しい機能を提供するにあたり、その実現に必要な活動を特定し、実施順序を明らかにします。また、その開発に携わるさまざまな拠点の開発者やスタッフ部門のメンバーを特定します。

ポートフォリオレベルでは、これらのバリューストームの分析を通じて、「どのような価値の提供」を実現するために、「どのようなソリューション」を開発し、それを「どのような体制(ソリューショントレインやART)とプロセス」で実現するのかを検討します。

オペレーショナルバリューストリームとデベロップメントバリューストリーム

バックログの概要と3レベル共通のステータス管理方法

SAFeでは、レベルごとに、実現するビジネスや実装する機能、実施する作業などをバックログで管理します。バックログとは、要件や完了条件を記述したもので、バックログを確認することでその組織やチームが何を実現/実装/実施するのかがわかります。また、それぞれのバックログではステータス管理も行っていきます。

バックログのステータスを可視化し、プロセス上のボトルネックを顕在化させる方法には、「カンバン」が用いられます。例えば、エッセンシャルレベルの各ART(アジャイルリリーストレイン)で利用するプログラムカンバンは、以下のようなイメージです

※ ステータスの種類と数は、レベルによって異なります。

プログラムカンバンのイメージ

ステータス 内容
ファネル 全ての新しい要求はここに入れます
分析 プロダクト「ファネル」のバックログの詳細化(要求の説明、ビジネス上の利益の仮説、受け入れ基準などの検討)が行われると、ここに移動させます
プログラムバックログ 「分析」から、プロダクトマネジメントが承認した優先順位の高いフィーチャーやイネイブラーをここに移動させ、優先順位付けも行います
実装 各PI(Program Increment)の期間にARTで取り組まれるフィーチャーは、 「プログラムバックログ」 からここへ移動させます。PI期間中は、チームバックログ上でストーリーに分割され、アジャイルチームによって実装されます
ステージング検証 プログラムマネジメントから承認(受け入れ)を受けるARTを「実施中」に入れ、承認されたら「Ready」に移動させます。ここで、再度優先順位付けを行います
本番環境デプロイ デプロイが可能なフィーチャーを「実施中」に移動させ、本番環境にデプロイします。デプロイが完了したら「Ready」に移動します
リリース 十分な価値、市場のニーズを期待できるフィーチャーをここに移動させ、仮説検証を行います。一部またはすべての顧客にフィーチャーを公開します。フィーチャーが「完了」状態に移行するまでに、フィーチャーに関して得られたフィードバックを基に新しい作業が作成されます
完了 フィーチャーの公開が完了し、得たフィードバックから継続してフィーチャーを提供するか改善が必要かの判断が終わったら、ここに移動します

カンバン上で管理するバックログのアイテムの名前と粒度、バックログ(カンバン)の名前や管理する単位は、レベルごとに異なります。それぞれを、以下の表にまとめました。

バックログのアイテム バックログ(カンバン)の名前 バックログ(カンバン)の管理単位
名前 粒度
ポートフォリオレベル エピック 組織全体としてビジネス目標のために取り組む事項 ポートフォリオカンバン(ポートフォリオバックログ) 組織全体
ラージソリューションレベル ケイパビリティ ソリューショントレインが開発するソリューションの要件/機能 ソリューションカンバン(ソリューションバックログ) ソリューショントレイン
エッセンシャルレベル ART フィーチャー ARTが開発するプロダクトの要件/機能 プログラムカンバン(プログラムバックログ) ART
チーム ストーリー プロダクトを実現するためのチームでの実施作業 チームカンバン(チームバックログ) チーム

なお、エピック、ケイパビリティ、フィーチャー、ストーリーを実現するために必要なアーキテクチャやインフラを整備する場合は、「イネイブラー」と呼ばれるバックログも合わせて各カンバン上で管理します。

また、レベル間でバックログには階層関係があり、上から下にブレークダウンして生成されます。よって、バックログの作成には各レベル間の連携が必須です。

バックログの階層構造

エッセンシャルレベル、ラージソリューションレベル

前回説明したように、エッセンシャルレベルにおいて、プロダクトの開発を通じて価値を提供するための体制がARTです。また、ラージソリューションレベルにおいて、プロダクトよりも大規模で複雑なソリューションを開発するための体制をソリューショントレインと言います。

1つのソリューショントレインには複数のARTが、1つのARTには複数のチームが含まれており、ART間、チーム間の依存関係を考慮した上で開発を進める必要があります。各ART/チームの開発スケジュールや、お互いの依存関係を表すツールとして、「ソリューションボード」と「プログラムボード」を用います。

ソリューションボードは、ソリューショントレイン内のARTごとの予定とART間の依存関係を記したもの、プログラムボードはART内のチームごとの予定とチーム間の依存関係を記したものです。いずれも、開発期間の最初のプランニングのイベントや、開発期間中の状況確認/意識合わせのイベントなどで使用します。

例として、以下にプログラムボードのイメージを示します。

* * *

今回は、SAFeの階層間のバックログの関係性やバックログの管理方法、チーム間の依存関係の可視化方法について見てきました。ここでのポイントは、「あらゆる階層において、バックログの関係性や状態が可視化されている」ということです。バックログやカンバンボードなどで情報を可視化し、共有することで、SAFeの定めるコアバリューの1つであるTransparencyが実現されます。可視化/透明性は信頼関係の源泉であり、顕在化していない問題に気づくための重要な手段でもあります。

次回は、SAFeの中で定義されている主なイベントと、その中でも最も重要なPIプランニングについて見ていきます。

著者紹介


近藤陽介 (KONDOH Yohsuke) - NTTデータ システム技術本部 デジタル技術部
Agileプロフェッショナルセンタ

総合的な顧客体験・サービスの創出のための「方法論」、それに必要な技術・ツール・環境をすぐに利用できるようにする「クラウド基盤」、そして、それらを十分に活用するための「組織全体にわたる人財育成やプロセス改善のコンサルティング」を提供することでDXを支援するデジタル技術部に所属。

業務では、このうちの「コンサルティング」において、大規模アジャイルフレームワーク「Scaled Agile Framework(SAFe)」などを活用し、DXを実現しようとする企業が抱える課題を解決するためのアプローチを共に考え、お客様の組織/プロセスの変革を支援している。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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